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Invisible  作者: Persy
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プロローグ-不思議なメダリオン

「う~ん……どうしようかなあ……」


 薄暗い、けれど岩の隙間から差し込む陽光のおかげで少しばかり明るさと暖かさに包まれた石造りの空間の中で、一人の少女が呻っていた。


「まずいなあ~……もう時間ないよう……」


 少しばかりの焦燥と不安を含んだ声で悩み続ける少女。祭壇と言ってもいいような様相の舞台の上で転げまわる。

 

「う~……ん?」

「そうだ!いないなら呼べばいいんじゃない!」


 何かを思いついたのか、ぴょんと跳ね上がり、祭壇の中央に備え付けられた球体に手を掲げ呪文を唱え出す。


「……サーチクアリフィケイション」


 そして、最後の言葉を言い終わると、その球体の中にぼんやりと一人の少年が映し出される。


「やったー!やっぱり、私の思いつきに狂いはなかったわ。これでやっと解決するっ!」


 自画自賛しながら、喜びを胸に跳ね回る少女。その顔には、もちろん喜びとわずかながら安堵の色が見える。


「ふふふ……さあ、いらっしゃい!私の勇者」

「……サモンブレイバーっ!」


 少女が並外れた長さの詠唱を終え、最後の言葉を言い放つと、祭壇は閃光に包まれた。





「ナ~オ」


 そんな間延びした猫の声が聞こえる放課後の帰り道。人が行き交う商店街で買ったコロッケを齧りながら、猫用に常に持ち歩いているニボシを猫にギブする。何故ニボシを常帯してるの?とは聞かれても、猫好きだから!!としか答えられないので見逃して欲しい。

 

「Excuse me?」(ちょっといいかい?)


 ゴロゴロ喉を鳴らしながら嬉しそうにじゃれついてくる猫を撫でていると、ふとこれぞ旅人!と言わんばかりの風貌をした金髪の兄ちゃんが話しかけてきた。観光かな?


「Well...I'm losing my way.I want you to tell me the way to Pell Aquarium...Do you know it?」(ええっと、道に迷ってるんだけど、ペル水族館への道を教えてくれないかな?わかるかい?)

「I see.Would you wait for a short while?I'll show you...」

(わかりました。ちょっと待ってくださいね。ここからですね……)


 まあ、そんなこんなで道案内を終えると兄ちゃんが大げさに感激しながらお礼を言ってくる。よっぽど話の通じる人に巡り合えたのが嬉しかったらしく、ちょっとこっちが引いてしまいそうな喜び方だ。よくこんなメンタルで一人旅してるな……

 しばらく兄ちゃんの鬱陶しいジェスチャーを流していると、背負っていたデカイリュックサックから何かキラキラしたものを取り出して俺に渡してくる。


「What's this?」(これは?)

「It's a medallion I discovered in a remain,but no one can make out the sentences and picture carved on the surface.Will you receive it by way of appreciation for your kindness?」(私が、とある遺跡で見つけたものなんだけど、誰も表面に彫られた文章と絵を解読できないのさ。道案内のお礼に貰ってくれないかい?)

 「fm...Ok」(はあ、わかりました)

 なんか道案内のお礼に光沢はあれど、よくわからない文字と絵の刻まれたメダルを貰ってしまった。確かに綺麗は綺麗なんだが、刻まれた文字は俺の見たことがない文字だし、デザインされた絵も女性がモチーフということしかわからない。てか、道案内しただけでよく人に正体不明のメダルなんか渡すな……

 道案内を終えて、猫のいたほうを見てみると、いつのまにか餌にやったニボシと一緒に姿を消していた。メダルを胸ポケットに入れながら、その事実にちょっとしょんぼりする。

 仕方ないので、脇に置いた鞄を肩に掛け直して帰路につく。

 おっと、そろそろ道すがら独白的な自己紹介をば。

 俺の名前は椿恭夜。平々凡々な日常をこよなく愛する普通の高校二年だ。だが、少しだけ一般的な日本人からはかけ離れたものがある。それは、容姿だ。

 真っ当な日本人名にも関わらず、金髪碧眼に高い整った鼻梁、彫りの深い顔立ちながらも、ふんわりした印象を抱かせる(友人談)、いわゆるハーフ顔のイケメンって顔だ。

 俺の両親は、父がイギリス人で、母が日本人という典型的な国際結婚夫婦なのだが、そのおかげでこんな顔立ちになり、家の中の会話が英語と日本語の入り混じった感じのため、さっきみたいな道案内ぐらいはできるようになったって感じだ。

 俺自身この顔に産んでくれた両親に含むところはないし、身長も親父に似たのか180㎝ぐらいの長身ではあるのだけど……。

 何故こんな不満そうな言い回しをするかと言うと、この容姿に対する周囲の反応のせいである。



 中学時代、当時でも170㎝ぐらいだった俺は、クラス、そして学校中で知らぬ者はいないほどのモテ度を誇っていた。もちろん女子にチヤホヤされるのは嬉しかったし、ロリコンでもホモでもない俺は群がってくる娘の中の誰かと付き合おうと、気に入った娘に声をかけてみたりもしてみた。しかし、翌日からその子は何故か俺の周りに近づかなくなった。

 理由はすぐに判明した。ある日の放課後、やはり彼女のことが気になった俺は彼女を探しながら校内を歩いていた。すると、もう誰もいないはずの教室から何やら剣呑な声が聞こえてきたので、こっそりと耳を澄ましていると。


 「ちょっとさあ~、あんた恭夜君に、ほんのちょ~~ぴり気にかけてもらえるからって調子乗ってんじゃないわよ?」

 「そうそう、清純そうな顔してなんか色目でも使ったんでしょ?」

 「ホントよね~。あんたみたいな女、恭夜クンにふさわしくないのよね~。だからさあ、もう恭夜クンに近づかないでくれない?」

 「わっ、私そんなっ、恭夜君に色目なんて……」


 三対一の構図で探していた娘が、俺のとりまきの中心メンバー三人に詰め寄られている。今にも泣きだしそうな彼女と対照的に嗜虐的に責め続ける三人。しばらくそのやり取りを眺めていると、ついに彼女が泣き出してしまう。


「……グスッ……うう……グスッ……」

「あ~あ、泣いちゃったよ。……ぶふっ」

「ちょっと、……くくっ……笑っちゃ……ふふふ……かわいそうじゃ……くくくっ……ないの。」

「あんたたちひっど~い……ハハハ……」

「って言いながら笑ってんじゃん!」

「あんたもだよ~」


 酷薄な表情で哄笑を続ける三人。その様子を自分とはかけ離れた世界に思いながら、急速に心が冷えていくのを感じる。もう一秒たりともその場に居たくなかった俺は、踵を返して教室に背を向けた。みっともない言い訳かもしれないが、あの場で彼女を助けたとしてもイジメが苛烈化するだけだし、災禍の根源たる俺が出ていけば、確実に話がこじれただろう。


 何より、心の醜さを描いたようなあの光景を俺は見て居たくなかった。


 翌日には、やはり彼女は俺の前に姿を見せず、かわりに昨日のあれは別人だったのかと勘違いさせるような表情と仕草で俺に群がる三人がいた。

 その様子を見た俺は、何かがパリンと心の奥底で壊れるような感覚を覚えた。

 

 その時から、俺は「空気」になった。


 空気と言っても、モノホンじゃない。クラスに一人はいる異常に影の薄い奴ってことだ。

 誰の言葉にもそっけない返事をし、とにかく目立たないよう、目立たないようにと心がけて生きてきた。すると、容姿だけで俺に群がっていた女どもはいなくなり、友人も俺の性格だけで付き合ってくれるやつ以外は離れていった。

 けれど、俺は凄く満足だった。もう、あの光景を見ないで済むのだと思って。



 そして現在。こんな経緯を持つ俺はあの時から絶賛空気中だ。俺は今に満足しているのだが……


 少し問題が発生していた。かれこれ三、四年も空気生活をしている俺は、そのスキルに磨きがかかったのか隣にいる人にすら気づかれないことが多い。

 最初は新手のイジメかと思っていたのだが、周囲を観察すると、どうもそういう感じではない。たまにマジで俺自身見えてないのかとか思うけど鏡に映るからそんなことはないようだ。ワタシはココよ!!

 まあ、問題と言っても猫や自動ドアは気づいてくれるし、声をかければ五分五分の確率で気づいてもらえる・・・普通は100%かもしれないが……

 適当に考えを巡らせながら家路を歩いていると、道路の脇で遊んでいる幼女が目に付いた。


「お嬢ちゃん、ここは車が来るから危ないよ。あっちの公園で遊びなさい。」

「はーい!しんぱいしてくれてありがとうおにいちゃん!」


 トテトテと遊んでいたボールと一緒に公園に向かって駆け出す幼女。うむ、やはり子供はいい。

 夕暮れの道で幼女に声をかける高校生。字面だけ見ると犯罪のにおいがしないでもないが、俺はロリコンの道を進む気はないし、ただの子供好きというだけだ。遠回しにロリコンでは?とか思った奴、怒っちゃうよ?

 これには少し理由があって、中学時代のあれこれでチョイ人間不信気味だった俺は、心根の素直なものに多少なりとも惹かれるようになった。その最たるものが子供であり、動物なわけだ。

 それに、なんでかは知らないが子供や動物は俺の存在に気づきやすく、慕ってくることが多い。保父さんやブリーダーが天職と呼べるくらいに。

 思想に暮れていて、ふと先ほどの幼女が走っていく方向に目をやると、信号無視をしたトラックが幼女にぶつかるようなタイミングで走っていた。しかし、幼女は公園の方ばかりを向いて爆走するトラックに気づいていない。


「っ!まじかよっ!」

 

 鞄を投げ捨て、一心不乱に駆け出す。急な加速で心臓が早鐘のように打ち鳴らされるが、そんなことを気にしている場合じゃない。


「くっ!間に合えっ!」


 決死のダッシュが功を奏したのか、ギリギリ幼女に追いつきその背中を思いっきり押す。


「きゃうっ!」


 公園側の道路に跳んで行った幼女から悲鳴が上がる。打ち身とかあるかもしれないが許してほしい。

 人ひとり突き飛ばして勢いの減衰した俺は、当然ながら車線上に残される。


 眼前に迫るトラック。そして――――――


「ああ……もうちょい生きたかったなあ……」


 ――――――俺は閃光に包まれた。

 

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