紅い正義を撃て・其の壱
昼休みの喧騒の中、少女は自分の机で静かに携帯を弄っていた。
「おーい、みかっち!」
自分の机の前に現れた少女に対して、みかっちと呼ばれた紅い髪の少女は顔をあげる。
「おー、ゆきちゃん。どったの?」
「いやぁ、なんかみかっちが珍しく静かだったからさー」
笑いながらそう言うと、彼女はひとつ前の席に座る。
「なに見てるの?」
「んー、ちょっとニュースをねー」
そういうと、手前の席に座った彼女が急にたちあがる。
「みかっちが……勉強だと?」
彼女の叫びに周囲の喧噪が一瞬、静寂に変わる。
「「「な、なんだってー!?」」」
「おい、どういう意味だ、お前ら!」
件の少女の怒りをよそに、周囲はひそひそと話し始める。
「あの破壊神と呼ばれた脳筋の赤崎が……」
「体育教師(男)を腕相撲で完膚なきまでに叩きのめした、力馬鹿の赤崎が……」
「車のひったくりを走って追いかけて、捕まえた体力馬鹿の赤崎が……」
「お前ら馬鹿馬鹿連呼しすぎだ!」
少女が怒りに満ちた拳をあげると、皆笑いながら散っていく。
「全く……もう」
「あはは、で実際どうしたの? 漫画かゲームしかやらないみかっちがニュースなんて」
座ったまま、ことの発端となった彼女が問いかける。
「あー、うん。最近さ、あれ大人しくない?」
「あれ?」
ほら、これ。そう言いながら、携帯の画面を向かいの少女に向けて見せる。
「んー……? あぁ、世界征服を企んでるけど、毎回どこかしらのヒーローにフルボッコにされる悪の組織だっけ?」
「うん、ちょっと前までは結構騒がしかったじゃん?」
うーんと呟きながら、少女は考え込む。
「あー、流石にこりたんじゃない? この前なんて、口上の途中で倒されたらしいし」
「……あ、あー。なるほど」
ひきっつた笑顔では少女は言葉を返す。
「まぁ、あるいは次にもっと大きな計画立てて、準備してたりするんじゃない?」
「……うーん、そうなのかなぁ」
少女は、携帯をしまって、腕を頭の上で組みながら窓の外をみる。
(まぁ、平和に越したことはないけどさ)
物思いにふける少女に、その友達が顔を近づける。
「そんなことよりさ、今日も放課後ヒマ?」
「放課後? うん、特に何もないけど」
「じゃあさ、カレー屋さん行こうよ!」
「カレー屋?」
聞き返す少女に、彼女はふふん、と自慢げに話す。
「そう、この前見つけたんだけどね、出来たばかりみたいなんだけど、凄く美味しいんだ」
「へぇ、面白そうかも……」
「じゃあ、きまりね! あ」
彼女の声と被るように予鈴が鳴る。
「じゃあ、みかっち。後でね」
そういって、少女は彼女が席に戻るのを見送った。