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おとぎ話は鏡の中で  作者: 桐一葉
5/12

four




 悲壮な表情を見せるアルーシャに、ミラーヌは言葉が詰まる。

こちらは、正論を言ったつもりだ。

年頃の男女が同じベッドで寝るなんて、明らかにおかしい。


 同意の上ならよいだろうが……少なくとも、ミラーヌは了解していない。

また怒りがふつふつと沸き起こってきているのを感じていると……。



「なぁ、ミラ」



「な、何よ……!」



「ミラが起きてくるまで、この部屋の内装とか見ていたんだが……ミラは趣味が悪いな」



「なっ!?」



 そう、囁いた。

極上の声で囁かれるのは甘い台詞などではなく、単なる悪口。

内心、何をされるか気が気ではなかったのだが……その言葉を聞いた途端、ミラーヌは己の中の怒りがさらに燃えていくのがわかった。


 どうしてやろうか。

ミラーヌの頭の中は、そのことでいっぱいになる。



「カーテンやベッドなんかは青や白系の色で統一してるのに、調度品や小物なんかはギンギラのピカピカの悪趣味な物ばかりじゃないか」



「そ、れは……ローズのお下がりで、私の趣味ではっ!」



「――――それに、俺の麗しい顔と甘く心地よい声でミラが目覚めたのを迎えてやったにも関わらず、大声を上げて叫ぼうとするとは……一体どんな感性をお持ちなのかな?」



 それこそ、悪趣味な奴が選ぶ選択ではないか!

……と、心の中で悪態ついた。

確かに、目の前にいる青年は綺麗な顔をしている。

こんな人に迫られたら、夢見心地の気分を味わえるだろう。

『普通』ならだ!!


 自分よりも綺麗な肌をしていて、サラサラの髪で……この男は、見た目に自信を持てない女たちを、確実に敵に回している容姿の持ち主である。

――――ゆえに、



「ん?どうした、恨めしそうな顔して」



「っ……、なんでも、ない」



 ……正直に言うと、アルーシャが羨ましかった。

努力をしなかった訳ではないけれど、15年の月日の中でとうとうミラーヌが王女として、脚光を浴びることは一度たりとてなく……影へ日陰へと追われてしまった。

異母姉のように輝けることも、注目を浴びることも出来なかった。



「(…………別に、目立ちたい訳じゃない。外見を称賛され続けたい訳でもないし、行き過ぎたオシャレを楽しみたい訳でもない。……だけど、ほんの少し)」



 1人の女の子として、可愛らしく着飾ってみたかった。

そしてその姿を、両親に見てもらいたかった。

褒めて欲しかっただけなのだ。



「(嫌だなぁ……)」



 ……こんな自分は、嫌だ。

ひがみ根性丸出しの自分に、自己嫌悪でまたうつむいてしまう。

妙な虚しさや悲しさが、胸を通り過ぎていった。



「……やっぱり私、あなたのことが嫌いだわ」



「はぁっ!?なんで?!」



「綺麗過ぎる人は嫌い。……眩しすぎて、すごく惨めになるわ」



 そんなことを言う自分もひどく惨めだ、惨め過ぎて泣いてしまう。

じわっと目尻に涙を浮かべると、それを見られまいとしてまたうつむいた。



「……あの性格ブスの外見が羨ましいのか?」



「ブ!…ス……って……そんなハッキリと!」



「違うのか?」



「……私が言えることではないわ」



「あんな女なんかより、ミラの方がずっと可愛いと思うけどな」



「っつ!?な……っ!!」



「すぐに落ち込むところも、あの女のことを無駄に気にしすぎてるところも、泣くのをグッと堪えているのもすっごく可愛いし……すごくそそる」



 舌先で涙を舐めとり、次には唇を押し付けてきたので力の限りアルーシャの顔を押し退けた。

それだけで、どれほど効果があるかはわからないが。



「えー?なんで止めるんだよ……」



「なぜ止めることに疑問を感じるのよ?!」



「いやいや、この俺が慰めているんだぜ?ここは感激のあまり涙を流すところ…………あっ、涙を止める為に慰めてたんだったな」



「本末転倒でしょうが!!慰めたいと思うなら、これ以上私に近づいてこないで!」



 後ろを見ずにそろそろと後退し、逃げようとするのだが……あいにく灯りは1つしかなくしかも枕元に置いていたので、離れると暗くなり真っ暗になる。


 すると、ベットの端にいたにも関わらずその先がないのにさらに下がろうとした結果。

ミラーヌは床に落ちた。

しかも結構、鈍い音が聞こえた。

アルーシャが慌てて床を覗けば、頭を押さえながら丸まって、ぷるぷると震えているミラーヌの姿が。



「あー……大丈夫か?」



「大丈夫なわけがっ……!!」



 ぐー……。

誰かのお腹の音が、大きく鳴るのが聞こえた。

気づいた時にはもう遅い。

音が鳴った本人は、お腹を押さえ恥ずかしそうに顔が真っ赤に染まる。



「そういえば、飯がまだだったな」



「……っ…、いつもなら、とっくに食べていたのに……!!」



「なんか作り置きあるか?ないなら作るが」



「あなた、料理が作れるの!?」



「長いこと生きてるし、料理を作るのは結構好きなんだよな〜……んで。作ろうか?」



「あなた精霊、よね?ご飯を食べるの?」



「俺だって生きているんだぜ?簡単なものならすぐに作れるが……」



 まだお腹を押さえているあたり、相当お腹が空いているようだった。

その様子を見て、アルーシャはニヤニヤと笑いながらベットから降りて、部屋の出口へと向かう。

台所は知らないはずなのに、まっすぐ向かっていることにミラーヌは驚いた。



「なんで台所の場所を知ってるの!?」



「ミラが眠ってる間にいろいろ見て回った」



「勝手にそんなことを!」



「だってよ、ミラが起きるまで暇でやることねぇし。あ、店の片付けはしといたからな?」



「だから勝手にっ……!」



 さっさと台所に入って、いろいろ物色し始めた。

すると、今ある材料だったらパンケーキが作れるとわかり早速調理に入る。

その手際の良さ。


 かなり手慣れていて、先ほど言っていたことは本当のことなのだと

手早くかつ丁寧に材料をかき混ぜ、綺麗なきつね色になるまで焼いていく。

フライ返しを使わずとも焼けたパンケーキをひっくり返し、皿に盛りつける。

いい匂いで、ふわふわのパンケーキが完成した。



「本当ならフルーツとか生クリームとかで盛りつけるんだが、なかったからジャムで代用した!ほら、食おうぜ?」



 器用、と、その一言に尽きた。

パンケーキの上に赤いベリージャムで、薔薇の形に見えるように盛りつけたのだ。

少し固めのジャムなので、どうにかすれば薔薇の形に出来なくはないだろうが……こうも見事に咲かせることが出来るとは。

精霊がパンケーキを作った事実よりも、ミラーヌは変なところに注目した。



「美味しい……」



 くやしいことに、生地はとてもふわふわでジャムの甘さと合わさって、絶妙な美味さを生み出していた。

空腹と伴って、大げさに美味しいと思っているだけと思いたかったが……これは文句なしに美味しい。


 ……こんなに綺麗な顔をしていて、不思議な力を使えてその上料理も出来る。

なんなのだろうか。



「美味いなら良かった。さすがに不味いモン食わせたら、ますますミラに嫌われかねないからな〜」



 こんな完璧な人が、もとい精霊が……なぜ自分なんかの願いを叶える為にやってきたのだろうか?



「ねぇ、アルーシャ」



「なんだ……………………っっ!!?ミラ!!!」



「な、なによ?!こんな夜中に大声出すなって言ったのはそっちでしょう!?」



「やっと俺の名前呼んだな!嬉しいぜ!!」



 また、強く抱きしめた。

高い頻度で抱きしめ続けられると、感覚も麻痺してしまうようで。

今度はアルーシャが頬擦りをしても、特に咎めずパンケーキを食べ続ける。

馴れとは恐ろしい。



「それで、話があるのだけれど」



「ん?なんか質問でもあんのか?」



「そう、ね。あなたに質問があるの。……あの、なぜ私だったかなんだけれど」



「なんで、ミラをご主人様に選んだか……そうだな。きっかけは、あのヴィヴィアンヌって女だな」



「あの人が?」



「あんなワガママで性格キツくて、見た目着飾ることしか出来ない女の願いを叶えるよりは、見た目が暗そうで扱いやすそうな女の方がいいと思ったんだよ」



 結構ズケズケと遠慮のない言い方に、ミラーヌは傷つくどころかむしろホッとした。

商人の娘であった母親をもったせいか、ミラーヌは利益が得られない話は信じない性分に生まれ育った。


 アルーシャの言い分は一見酷いようだが、確かにヴィヴィアンヌとミラーヌとでは願いを言う速さは、断然違ってくるだろう。

しかも、ヴィヴィアンヌはかなりの無茶ぶりを発揮しそうだ。

願いをそつなく叶えるなら、ミラーヌの方がいいと思うのも頷ける。



「でも、ま。あの女は嫌な願いばかり叶えさせられそうだが……ミラの方は、なかなか願いは言ってくれそうにないな。これはこれで困った」



「願いが無い人に巡りあったら、アルーシャはどうしていたの?」



「願いを持ち合わせていない人間なんていない!……と、言いたいところだが、いたこともあったよ」



「そうなの。……それで?」



「だがそれは、いろいろな事情が重なったせいだ。本当は叶えたい願いの1つや2つあったのに、願いが叶えられる権利を放棄して、俺の主人であることを止めた。そうしてまた俺は、新しいご主人様捜しが始まるんだ」



「それはいつまで続くの?」



「100人の願いを叶えなければ、俺は故郷に帰れない。…………実を言うと、ミラが100人目のご主人様、なんだよなー……」



 アルーシャの、渇いた笑いが聞こえた。

それに対し、ミラーヌは笑えないとただただ顔が真っ青になる。


 100人目の、ご主人様。

つまりそれは、ミラーヌがさっさと願いを言ってしまえば晴れてアルーシャは故郷へ帰れるということ。



「それを先に言いなさいよ!!」



「えー?だって自分が心から叶えて欲しい願いじゃないと、叶えたいと思えないというかー」



「変な話し方しないで!とにかく、私が3つの願いを言えば、あなたは故郷へ帰れるんでしょう?ならちゃんと考えるわよ!……事情を話してくれれば、あんなに拒絶せずに、もっと早く話を聞いていたのに」



「仕方ねぇよ。いきなり見知らぬ男が目の前に現れたら、話を聞くどころじゃなくなるもんな。ミラが正しいよ」











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