表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ話は鏡の中で  作者: 桐一葉
10/12

nine




「ミラーヌと、申します……」



 まるで機械のように、なんのためらいもなく名を告げる。

こんな相手に、名前を言ったら、面倒なことになりそうなのに。


 アルーシャも、馬車の男が気になっているのか、さっきからずっと唸りっぱなしだ。

可愛い顔が台無しで、白い犬歯がむき出しになっている。

本当にやめてほしい。

可愛い子には、可愛いままでいてほしいのに。

顔が歪んで、原型を留めていなかった。



「……確か、この国の第二王女だったかな?そんな名前だったよね」



「はい」



「まさか、こんな人通りの多い街中で無用心にも供の者を連れずに、出歩いているなんてこと……」



「あのー……」



「いやいやまさか、冗談でも口に出したらいけないな。無用心で能天気な上に、阿呆感丸出しにも程があるだなんて!」



「ハッキリ言ってるじゃないの!!」



 馬車の男は、ミラーヌをアルナドル王国の第二王女だと、とっくに気づいている。

その証拠に、さっきから笑い声を立てないようにこらえて、プルプル体を振るわせながら馬車の内部に置いてあるクッションに、手でバシバシ叩いていた。


 ひょうきんな人だ。

馬車の男の印象が、ガラリと変わった瞬間だった。



「やっと素になったようだね、そちらの方がマシというものだよ」



「マシって……あなたねぇ!」



「私は隣国から来た、ハルファン国の第二王子ユーリウス。同じ二番目同士、どうぞよろしく」



 そこでようやく、馬車から降りてその全貌を明らかにしてきた。

華美に飾らず、自分の魅力を最大限に生かす青を基調とした、正装を身にまとっているユーリウス。

王族の威厳を讃えたような着こなしに、たとえ身分を明かさずとも、彼がやんごとなき身分の者だと一目でわかる。


 でも、もう目の前の男に対して猫をかぶる必要はなかった。

外交やら王族との友好やらは、もうミラーヌの頭の中には端のほうにしかない。

ユーリウスは、嫌なやつ。

そう認識してしまったから、これからは距離のあるお付き合いをしていこうと、心に誓った。

……お付き合いが発生すればの話だが。



「私、これから約束がありますの。これで失礼させていただきます」



「あぁ。どうせまた、城で会うことになるから」



「城には、姫君らしく美しい私の異母姉がおります。そちらがお相手なさると思いますわ」



「私はそんなに悪趣味じゃないよ。……では、また」



 御者に指示を出し、馬車を走らせる。

後には、呆気に取られた顔をしたミラーヌと、不機嫌街道まっしぐらのアルーシャだけが残された。



「……いい加減、その顔を直してよ。人が通るたびに、あなたを見てすごく驚いてるじゃない」



「そう言われても、あの男が胸くそ悪いのがいけなんだ!」



「もう少し小声で話して!誰かに聞かれたら……っ」



「大丈夫だ!魔法で他の人間には、俺の声は聞こえないようにしてるからな」



 ヒソヒソと、人間と犬が囁きあってる光景。

声は聞こえなくても、端から見たら充分怪しい。

急いでここから離れて、四番街に向かおうと足を動かした。



「あんな男が第二王子とは、世も末だな!」



「……セクシャルハラスメントと、どちらがマシかしらね」



「比べるのおかしくないか!?俺のは愛あるスキンシップで、あいつのはいけ好かない意地悪だ!!」



「あぁ、間違えた。どっちもろくでもないわ」



「俺のフォロー無視?!ミラ、どうしたんだよ!なんか……怒ってねぇか?」



「別に」



 あのユーリウスと、少しだけだが話をして思ったことがあった。

自信に満ち溢れた堂々とした態度。

王族の威厳や誇りや憧れを、そのまま形にしたような容姿。

同じ二番目なのに、ここまで違うなんて。

どこか、見せつけられた気がして。



「ミラ?」



 こんな気持ち、とっくの昔に無くしたとばかり思っていたのに。

『悔しい』、なんて。

二度と思うことなんてないと。

そう思っていたのに。



「……アルーシャ。私って、お姫様に見えない?」



「は?」



 犬の、あっけに取られた顔を見られる日が来るとは。

面白い顔に反応することが出来ず、ミラーヌは悲しげな顔のまま話を続けた。



「また自信たっぷりの王族が増えたから……なんだか、私なんてさらに影が薄まりそう」



「そんなことないって!ミラは充分可愛い!!」



「褒めてくれるのは嬉しいけど、ヴィヴィアンヌとユーリウス王子の間に挟まれることを考えたら…………はぁ、」



 あのきらびやかな二人の真ん中に立てば、なるほど確かに存在感は薄まりそうだ。

しかし、そこを逆手に取れば反対にミラーヌの独壇場は、約束されたようなもの。


 どうして、そこに気づけないのか。


 ミラーヌにはミラーヌの魅力がある。

気づきにくいかもしれないが、だが誰にも負けない素晴らしい価値があるのだ。

それさえ気づけば、ミラーヌの人生は大きく花開くことだろう。


 だが惜しいかな、まだ当分は気づきそうもなさそうだ。

それはミラーヌが、誰もが思いきり頷くほどの鈍感だからである!



「もったいないが、待つしかないか」



「アルーシャ?」



「ここで悩んでても始まらないだろ?早く朝ごはん買いに行こうぜ!」



「そうだった!イリスとの約束に間に合わなくなるっ」



「ソバカスのお嬢さんを待たせたとあっちゃあ、鏡の精霊の名に傷が付くぜ!急ぐぞ!!」



「なんにも関係なんてないじゃない!ちょっと、待ってよー!!」



 走って行ってしまったアルーシャを追いかけ、ミラーヌも急いで駆け出した。

目指すは四番街、活気ある朝市だ。



「着いたな!」



「そうね、早く食材を買って帰らないと……」



「あっ、ミラ!あそこに装飾品が売ってる店があるぞ!?」



「アルーシャ、アルーシャ待って!走らないで!!」



 朝食の買い出しそっちのけで、骨董品や装飾品を扱っているエリアに足を向ける。

全速力で走るアルーシャに、追いつくだけでも一苦労だというのに。

あっちこっち、チョロチョロと動き回る犬の動きは読めない。


 それでも追いかけなければ、迷ってしまう。

初めてやってきた場所なんだから、拐われてしまっては大変だ。

心配性なミラーヌだった。



「おっ、犬が客連れて来たぜ」



「ミラ、ミラ!これ!!これがミラには似合うっ」



 赤い舌を出しながら、キラキラした瞳でミラーヌを見つめる小型犬。

可愛い……っ!

勢いあまって抱きしめたいけど、ここは人前だ。

我慢しないと怪しまれる。

自分は第二王女なのだから、それだけは避けないと!

でも…………



「ミラ!つけてみろよ、絶対似合う!!」



 ペシペシ叩く物は、綺麗な細工の首飾り。

ペンダントヘッドが小さな鏡の、まるでアルーシャの本体の、分身のような装飾品だった。



「綺麗……」



「お嬢さん、お目が高い!いや、この場合は犬のお目が高いのか?」



「これは、鏡なの?それとも首飾り?」



「どちらとしても使える品だよ。小さいながらも宝石が付いているし、上質で映り具合の良い鏡を使ってるんだ」



 手の平に収まるそれは、とても心惹かれる物だ。

……贅沢はしたくないけど、生まれて初めて。

自分の意思で、買ってみたくなった。



「おじさん、これをちょうだい」



「毎度ありー!」



「買うのか!?」



「だって、私に似合うんでしょう?」



 密かに耳打ちする。

すると喜びに満ち溢れたように、瞳に輝きが増して。

まさしく、犬は喜び駆け回る。

微笑ましくて、ミラーヌも声に出して笑った。



「今はつけるなよ?後で俺がつけてやる!」



「え?いいわよ、自分でつけるから」



「俺がつけてやりたいんだよ〜!いいだろ?」



「……わかったわよ」



 猫のように足に擦り寄られては、逆らえるはずがない。

包装された首飾りを受け取って、店を後にする。

寄り道してしまったから、本当に急いで買い出ししないと。

何度も言うようだけど、約束の時間に遅れてしまう。



「あっ、お嬢さん!首飾りを入れた袋の中に、オマケを入れといたからな〜!またご贔屓に〜!!」



 去り際に、店主がそんなことを言っていたのを。

ミラーヌは、聞き逃してしまっていた。




――――――あれから、無事に朝食の買い出しを終えたミラーヌたちは、家に帰った。

人の姿に戻ったアルーシャが、また美味しそうな料理を作って全部完食。

……こんな生活を続けていたら、もしかしたら太るかもしれないという恐怖が、ミラーヌを襲う。


 酷く、美味し過ぎる。

なんなんだこの精霊は!

家事が得意で褒め上手で、おまけにとびきりの美形なんて。

世の中は、不公平の塊で出来ている。

遠い目をして、ミラーヌは黄昏た。



「ミーラっ!ほら、イリスが来る前にこの首飾りをつけてみようぜ?」



「う、ん……つけたいんだけど」



「どうしたー?」



 店主から貰った袋から、首飾りを取りだそうとすると……。

裸のままで入れられていた、2つの装飾品を見つける。

あまりにもくすんでいて、よくよく見ないとなんだかわからない。


 ……磨いたら、綺麗になるだろうか?

形的には、腕輪と指輪のようだ。

首飾りは後回しにして、先にこちらを綺麗にしてしまおうと思い布を手に持った。

汚い物を、そのままにはしておけない。

しかも、かなりの汚れだ。

俄然燃えると、装飾品を磨きにかかった。



「ミラ〜!なんでそっちを先にするんだよ〜!!」



「タダとはいえ、自分の物になった以上。汚い物を、そのままにしておきたくないの」



「……綺麗好きなところも、ミラの美徳だと思うけどさ。だからって……俺とのスキンシップを、後回しにしなくてもさ〜」



「時間はいくらでもあるでしょう?無視はしないから、ちょっと待ってて?ね?」



 首を傾げ、上目遣い。

まさか自然と、そんなことをするなんて……!!

アルーシャに、雷が落ちたような衝撃が走った。

そして物凄く速く、上下にウンウンと頷く。

その勢いに引きそうになるが、大人しくなったので作業を再開する。

丁寧に磨いたおかげで、大部分の全貌がわかってきた。



「あら、くすんでいた時は分からなかったけど……どちらも宝石が付いているのね」



「―――――宝石?」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ