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居候天使

作者: 矢代大介

自分のとこにもこんなことが起こらないかなぁ、なんて妄想を膨らませた、それだけのお話。

みなさんは、「天使」という存在をご存知だろうか。

神話や創作小説、アニメにゲームなどで頻繁に扱われる、サブカルチャーの王道だ。

基本的に神の使いとされ、死神の代わりに死刑宣告しに来たり、ドジ踏んで神様からお叱り受けたり、謎パワーで拉致られてアレなことされるなどその扱いは様々ではあるが、扱われないジャンルはほとんど存在しない。それほど有名な存在なのだ。

そして俺、こと椎名真しいなまことの家には――天使が、居候している。

……とまぁ、ここまで言っておいてなんだが、俺自身も天使の存在を信じちゃいなかった。――彼女が現れる、その時までは。



出会いは、だいたい一ヶ月ほど前だったか。突き刺すような寒さだったのは、よく覚えている。

久しぶりの連休が嬉しく、何処かに出かけようかと思っていたのだが、無駄に寒かったので断念し、おとなしくウチでカップラーメンをすすっていた時に、そいつはやってきたのだ。

最初、インターホン越しに聞こえてきた少女の声に、俺は最大限の疑いを持った。だって、想像できないだろう?21歳、工場勤め、裕福でもない童貞が一人暮らしの家に、顔も声も覚えがない少女が訪ねて来るなんて。それこそ、なにかしでかしたら警察沙汰なのは目に見えてる。

が、インターホン越しに聞こえる少女の声は、明らかに俺の名前を、フルネームを呼んできた。妙な感覚に二の腕を軽くさすりながら、俺はとりあえず出ることにした。


で、ドアを開け放って最初に放たれた一言は、「あなたの家に居候させてください!」という、明るく元気な宣言だった。

もちろん、速攻で扉を閉めた。なんだ、なんなんだあいつは、と扉にもたれながら考える。その間、控えめに扉はノックされ続けていた。

まず考えられたのは、俺の知らない親戚が訪ねてきた線……納得は行くが何故俺なのかがわからない。

次は、親父か母さんが不倫して新しく妹ができたという線……あのすこぶる仲が良くて俺が追い出されるような2人が不倫するわけないな。

他は、何かのハニートラップ……かかった覚えもかけられた覚えもない。

なんの罠だと悶々考えていた俺は、ふとかかった声で我に返った。

「……すみませーん、割と寒いんで、居れてくれませんかー?」

そうだ、今日は無駄に寒かったな。そのことを思い出すと、寒い外で立っているのが急にいたたまれなくなる。

数秒考えたあと、俺は扉を開いた。視線の先には、厚手の白いコートを着て、コンビニの袋を片手にぶら下げた、ごくごく普通の女の子が立っている。金髪黒眼という、特異な特徴がなければだが。

えらい美少女が居たもんだな。そう考えながら、ぶっきらぼうに中へはいるようにうながした。それに従い、金髪少女は淀みのない動作で俺の部屋に入る。「お邪魔しますねー」という、可愛らしい挨拶付きで。


少女がお土産にと差し出してきた肉まんを受け取りながら、俺は遠慮なく本題を切り出した。お前は何者なのかと。

その問いに返ってきた答えが、自分は天使だという一言だった。多分、それを聞いた俺の顔は、相当マヌケなものだったと思う。空いた口がふさがらないっていうことわざは、多分ああいう状況を指すんだろう。

最初に思いついた一言が「証拠を見せろ」なので、そうとうテンパっていたのだろう。今となっては、あの時どんな思考を展開していたのか全く覚えがない。ただまぁ、そのとっさの一言が彼女が天使だという確たる証拠を得るに繋がったわけで。

百聞は一見に如かず、といいますし。なんて言った少女の背中から、突如として白い羽が現れたのだ。それも、わずかな身じろぎをした、その一瞬で。

正直驚愕した。先ほど彼女に続いて部屋に入った際、確かにあんなものはなかった。そもそも全身を覆えるほどの羽なんて、一度見たらすぐに気づけるはずだ。――本当に、天使?

そんな思考を展開していたことが声に出ていたようで、理解してもらえたようですねとにこにこ笑っていた。


そこからの彼女――エリスと名乗った少女の説明は、中々に難解だった。

掻い摘んで説明すると、彼女は自らが仕える神、こと最高神の命により、この現代世界にはびこる悪霊たちを倒しにこの世界へやってきたらしい。

そしてその際、この現代世界のことを知らなければ生活も不便だということから、頼りに出来そうな人間を探していたところ、暇そうにラーメンすすってる俺を見つけたのだという。

もちろん、最初は他の奴に頼れと言った。俺は一人暮らしな現状が好きなのだし、そもそもこんな可愛い子なら他に泊めてくれる当てなどいくらでもあるはずだ。その旨をエリスに向かって話すと、唇を尖らせて

「あなたが一番頼れそうなんですよ」とかのたまいやがった。加えて、

「他にいるならもう言ってますよ。どこもそこも薄汚れた考えしか持ってませんでしたから」とも言われた。

俺だって充分俗世に染まってるんだが、というイマイチ威勢に欠ける反論をしてみた後、ふと気になってエリスに問いかけてみた。どうして他に行かなかったんだ、と。

彼女は、行ったけど出てきました、と言った。

「当たり前ですが、最初はみんな私を不気味な目で見るんです。で、自分のところに泊めて欲しいと言われた人たちは、気味の悪い妄想にふけたり、何をしてやろうかとかの計画を建てたり。みんな、最終的には私に辱めを受けさせようとしてましたね」

はあ、とため息をつく彼女のことが、急にいたたまれなくなった。天使とはいえ、そういうことが怖くないと言えば、嘘になるのだろう。

もちろん、この態度が嘘だという可能性もある。しかし、俺の中の良心――下心ともいう――が、彼女に優しくしてやれと囁くのだ。

――わかった。住ませてやる。気がつけば、そう言っていた。


***


「まーこーとーさーん、朝ですよー」

「んー……もうそんな時間か」

「さあ、朝ごはん食べて元気にお仕事頑張ってください!夕飯作って待ってますから」

「へいへい……しかしまぁ」

寝ぼけ眼をこすり、俺は自分を起こしてくれた少女を見やる。

少し色の濃い金髪と黒い瞳が、窓から差し込む朝の日差しを受けて、眩しく輝いていた。

天使のような天使の笑顔を見ながら、俺はぽつりと呟く。

「今でも信じられないな、天使が家に住んでるなんて」

「あぁ、それじゃ羽で顔を叩いてみましょうか?寝ぼけた頭もスッキリしますよ」

「うん、いや、やめとくわ。仕事前に怪我と面倒を増やしたくないし」

かたや理解しての黒い笑みを、かたや安堵からの苦笑いを浮かべながら、今日も天使と共にいる一日は始まるのだった。

読了に感謝します!

稚拙な文章力ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

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