カレーライス作戦第一号・其の参
「まぁ、このように我々のメンツは料理に関しては全くダメなわけだ」
「はぁ……そうですね、確かにこれは酷いです」
「だからこそ料理に詳しい君に頼みたいのだ」
こほんと咳払いをして首領は話を続ける。
「まぁ、もちろん君だけに任せる訳ではない、君はカレー製作に専念してもらい、作戦の細部は誰かに補助してもらうつもりだ」
よかった、さすがに一人で作戦の指揮なんて無理だと思っていたんだ。特に胃の衛生状況とかが。
「だれか、田中君に協力してくれる者は居るかね?」
しんと静まり返り、誰も答えない。まぁ、納得してない上に、ほぼ名目だけとはいえ、俺の下に着くことになるのだ。ここにいる幹部たちは誇り高き悪の戦士たちだ。そう簡単に人の下に着くなんてことは。
「……はい」
あ、いた。普通に居た。
名乗り出てくれたのは、悪の戦士というにはちょっと拍子抜けな、白いマントを羽織った小柄な女性だった。悪役というより、魔法少女のような格好に見える。
「おぉ、やってくれるかね、クローブ君!」
クローブと、言われた少女はこくりと頷くと、こちらに手を差し出してきた。
俺もそれに答えて、手を差し出す。
「えっと、よろしく」
「ん、よろしく」
彼女が差し出した白い手を握り、挨拶を交わす。小さく、やわらかい手からは、ますます悪のような感じがない。
「その前に、一つだけ聞いていい?」
「はい?」
頭一つ分ほど背が低い為、少女がこちらに上目使いで質問を投げかけてくる。
「……今日のA定食は、何?」
なるほど、さっきのは空耳じゃなかったのかぁ、無視しちゃったなぁ。
じゃ、ないよ。あのタイミングで何を聞いてたんだこの子は!?
これはツッコむべきなのだろうか……、それとも……。
「あー、今日は生姜焼きですよ」
結果、流されて答えてしまう自分である。
「そう、わかった」
そう言って、彼女は納得したように一人で頷いている。
うん、全く考えてる事わからん。……この先大丈夫なんだろうか。
かくして、ただのしがない料理人だった俺は、悪の秘密結社の作戦リーダーとして戦う(?)事となった。
料理以外に取り得が無い俺に、果たして務まるのだろうか?
そして。
……カレーによる世界征服そのものに対して、誰もツッコまなかったこの組織は大丈夫何のだろうか。
カレーライス作戦第一号 終
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