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§5 事件

随分と遅れて申し訳御座いません。

ただ、リアルでかなり忙しかったと言い訳をさせてください。

 俺は再度アルの頭を、今度は軽めに殴りつけることにした。

 誰が散っていったんだよ。不謹慎だろ。


 机を挟んで俺とアルが相対する。机の上にはボードが置いてあり、イラスト付きでの説明を可能としていた。ついでに扉には防音の術式が行使されていて、こちらの音が外に響くことはない。

「さて、ジャック。分かっていますね?」

「ああ、メイも毎日があんなんだから少し位気分転換の機会があったっていいだろ?」

「ええ、だからこそ、彼女も少しでも気分を変えようとするはずです。具体的には、普段と衣服を変えるとか」

「あいつアレ以外に衣服とか持ってなさそうだけどなぁ」

「何を言うのですか!」

 いきなり机を叩く。あまりの雰囲気の変わり振りに、俺も驚いた。

「メイも一人の若い女子です。彼女は交友関係も広いですから、友人と呼べる関係も多くいます。当然どこかへ出かけることもあるでしょう。それでもあなたはメイがアレ以外に衣服を所有していないと言うのですか!」

「分かった! 分かったから落ち着け!」

 まさかアルがここまで熱弁を振るうとは思わなかった。が、多分俺の失言が原因である以上何か言って面倒なことになるのは避けたい。

「流石にコレじゃマズいか?」

「当たり前です。祭りにその様な無骨なモノを着るのは以ての外。最大でもチェインベストを隠して着込むのが限度でしょう」

「へーい」

 その時、東側から砲撃音がする。反乱ではなく時報の為、それを気にするものもいない。


 いや、違う。

「なあ、アル。今のは」

「ええ、時報の音ではありませんね。方角は東。行ってみましょう」

「部屋に行ってサーベル取ってくる! お前は先に現地に行け!」

「言われなくても!」

 アルが部屋壁に掛けてあるロングソードを取り、走り始める。

 俺も部屋のドアを蹴り開け、サーベルを手に取った。冬に倒したサーベルドラゴンの刃とタングライト鋼、フェール鉄を合わせたインゴットを鍛えて刃の形に仕上げられ、素材が影響したのかうっすらと赤みを帯びている。

 本来なら任務で初使用したいところだったが、今ここで何か言っている場合ではない。


 俺の部屋だと階段からはやや遠い。

 少し迷ったが、時間短縮を理由に飛ぶことにした。窓に足を掛け、跳ねる。俺の身体が持ち上がり、放物線を描いて落下。住宅の屋根に着地し、そのまま屋根の上を走った。

 何度か屋根と屋根の間をジャンプして通過した所で目的地にたどり着く。

 屋根の上から跳躍。空中でくるくると回転し、着地する。

「状況は!?」

 2人が身体、特に腹と背中がぐちゃぐちゃの状態になって倒れていて、そこからは円形に爆風の痕が広がっている。

「誰だ! って子供!?」

 公認魔術師の一人に近付く。登録書を見せると慌てて状況を報告し始めた。


 彼らは魔科学側の魔術師で、花火に向けて練習をしていた。

 メンバーの一人が休憩から帰って来たとき、そいつに何か違和感があったが忙しかった彼らはこれを無視する。

 彼が練習中のメンバーにふらふらと近付いて、いきなり抱き締めた。彼は男色の癖があったから、それだろうと思って引き留めようと近付いた時、突然爆発が起こった。


「……捜索するぞ」

 遺体の腕を一通り調べて俺は呟いた。

「どうかしましたか?」

「こいつの身体についてるはずの、アレが違う」

「アレ? ああ、アレですか」

 魔術の首輪、調合のネックレス、魔科学のブレスレットに、魔導のサークレット。公認魔術師全てに着用が義務付けられている印。

 ここの都市の魔科学師を象徴するブレスレットは緋色。だが、この遺体が付けているブレスレットは群青色をしていたのだ。

「潜入者だ。ここのルールも知らん馬鹿な奴らしい」

「見つけるのはたやすいと?」

「いや、だが捜索範囲は限定できる。……奴が休憩中に何処へ行ったか、知っている者は挙手しろ」

  何人かがおずおずと手を挙げた。都市内に唯一存在する緑化地帯へと行っていたらしい。

「げ、緑化地帯かよ……。厄介な所に行ったもんだ」

「しょうがありませんね。呪符を使いましょう」

 五感強化の呪符を使うアル。俺もそれに習って使うことにした。

 神経が砥石を当てたかのように研ぎ棲まされる。今ならこの都市の東端から西端の囁き声も聞き取れそうな気がする。

「ジャックは東側から捜索して下さい。私は西側から行きます」

「分かった。迎撃の用意をしておけよ?」


 都市緑化地帯。正式名称ヴィンハルス緑化地帯。

 この都市に於いて、市民の憩いの場でもあるこの場所は非常に広い。

 まず、このヴィンハルス自体が山を中心に据え、そこから広がっていく放射型都市だ。そこから南東、南西、北東、北西に申し訳程度の城壁が敷かれ、更に城壁で円形に囲んでいる。丁度、円形に×印を書いたと言えば分かりやすいだろう。

 山自体はそれほど大きくないだが、山の形がお椀の形をしているためか、緑化地帯はとても広く造られている。

 また、元は鉱山だった為に各所に洞穴が掘られ、それが更に捜索を困難にしている。

 ついでにこういった要素から、この都市での犯罪や自殺が多発している、と警備隊がこぼしていたのだが、そんなことはどうでもいい。

 これが北部の公機関区画、東部の一般区画、西部の商業区画、南部のスラム区画のどこかだとしたら捜索は相当に楽なものとなっただろう。無駄に計画的に都市の道路が作られていった結果、都市の端の方でもすぐに中央部にたどり着くことが可能だ。一般区画や商業区画は入り組んではいるものの、迷宮というわけでもない。

 だが、俺もアルも応援を呼ぶことは考えていなかった。自分たちが見つけた事なので、自分たちで決着を付けたい事もあるが、何よりも今の時間は有力な聖騎士団員は依頼を受けて任地に行っているか、依頼を終えてぐうたらしているかのどちらかで、前者は頼むのは不可能であり、後者も明日に備えている分頼むのは厳しい。

 それに、爆音が発生してからかなり時間は経ったはずだが未だに俺とアル以外に聖騎士団員が来ないこともその認識を後押ししていた。

「発見したらこれを使って下さい」

 そう言って筒を渡す。携行型の狼煙で、色は敵襲を示す赤。

「分かった。じゃ、行くか!」


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