とある美術館にて
私は一枚のモノクロの作品に目を惹かれて、出口へ向かう足を止めた。
それはとても大きく、美術館の解説には縦三.五メートル、横七.八メートルと書いてあった。
まず大きさに惹かれたというのもあるが、それだけではなかった。
タイトルは知らなかったが見たことはあった。私でも知っている有名な作品だ。
横たわる人、逃げ惑う人々、それを見つめる牛のような化け物。まるでその地獄のような絵は、戦場を表していたらしい。
「君はその絵をどう思うかね?」
そう言って話しかけてきたのは近くのベンチに腰掛けた少しよれた、それでいて味のあるグレーのスーツを着たご老体だった。
「どう、とは?」
「そのままの意味だよ」
私は少し悩んだが見た感想をそのまま伝えた。
すると、ご老体は微笑んで言葉を続けた。
「私はこれを上手いとは思わない」
私は妙なことを言い出すご老体に困り、「はぁ」と適当な相づちを打った。
「ただ、すごいと思う。君の感想と同じだ」
少し話が長くなることを悟り、隣のベンチに座ることにした。不思議なことに美術になんの興味もない私はこのご老体に興味を持ったのだ。
「この作者の素晴らしいところはそこだとは思わんか? 誰にも上手いとは思わせず、すごいと思わせる。だから私はこの絵が好きなんだよ。時代背景や制作期間の短さを抜きにして人々にすごいと思わせるこの絵が」
話を聞き終えると、ご老体は一枚のとあるスペインの美術館のチケットを差し出してきた。
「もし興味がわいたならもらってはくれんかね?」
「いえ、受け取るわけには……」
そう言って断ろうとしたがご老体はチケットを押しつけ、そのまま去って行ってしまった。
私は呆然としてしまった。
だが私はベンチにあった薬袋を見て、海外旅行に行ってみることを決心した。
意味不明だったかもしれませんね。ただ勘の鋭い人なら分かってくれると信じています。




