第16話:嵐の前の静けさ
帰った頃にはもう既に日が昇っていた。
「和樹今まで一体どこ行ってたのよ。一番大切な時期に」
家に戻ると薫が、俺を押し倒し胸倉をつかみ今にも殴りかかろうとしている勢いだった。
「薫、今はそんな事をしている場合ではないだろう」
穂多流が出てきて、薫の右手を抑えた。
穂多流がいるってことは、もう本部からは兵を率いてきているってことか。
とにかくまずは穂多流に耕介のことを話さなければ。
「薫、穂多流と話がしたいんだがいいか」
「何?私には言えないこと?」
まぁそう聞かれるだろう。
でもこれは耕介の遺言でもあるんだから、薫の耳に入れることは出来ない。
「あぁ、薫には言えないことだ」
穂多流は俺が言いたいことを察知したのか、
「薫はいつでも出陣できるよう最終確認しておいて」
そう言うと薫はしぶしぶ俺から退き、
「二人も尾行ったら時間の無駄だもんね。いいわ、でも早く戻ってきなさいよ。ただでさえ時間が迫ってるんだから」
薫はそういい残して、家の中へ入っていった。
「それじゃあどこか移動したほうがいいわね」
俺はまだ何も言ってないのに、穂多流は勝手に誰もいない空家へ移動してくれた。
「大体話の見当はつくわ。耕介のことでしょ?」
俺に背を向け窓から外を見ながら、話を切り出した。
さすが俺の言いたいことの半分以上はもう知っていそうだ。
「耕介の遺言だ。今すぐ兵を引き上げた方がいい」
「その必要はないわ。既に策は用意ててあるから」
「用意ってまさか…、穂多琉はこれが魔女狩りの罠だと知っているのか?」
「大体はね、浅はかな罠だけど、こっちからわざとハマってあげてもいいと思ってね」
こっちからハマるってそんなことしたら。
「悪魔でも魔女狩りを少し泳がせるだけだから」
やっぱり穂多琉には隠し事とかできねぇな。
あと言っとくことと言えば、このロザリオだけど
「なぁ、耕介からこれを預かったんだが、何か意味があるのか?」
俺は穂多琉の隣に移動し、首にかけていたロザリオを穂多琉に突きつけた。
穂多琉は一瞬だけ俺のほうに目をやり、また外の方に目を戻した。
「命を粗末にして・・・・」
「穂多琉?」
「そのロザリオ、肌身離さず持ってなさい。それとそれをまだ誰にも見せない方がいいわ」
「誰にもって薫にもか?」
「薫には特に見せてはいけないわ。さぁ、話はこれで終わりでしょ?早く陣に戻るわよ」
穂多琉はそう言ってそそくさと空家から出て行こうとした。
「だからこのロザリオはどういう意味なんだよ」
そう言うと穂多琉は足を止めて
「その意味を知ったら和樹はロザリオの重さで潰れてしまうわ。だからまだ知らないほうがいいわ」
ロザリオの重さで潰れるってどう言う事だよ。
意味を知ったくらいで潰れるわけないだろ。
でも知らないほうがいいってことも、あるんだろうしここはこれ以上追求しないでおこう。
「あ、あと魔女狩り幹部会の久遠時と途中会ったんだけど、穂多琉によろしくだってさ」
言わなくてもいいことだが、何故か急に思い出したから言う事にした。
「え・・・それは本当?」
大したことじゃないはずなのに、穂多琉は初めて驚いた顔を見せた。
そんなにビックリするようなこと言ったわけじゃないのになぁ。
「この作戦には真幸が絡んでる…。だとしたら」
穂多琉は急に焦り出し、家の中をウロウロと歩き回った。
「帰らないのか?」
頭を抱えながら考えている穂多琉に一言言った。
そういえば、こんなに悩んでる穂多琉は初めて見たな。
っといつもと違う新鮮さに和んでいると、また急に外に飛び出していった。
しかも薫達がいるほうと逆の方向に・・・・
「和樹、私はあとで合流するから、あとのことはお願い」
「お願いって何をすればいいかまったくわからないぞ」
一人置いてけぼりを食らった俺は、とりあえず薫達のところへ戻ることにした。
戻ると薫と猛の姿はなく、美咲だけがいた。
「あれ?他の皆は?」
「先に行っちゃいました。なんか兵の配置をしないといけないみたいなんで」
へぇ、っで俺らは何をすればいいんだ?
「私達は合図があるまで遊んでていいみたいですよ。しかしカップルと装ってですけど」
カップルって・・・えぇ?
まぁそのほうが怪しまれないと思うのは確かなんだけど。
「ごめんねおばさんが相手で。薫ちゃんとがよかったよね」
「いや、そんなことないって。美咲も充分可愛いって」
俺より年上でも多分5歳くらい上なだけだろうし。
「とりあえず、俺たちもその祭りがあるって言う神社まで移動しようか」
「はい」
移動中いくらなんでも無言はダメだろな。
何か話題はないか。
「ところでその合図って一体なんなんだ?」
俺は思い出したかのように聞いた。
「神社の鳥居爆破が合図らしいです」
爆破するって怖い者知らずだな。
祟られても知らないぞ。
「それより似たことがどっかであったような気がするんだけどな」
「和樹さん、あれ」
考え事している途中、美咲がタチの悪い奴にに囲まれている、二人組みに指を指した。
「おい、お前らはこの方が誰か承知の上であたしらを絡んでるんだろうなぁ」
一人は赤髪でショートヘアーでボーイッシュ、しかもものすごい口の悪い女の人だ。
そしてもう一人は顔の半分以上フードで隠していて、黒いローブを羽織っている人だ。
フードからチラッと見える肌の色からして多分女の人だろう。
それにしても女二人に複数で立ち向かうとは許すことはできない。
「美咲はここで待っていろ」
俺はそう言い、そいつらの所へ向かった。
「女二人に男が何人もいるってのはおかしくないか?」
「あぁ?」
男たちは当然の態度で俺のほうを睨みつけてきた。
「おのれには関係ないだろ。わしらはこの女に侘びを入れろと言っとるだけじゃ」
完全にヤクザじゃねぇか。
まぁ、今の俺だと普通のヤクザには負けない自信はあるけど・・・
「助太刀はいらねぇぞ。こんな奴あたし一人で十分だからな」
そう言った瞬間どこからか、火炎放射器を取り出し、ヤクザたちに振りまいた。
「あっちー」
この女本気だ。
ってか俺まで巻き添えが・・・・
ヤクザたち数人は火達磨になり逃げ帰り、後のものはそいつらを追いかけるように逃げていった。
「言っただろ?あたし一人で十分だって」
そりゃあんな兵器を持ってたら、心強いよな。
「大丈夫でしたか?男の人が火達磨になって逃げて行くのが見えたので」
美咲が心配になったのか、俺を迎えに来てくれた。
「あぁ、俺は大丈夫だ」
「なんだ連れがいたのか。この先は危ないから引き換えしたほうがいいぞ」
引き返したほうがいいと言われても、俺たちはこの先の神社に用があるんだけど。
「貴方達みたいな若い人に来られては困るのです」
フードをかぶった人が言った。
やっぱり予想通り女性の声だった。
それにしてもこの声、どこかで聞き覚えがあるぞ。
「貴方達も十分若いですよ。あなたと一緒にいる方なんて、私より若いと思いますけど」
珍しく強気で美咲がフードを被った女性に言い返した。
「おい美咲、急にどうしたんだよ?」
「この人たち多分私達と同じ目的です。それにここで引き返したら入れないような気がして」
魔女狩りと言っても、恐らく幹部会ではないだろう。
幹部会の顔は手配書で全て覚えている。
それは美咲も同じだ。
っということは俺たちと同じハンターかもしれない。
でもさっきの強さを見れば、魔女狩りだという可能性も低くない。
それにさっきの火炎放射器がなくなっているってことは、何かの能力者だ。
「あーめんどくせぇ、お前たちもさっきの奴らと同様、丸焦げにしてやろうか?」
またどこからか火炎放射器を取り出してきて、俺たちのほうへ向けてきた。
「真里菜やめなさい。ここで犠牲者を出すわけにはいきません」
「でも」
「この二人は真里菜が守りなさい。私は自分の身くらい自分で守れます」
「それは危険です。私が・・・・」
真里菜という女が何か言いかけた瞬間、フードの女性は何か耳打ちしたように見えた。
「わかったよ。お前らあたしらから離れるなよ」
そう言って先々行き始めた。
ってかこれから共に行動するって言うのに自己紹介もなしかよ。
「おい、名前くらい・・・」
「和樹さんだめ」
名前くらい名乗れっと言おうとしたが、美咲に止められた。
「相手の素性が知れない以上、こっちの素性も表さないほうがいいと思います。きっと向こうもそう思ってるはずです」
そうか、だから自己紹介もなしで・・・
「っということは魔女狩り?」
「それはまだわかりませんけど、ここからさきは慎重に行動したほうがいいです。あと言葉も選ぶ必要があります」
確かにな。
相手の考えがわからない以上、こっちのことはできるだけ隠す必要がある。
「とりあえず、今はあいつらについていこう。素性がわかればこっちも動きやすくなるからな」
更新が遅れてしまいすみません><
早くしないとと思いいろいろ1話に詰め込みすぎた気がします。でも最後くらいは余裕を持って書きたいです^^;