紅い正義を撃て・其の四
「はい、作戦開始二日目、おはようございます」
純和風の家で迎える朝は、とても清々しい気分だった。一晩通してカレーを語り合った二人もこの妙に爽やかな気分を……。
「う、うぅ、カレー色したヘドラが襲ってくるよぉ」
「カレー万歳……カレー万歳……」
うん、いい感じに壊れてるね。
二人を落ち着かせ朝食を取らせる。食材は必要分以外なかったので、急遽朝食に使う分だけ買い、手早く作る。
「と言う訳で、チーズカレートーストと、ベーコンエッグになります」
「あ、やっぱりカレーなのね?」
「まぁ、カレー粉を使っただけですけどね。カレー自体は今日から本格的に作り始めますよ」
「うまい、おかわり所望」
「はやっ!? はい、最後の一枚ですからねー」
意外と好評だったらしく、二人ともおいしそうに食べてくれた。うん、やっぱり食べる人が喜んでくれるとうれしいね。
「さて、昨日は話せなかったけど、首領から預かった伝言を伝えるわ」
「あ、すっかり忘れてた。そういえばそれが目的でしたね」
「あんたねぇ……」
ため息をついて頭を垂れるフェンリルさん、どうでもいいけどこの人昨日のうちに帰らなくて良かったのだろうか。
「全く、首領からの伝言は三つ。一つ目は、一か月以内に店をオープンさせる事」
「一か月ですか? 短いんだか、長いんだか……あ、俺経理とかそういう計算をした事ないんですけど」
「それはクローブが出来るわよ」
「クローブちゃんが?」
彼女を見るとVサインをしている。まかせろ、という事なのだろうか。
「一応、それでもその子は兵器開発とか、戦闘員のスーツとか作ってる組織一の科学者だし計算は得意なはずよ。経営学も学んでるから、心配はいらないわ」
「頑張って美味しいカレーを作ろうね」
以外、と言ううべきなのだろうか?
もっとも幹部として扱われているのだから、優秀な人材なのは間違いないだろう。
「分かりました。クローブちゃん、よろしくな」
「ん」
改めてクローブちゃんと握手を交わす。前と同様、無表情のまま答えてくれる。
「……二つ目の伝言。オープン後、一定の期間は普通にカレーショップとして動いてもらうわ」
「え、それ以外にも仕事があったんですか?」
「いえ、指令書にあった洗脳のギミックをしばらく使わないと言う事よ」
指令書……そういえば最初の会議の最後にもらったような。
「カレーに混ぜる洗脳用のスパイスの使用でしたっけ?」
「そうよ、それをしばらく使わないわ」
「? 完成はさせた……何故?」
横で聞いていたクローブちゃんが、首を傾げる。
あぁ、この子が兵器開発しているんだし、その洗脳スパイスも彼女の作なのだろうな。
「最近、どうもヒーロー側に目を付けられているらしくてね。首領は何故かこの作戦はすごく重要に考えていて、万全を期したいそうよ」
「……そう」
少し残念そうに、クローブちゃんは呟く。
俺に料理人の誇りがあるように、きっと彼女にも科学者としての誇りがあるのだろう。
少しだけ、彼女に共感が出来た。
「まぁ、作戦ついては以上だから、せいぜい首領の期待に添えるように頑張りなさい」
「あれ、確か伝言って三つでしたよね? あと一つは?」
「あぁ、もう一つはね」
フェンネルさんが少し不機嫌な顔になる。
「私はいらないと思うんだけど……開店したら開店祝いの宴会やりたいから予定開けとくがよい! ……だそうだわ」
……あの首領は、真面目なのだろうか、馬鹿なのだろうか。