第2話:悪魔の子
「48、49、50匹!」
住宅街に着くまでもう50匹も倒しちまったぞ。
まぁ、雑魚のゴブリンばっかり倒しても治安がよくなるわけじゃないしな。
それにしても住宅街には魔物はからっきしだな。
昨日もそうだったし、俺みたいに魔物と戦ってる奴がいるとか?
今まで2年間1日休まず魔物退治してるけど、そういった奴は一人もいなかったし、一人ぐらいいてもおかしくはない。
ついで言うと、魔物が現れ始めたのが2年前だ。
昔から現れていたわけではない。
「それじゃあ次の商店街に移動するとしますか」
意味もなく住宅街にいてもしょうがないからな。
流石に商店街の魔物まではいなくなってはいなかった。
でもいつもより数は少ない。
しかも大型の魔物が1匹もいないのが気になる。
「これぐらいなら数分で片付くな」
魔物の位置を把握し、俺はソウルイーターを抜き、地に刺した。
その瞬間、魔物の真下から黒い光が魔物を一瞬で突き殺した。
少々甲羅が硬い魔物なら、跳ね返したりするのだが、今日は本当に雑魚しか残ってなかったらしい。
「この調子だと学校まで進めそうだな」
いつもなら時間をかけすぎて、この辺りで終わるのだが、今日はいつもの半分も時間が余っている。
それに今日は雑魚日和らしい。
学校に移動中も次々に襲ってくるゴブリンをサクサク倒し、数えてはいないが既に100匹は超えているだろう。
そして校門前、流石に雑魚ばかりではなくなってきた。
学校に入る前の一番の難関マンティコアが位置についていた。
「一匹か。闇討ちで一発で仕留めれるかな?」
【チャージ】
ソウルイーターに力をこめ、周辺に漂っている自然エネルギーをソウルイーターが吸収する。
俺も姉ちゃんから聞いただけだからどういう原理なのか、自然エネルギーが何なのかわからない。
でもなんとなく予想はつくがな。
どこまでチャージできるのかも、よく理解してないがそろそろ十分だろ。
【ソウルファイアー】
ソウルイーターの短剣から、マンティコアに紫の炎が迸った。
マンティコアはガオーと叫びながら倒れかけたが、踏ん張り視線を俺に向け走ってきた。
やっぱ一発で倒すのは考えが甘かったか。
でも奴は弱ってるはず――――
学校から校門を飛び越え、5匹のマンティコアも先頭のマンティコアに続いて、俺に向かって走ってきた。
おい待て。いや、待ってください。
6匹も一気に相手できるか。
だから学校は嫌なんだよ。
無性に難易度は高いし、桁外れの魔物が迂回してるし、昼間平和なのがうそみたいだ。
俺は全速力で走って家に逃げ込んだ。
逃げるが勝ちってのはこういうことだな。
殺されたら洒落で済まないからな。
これで今日の魔物狩りは終わった。
翌朝、コンビニで朝飯代わりにパンを買い、夜とは違う平和な通学路を歩きながら、パンをかじっていた。
どっかのアニメやゲームの主人公だと、ここらへんで誰かに声をかけられそうだが、俺にはそういう相手はいない。
多分この町で俺と喋ってくれる人といえば、瞬さんぐらいだろ。
校門を過ぎ、皆に挨拶してる先生を無視し、下駄箱から上靴を取り出した。
「ん?重たい」
上靴に異様な重量感を感じた俺は上靴を逆さまにした。
そしたら、床にバラバラとガビョウの広がった。
普通は1個だけ入れとくだろ。
こんなにパンパンに入れてたら、誰でも気づくぞ。
広がったガビョウを拾い、しまう所がなかったため一時的にブレザーのポケットに突っ込んだ。
重たくなったブレザーのポケットに穴が開かないか心配しながら、俺は教室に向かった。
今日の遊びはこれまでか。
教室を見渡して、そう確信した。
いつもは黒板に俺の悪口が書かれていたり、机が焼失してたり、いろいろあるんだが、今日は何もされてなかった。
たまにはこんな日もあるんだな。
俺は自分の席につき、1時間目が始まるまで寝ることにした。
「おい、おい、陸奥、起きろ」
いつもは起さない先生が、教科書で俺の頭を叩いた。
「なんですか?」
「これはなんだ?」
俺のブレザーのポケットに手を突っ込み、ガビョウを机に広げた。
「これは学校の物だろ?こんなに盗んでどうする気だ」
っち、誰かチクりやがったな。
面倒なやり方しやがるぜ。
「帰るまでにこれを出して帰れ」
反省文10枚を俺に投げつけ、両ポケットに入ってたガビョウを回収された。
めちゃくちゃ手回しがよすぎるな。
なんでその場に反省文があるんだよ。
まぁ、虐めてる側も今のままじゃ面白くなくなってきたんだろ。
そのまま2,3,4時間目をサボり、校舎裏で横になっていた。
「反省文も何も反省することとかねぇし」
っと文句を言いながら、律儀に書く俺もどうかと――。
皆が4時間目の授業を受けてる時に、俺は昼飯を食い、早めに反省文を出すために教室に向かった。
「あいつら4時間目が終わったら、速攻俺の机を持ち運んでやがるのか?」
昼休みがはじまり、まだ10分しか経っていないにも関わらず、俺の机がなくなっていた。
運動場を見るとまだ俺の机はない。
置き場所を変えたか、それとも今、置きに行く最中か。
俺は階段を1段飛ばしで降り、運動場に出た。
すると、一人の男が俺の机を運動場の真ん中にちょうど置き終わったところだ。
「おい」
運動場から帰ってきた男を俺は、靴箱で待ち構え、声をかけた。
「あ、あ、あ、陸奥・・・・君」
何ビクビクしてるんだこいつ。
俺と同じクラスなのは確かだが、全く名前がわからん。
「何してた?」
少々怒り気味で俺はその男に問い掛けた。
ここらへんで、言っておかないとますます調子乗っちまうからな。
今までほっておいて、今日、反省文まで書かされるハメになったんだしな。
「ご、ごめん。今すぐ元に戻すから」
そいつは半泣き状態で、俺に手を合わせて謝ってきた。
拍子抜けだなおい。
今までこんな奴が、好き勝手してたと思うと、自分が情けなくなってくる。
まぁ謝ってこられたら、どうすることもできず、元に戻しとくようにだけ言い、反省文を提出しに行った。
教室に戻ると俺の机はちゃんと元の場所に戻されていた。
さっきのあいつがいるはずの席を見ると、空席でどこかに行ってるみたいだ。
まぁどこに行ってようが俺には関係ないけどな。
放課後、女子の悲鳴で俺は目を覚ました。
「しまった。5時間目、6時間目寝倒しちまった」
それは置いといて一体何があったんだ?
女子たちは掃除道具入れを囲んで突っ立っていた。
「おいどうした?」
野次馬みたいに他のクラスからぞろぞろ集まってきているせいで、全く見えなかったが。
一人が俺に気づくと、皆俺を避けだし、綺麗な一直線の道ができた。
こういう時はいいよな。
「っな・・・・」
俺は声に出来ないほどのものがあった。
「お前、一体どうしたんだ?」
昼休みに俺の机を持ち運びしてた男が、言葉では表現しきれないほど無残でえげつない姿で、掃除道具入れに突っ込まれていた。
こりゃ骨の1本や2本折れてる問題じゃないぞ。
無理矢理押し込んだせいか、関節のほとんどが折られ、所々殴られた後もあった。
息は・・・・
「そいつだ。そいつのせいだ」
脈を計ろうとした瞬間、一人の男が俺に指を指して、大声で叫んだ。
それに同調するがごとく、一斉に俺のほうに冷たい視線が飛んできた。
違う。俺は何もやってない。
「どうした?何があった?」
やばい先生だ。
見つかったら停学じゃ済まねぇ。
俺は急いで学校から飛び出した。
違う、違う、違う。
俺は何もやってない。
俺と喋れば呪われるとか死ぬとかそんなのはただの噂だ。
そう、噂にしか過ぎない。
今までになかったことが起き、俺は混乱し、どうすればいいかわからず、家に帰り朝まで部屋に引きこもった。
とても魔物退治なんかできる心境じゃなかった。
明日俺は一体どうなるのだろ。