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Invisible  作者: Persy
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episode01-女神との邂逅

 意識が浮上する。


 あれ、……何で俺寝てんだっけ?

 廻らない頭で考えながら、ここに至る経緯を思い返してみる。


 そうか!!俺トラックに轢かれたんだ!あ~あ、もっと生きたかったなあ……チクショウ。なんか瞼が重くて目が開かないから、周りの様子もわかんないし、目を開けたらお花畑とか賽の河原とかだったら勘弁してほしいなあ……。

 

「……きて」


 んん?


「……きてよ」


 なんか聞こえる。お迎えの天使ちゃん?


 何者かに体を揺さぶられながら、そんな風に頭の悪い感想を抱いていると。


「起きてって言ってんでしょうが!この寝ぼすけ勇者があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぐふぉあああああっ!」


 そのアンノウンらしき物体が、腹の上にダイブしてきた。

 その衝撃で完全に覚醒した俺は、腹の上のアンノウンの暴挙に文句を言おうとして、その姿を確認すると


 言葉を忘れてしまった。


「ちょっと!起きてんでしょ!呼んでるんだから、さっさと返事しなさいよ!」


 彼女が何かを言っているが、気にならない。だって目の前にいるのは


「むー。てこでも無視する気ね!少しぐらい反応してくれたっていいじゃないのーー!」


 ―――――天使じゃなくて、銀髪の女神だったのだから。




 数分後。腹と視覚情報の衝撃から脱した俺は、目の前の少女はひとまず置いといて、現状を確認してみることにする。

 

 Q.1何故俺は生きている?

 確かに俺はあの幼女を助けてトラックに轢かれたはずだ。あの距離では、奇跡的なアクロバティクを決めたとしても衝突は避けられなかっただろう。

 しかし、俺は自分の体を見たり動かしたりする限り、五体満足なのは否定しようがない。まあ、ここがあの世とかではないと確認できてない以上、生きているとは暫定的に考えておいた方がいいだろう。


 Q.2ここどこだ?

 周りをぐるっと見渡してみると、どうやら薄暗い遺跡みたいだ。なんで遺跡と思うかは、建材が石の上にツタやらコケやらが所々に群生して、古めかしく見えるからだろう。

 何より俺の寝転んでいるこの場所がなんか一段高い祭壇みたいになっているし、四隅にはゴツイなりをしたゴーレムっぽい石像が配置されている。RPGの想像通りのゴーレム……うーん、ファンタジー。


 Q.3この少女は何者だ?

 さっき一目見たとき、あまりの衝撃で女神などと夢想し硬直してしまったが、あながち間違いではないと思う。


 そんなことを思いながら、いまだに腹の上で喚く少女を観察する。

 身長は座ったままでわかりにくいが160㎝ぐらい、輝くようで流麗な腰まで伸びる銀髪に、大きくまるっとした銀色の眼、透き通る鼻梁に、小ぶりな唇、アルビノと見紛うような白い肌、そして、極めつけは目の前で荒ぶる少女が動くたびに揺れる双丘、最低でもEはあろうかというその禁断の果実をゆっくりと鑑賞する。……ohーマーベラス。

 まあ、こんな感じでちょっと現代日本どころか、世界でもお目にかかれないレベルの美少女だ。そのレベルの彼女が腹の上でたわわな実りを見せつけるものだから、下半身が反応しそうになるのを理性を総動員して押さえつける。ふう、厳しい戦いだぜ。


 なんか、俺のお迎えにしてはちょっと様子がおかしいので、この娘の正体は本人に聞いてみよう。


 Q.4視界左下のゲージはなんだ?

 これは俺が最も疑問に思ったことだが、起きてから視界の左下に2本のゲージが見える。視線を動かしてもついて来るから模様とかでもなさそうだ。そこには、


 Name:キョウヤ ツバキ

 Lv  :1

 HP  :100

 MP  :100


 と書かれている。


 ……なんだこれ?

 おかしくない?いつからあの世はゲーム仕様になったんだ?魔王倒したらご褒美に転生とか?……はは、まさかね。


 この時点でここが現代日本という選択肢は消えた。なぜなら俺のいた世界ではまだVRシステムなんて開発されてなかったはずだ。もし軍とかが開発してそれを秘匿していたとしても、平凡な一般人の俺にあてがうとも思えないし、それをする必要もない。


 いやね、目が覚めたのが事故現場か病院でない時点で、俺が普通に生きてるとは思いませんでしたよ。……でも諦めきれなかったんだもの!気づいてないふりでしたとも!ええ!


 しばらく現実逃避をしていると、いつの間にか少女が静かになっていたので、一旦思考を戻して彼女を見てみる。


「……グスッ……グスッ……勇者のバカぁ……グスッ……」


 ……どうやら、俺が無視し続けたせいで寂しさに耐えきれなかったようだ。

 少し罪悪感を感じるので、少女が泣き止むまで慰めてやる。メンタルよえぇ……



 しばらく泣いてから、目を赤く腫らしながら少女が取り繕うように咳払いして話し出した。


「コホン。それでは改めて……初めまして、私の勇者。私は美と継承の神フォルティナ。あなたには、私の授ける勇者の力をもって邪神を討滅して貰うわ!もちろん―――」

「お断りします」


 最後まで言葉を紡がせることなく、出口らしき方向に向かって駆け出す俺。うん、俺史上最高の速さだ。今なら風にさえなれる気がする。さあ!!いざ行かん新しい地へ―――


「って、ちょっと待てええええええいっ!」

「チィっっ!」


 俺に話を遮られてポカンとしていたのも束の間、自称女神が予想以上の速さで追いすがり、俺の服の裾を掴む。


「どうして逃げるのよ!」

「目の前にヤバいやつがいるからですけど!?」

「はあ!?もしかしなくても私のこと!?」

「そうだよ!他に誰がいるってんだよ!」

「なあんですってええええええ!」


 神秘的な容貌とは裏腹に、激昂する自称女神。子供みたいに癇癪を起して俺に迫ってくる。


 怒らせた俺も俺だが、考えても見てほしい。意識不明のまま所在不明の地で目を覚まし、目の前にいた正体不明の女が自分は女神だとか言いながら、妄言を垂れてくる。


 ほら、どれほど俺の自己防衛本能に基づく逃走劇が正しいかわかるだろう?


 だいたい、中学時代の経験から初対面の人間には常に注意を払ってきたのだ。こんな頭の中お花畑なことをほざく女を警戒しないわけがない。

 とは言うものの、放っておくとまた泣き出してしまう可能性が非常に高いため話を聞いてやる。


「とりあえず落ち着け、な?」

「落ち着いてるわよ!心拍数140ぐらいで落ち着いてるわよ!」


 バリッバリ焦ってんじゃないか。それとも高血圧か?


 いつまでも落ち着く様子がないので、深呼吸をするよう促す。


「はい、吸って―、吐いてー、吸って―、吐いてー、吸って―、吸って―、吸って―」

「すー、ふー、すー、ふー、すー、すー、すー……ゴハッ!」

「何させんのよ!」


 騒がしいやつだ。


 このままだと話が進まないので仕方なく妥協する。


「で、お前の言う設定の話だが……」

「設定じゃないわよ!事実を言ってるだけよ!」

「……えっ、マジなんすか、スゲーっすね。」

「あなた、全く信じてないでしょう」

「うん」

「むううううううううううっ!」


 いや~、信じろっていう方が無理だろう。こいつの女神って設定からして、見た目以外は何一つその証左がないわけだし。これに引っかかったら怪しい宗教勧誘に乗せられちゃうよ。


「それで、自称女神」

「自称って何よ!本物なんだから!」

「自称女神」

「はあ、……もうそれでいいわよ」


 おっ、折れた。


「とりあえず、お前の話を聞くのは後だ。まずは俺の質問に答えろ。でなけりゃ、俺もお前の話は聞かない」

「はいはい、それで何が聞きたいの?」

「まず、俺は生きてるのか?俺はトラックに轢かれて死んだはずなんだが」

 

 俺の質問に対し、肩を震わせながら答える自称女神。


「……ぷぷっ……五体満足で座ってるくせに、俺は生きてるかだって……ぷぷぷ」


 っこのやろうっっ!


 一瞬、また泣かしてやろうと復讐心が鎌首をもたげるが、心の中で押し殺す。こいつと同じレベルには堕ちない!絶対にだ!


「……笑ってないで答えろ」

「ふー……そうね。確かにあなたは生きてるわ。―――この世界では。」

「は?」


 今、不思議な言い回しをされ、俺は耳を疑った。『生きてるけど、この世界では』?どういうことだ?ここはあの世でも、俺の知ってる世界でもないのか?それともやはりこいつ頭が……


 俺は訝しみながらも続きを促す。


「それで、この世界……とはどういうことだ?ここは地球じゃないのか?」

「チキュウ?何だか知らないけど、この世界は『アイネス』っていう名前だけど?」


 ohージーザス……。こいつは既に世界の名前を脳内変換するほど末期だったとは……少しは優しくしてやるべきなのかもしれない。


「……なに優しく可哀そうなものを見るような目でこっち見てるのよ。あなた、また信じてないんでしょう」

「いや、大丈夫だよ。大丈夫だからね。」

「なにが大丈夫なのよ!私はこの通り正気よ!!だからその目をやめなさいよ!」

「大丈夫だよ。大丈夫だからね。」

「うるさいわね!私はまともだって言ってんでしょ!」

「ダイジョウブダヨ、ダイジョウブダカラネ。」

「むきいいいいいいいいいいっ!」


 おお、本物の神よ、ついに彼女は狂気に呑まれて叫びだしてしまいました。どうかこの哀れな少女に一片の慈悲を。


「もう怒った!あなたに私が本物の女神だっていうことを見せつけてやるわ!」


 自称女神が絶叫して何か言い出す。いやいや、もう何をしたところで……


 「……」


 んん?なんか呪文っぽいのを唱えているが、俺にはさっぱり理解不能だ。やはり彼女の脳内言語なのだろう。かわいそうに……


 「……」


 そんなことを考えながら彼女に憐みの眼差しを向けていると、最後の呪文を口にする。


 その瞬間――――――


「……ブレイブサクセッションっっ!」


 ――――――俺は流れ込んでくる光の奔流に飲み込まれ、意識を手放した。

 

 



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