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§4 狩人の一息

 太陽が昇っている頃に戦闘を開始したはずだが、終わった時には既に日が沈もうとしている。その間休む事無くサーベルを振っていたため、かなり疲弊している。地面に倒れ込んだ。

「勝てた、か……」

 激闘、その一言に尽きた。爪や刃がかする度に身体は風に揉まれる木の葉の様に吹き飛び、体勢を立て直した。メイから渡された薬を使ったが、もしあれが無ければ倒れていたのは自分だった筈だ。

「メイには感謝、だな……。借りばかりで、返す事も出来てない、駄目だなぁ、俺」

 そう言いながら立ち上がる。まだ依頼は終わっていない。完遂報告をしなければならないし、討伐成功の証として角を回収もしなくてはならない。

 先程斬り飛ばした角を拾い、丁寧に布で包む。それからいくつか刃を貰って、鱗もついでに剥いでおく。こちらは俺の私物だ。

 鱗を60枚ほど剥いだ所で作業を止めた。残りは自然に帰るだろう。

 周りはドラゴンの火球で焼けている部分が多々ある。だが岩場であるため、山が焼ける事はない。

 依頼完遂。これでこの辺の交通も楽になることだろう。そう思った俺の視界が何か動くものを捉えた。あちらも俺に気付いたのか、緑色の光を放ってから逃げ出した。

 あの光には見覚えがある。神経魔術を使用するときに出る独特のものだ。つまり、魔術師。

 追いかけようと思ったが、今の自分に魔術師を追いかけて捕まえるほどの体力が残っているとも思えない。ドラゴンとの闘いで疲弊しすぎたのが原因だ。

 だが特徴は掴めた。恐らくこの近辺を拠点としている魔術師だろう。

「見つかったからには逃げきれると思うなよ……?」

 直に捕まえてみせる。そう心に決めて俺はホルム山地を後にした。


「サーベルドラゴンの討伐を完了しました。証拠の角です」

 懐から布に包まれた物体を差し出す。村長はおそるおそる布を取り払い、中に仕舞われた角を手に取った。

「ありがとうございます。これで私達も生きることが出来ます」

「いえ、こちらこそいい経験になりました。このような依頼を私に回して頂き、ありがとうございました」

 聖騎士団の名を陥れないように面の皮を被って話をする。偶に聖騎士団の名を陥れる様な行動、言動を取る馬鹿がいるのだ。そういった奴は確認され次第、聖騎士団実行部隊隊長によるお説教ナイトメアモードの判決が下されるのだが、一度出たマイナスイメージは拭ってもそう簡単に消えるものではない。

 だから俺は基本的に依頼の話の時は猫の皮を被るよう心がけている。それに何より、年上に向かって敬語を使わずに話す事は俺は苦手だ。敬えない様な行動しかしない奴は敬わないのだが。

「これが報酬の5000サンツです」

「ありがとうございます。では、私はこれで」

 報酬の入った麻袋を受け取り、立ち上がって一礼する。


 それにしてもこいつも同じ様な目だった。人ではなく、化け物を見る目。見てくれだけは感謝していたが、目の色が違った。

 それもそうか。俺は、俺達は、魔術師や幻獣を相手取る専門とする戦闘集団。聖騎士団とは名ばかりの戦争屋なのだから。


 結局俺らは民の目からはどう足掻いてもヒトゴロシにしかなれない。そういう運命なのは分かっている。



 帰還。依頼達成の旨を伝えて俺は寝床に潜り込んだ。アルフェウスやメイが何か話そうとしていたが、今はそんな気になれなかった。

 聖騎士団は国家の元運営されている為、資金はとても潤沢だ。それなりに名が通ったとはいえ、若い団員にも個室が与えられる。所詮寝るところでしか無いわけだが、それではストレスが溜まり放題だ。先輩団員に教えてもらって以降、俺は個室をある程度グレードアップさせていた。

 一般のものに比べてかなり柔らかい毛布で包まれる。心地よい眠気が身体を包み込んだところで思考を止めた。



 数ヶ月後、夏。


「被告、前へ」

 その声とともに押し出される魔術師。

「被告、ルカーナ=オルレアン。汝はこの国に魔術師の身でありながら侵入した。間違いはないか?」

 被告は何も言わない。だがそれに構うことなく、審問官は続ける。

「被告は罪を肯定した。これより、被告へ鉄槌を下す」

 裁判の形をした、もっと別の何か。それがこの国の魔術師への裁判の一般の形だ。

 聖騎士団の保有する施設の一つ、裁判室。だがその名は張り子の虎と化していて、裁判官ではなく審問官という名で呼ばれていることからもそのことが伺える。

 聖騎士団のメンバーは裁判室で有罪判決を下された魔術師への判決執行人も兼ねている。今日は俺の番だった。

  やたら無骨な両手斧を肩に担ぎ、被告に近付く。杖の補助無しに魔術を行使することが出来ない。コレ(魔術師)も分かっているのか、ただただ怯え、地べたを這い蹲って逃げようとするだけだ。が、拘束されたそれは蛆虫の様に惨めだった。見るに堪えない。

「ヒィッ! た、助けてェッ!」

 声にすらならない音で命乞いをするのだが、何を言っているのかさっぱり分からない。

 両手斧を高く振り上げ、這いずり回るソレに向かって狙いを定める。無駄な抵抗ばかりして、狙いを付け辛い。

「ヒャアッ!」

 身を捩って避けられた。首の皮を少し裂いただけで終わる。

 余計な手間を取らせるな、面倒くさい。

 抵抗する魔術師に対しては団員個人の判断である程度痛めつけることを許される。死なない程度になら、どれだけいたぶっても問題は無い。

 脇腹に爪先を蹴り込む。骨で守られていない、柔らかい場所に鋼鉄製の爪先がめり込み、血が混じった胃液が逆流した。

「ごぶぁぁっ!?」

 頭頂部にかかと落とし。顎が床に激突し、頭と顎から血が吹き出た。

「余計な手間を取らせるから」

「ぎゃっ!」

 頭を足で踏みつけ、ぐりぐりと床に押し付ける。そのままの姿勢で両手を高く上げた。

「こうなる」

 振り下ろす。骨と骨の間に刃が入り、一発で断ち切った。意識を失ったはずの肉体がびくんびくんと痙攣し、切断面から血が吹き出た。

「処刑終了。これで今日の予定は終了か」

 予定終了時間が大きく遅れている。少し面倒なことになりそうだ。

 俺の部屋に急がないと。多分、もういる。



 処刑が終わって昼時。俺の部屋。

「……」

 メイがジト目でこちらを睨んでいる。俺は素直に頭を下げることにした。

 メイは大切な友人だし、あまり関係を崩したくない。もう、友人を無くすのは勘弁してもらいたい。

「済まん、トルロオンだったかカラレアンだったかの処刑が大幅に遅れた」

「……また? 面倒な罪人ばかりじゃない?」

「そうかもな。で、何だ? 話って」

 そこで一端メイが深呼吸する。何かを決意したのか、話を続けた。

「……今日、結晶金祭がある」

「ああ。って、もうそんな季節か」

 毎年、寒さが緩む夏に行われる感謝祭。工業に欠かせない結晶金(クリスタルインゴット)がたくさん採れたから、という理由でこの名前になっていた。

 結晶金祭はこの都市では秋の奉納祭に匹敵する最大規模の祭りで、当然都市内ではかなり賑わう。

 市場には様々な露店が立ち並び、空には騎士団公魔術師による色とりどりの魔術が空に浮かぶ。都市の有力店は広告も兼ねた台車が都市内を練り歩く。

 若い男女の出会いの場でもある為、同年代の奴らの話の一端には上るし、夕方から夜にかけて魔術師達の練習が行われていた筈だが、あまり同年代と会話しないのと、部屋のカスタマイズで防音仕様にしていたので聞こえなかったせいで気付いていなかったようだ。

 最近、どうも同年代の負傷率が高かったのはそれか。浮かれてたからか。

「……それで、それで……」

 珍しくメイが言葉を探している。頭痛か?

「大丈夫か、メイ? 体調崩してるんだったら、無理せずに休んだ方が」

「……大丈夫」

 どうもメイは頑張りすぎなのではないだろうか。彼女は回復薬を作り続けているから、それで疲れているんだろう。

 せっかくの息抜きの機会だし、少しの無理位はするか。

 だが、名目上とは言え、彼女は縛り付けられている。誤解したバカどもが何しでかすか分からない。護衛がいた方が安心できる。

「結晶金祭に行きたいんだろ? 俺も一緒に行こうか?」

「……うん」

 頭を縦にブンブン振る。

「……じゃあ、6時にゲートに集合。遅れたら痺れ薬飲ませる」

「分かった。アルは呼ぶか?」

「……二人」

「え?」

「……二人が、いい」

 そこまで言ってダッシュで部屋から出ていった。

 人数が多い方が楽しめると思うんだが、メイがそれでいいのならいいんだろう。もともと、メイの息抜きを目的としているようなもんだし。


 さて、アルに連絡するか。



「ようやく……ようやくジャックが……ッ!」

 事情を説明していきなりこれである。何かいらついた俺はとりあえずアルの頭を小突くことにした。

「これで、散っていった者達も浮かばれます……ッ!」

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