カレーライス作戦第一号・其の壱
スポットライトが、俺が座っている席をまばゆく照らす。
なれない明るさに、思わず目を細めてしまい、あたりの景色を光が一色に塗りつぶしてしまう。
徐々に目が慣れて回りを眺めてみれば、自分と同じように席に着いている黒ずくめのローブの輩がスポットライトに照らし出されていく。
円卓に座り、各々が小さな部屋の中で沈黙を守っていると、正面の一段高くなった場所へと誰かが歩いてくる。
静寂の中にこつこつとエナメル質が床を叩く音が響く。
「全員出席しているな」
野太い、地に響く声が木霊する。教壇の上に立った男は、こちらを一度見回すと、合図をあげて教壇の後ろにあるスクリーンに映像を映し出させた。
四分割されたその映像には、俺や周りの人物とおなじ格好をした者と異形の怪人たちが、赤く奇抜な格好をしたやつらと戦っている映像が映される。
「不甲斐無い事に、我らが秘密結社モダルカンが世界征服に乗り出して早二年。少しでも進展があればよかったのだが、結果としては遅々として進んでいない! 何故だ!」
怒鳴り声と共に吐き出されたその問いに、誰も答えない。当然だろう、答えは既に後ろのスクリーンに映っているのだから。
「そうだ! 憎き正義を名乗るこいつらのせいで我々の計画はことごとく潰された!」
後ろのスクリーンでは、怪人たちが次々と爆散していく。そしてブチリと音を立てて再び黒い画面へ戻る。
「誠に由々しき事態だ……このままでは我々の計画がどんどん崩れてしまう」
「そのとおりです、首領」
すっと、席から一人が立ち上がる。黒いローブがはらりと落ち、中からキワドイボンテージ衣装に身を包んだ女性が声を荒げる。
「いつまでもやつらを野放しにしている訳にはいきません! 今すぐにでもやつらを……」
「まぁまて、戦闘統括フェンネルよ」
横に座っていた男……すでにローブは脱いでいたらしい。
決して作者がいちいちローブを脱ぐ描写を入れるのが面倒くさくなったわけでは無い。
ともかく、その大柄な男は立ち上がった女性幹部、フェンネルを嗜めるように声をかける。
「だからこそ、首領が直々に此度の会議を開いたのだ。何か案があるに違い無い」
「その通りだ」
自信に満ちた声が、会議室全体に響き渡る。
「さぁ、ご覧入れよう……これが吾輩が提案した新たなる作戦だ」
首領の笑い声と共に、再び煌々と光を灯したスクリーンには、大きく三文字の言葉が映し出されていた。
『カレー』