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第4.5話

 勇者と名乗る不思議な青年が帰ってから、僕は片付けをしながら、ふと思い出した。


「お代、貰うの忘れてた」


 僕としたことが、これではまた店長に怒られてしまう。

 僕はたまに、珈琲だけ出して、お代を貰いそびれることがある。

 店長にも、口酸っぱく言われていたというのに。


 もちろん、珈琲はタダではないので、お代を貰うのは当たり前のことだ。

 だけど、この店にはメニュー表はおろか、店のどこにも珈琲の値段が記されていない。

 つまり、お客も珈琲を頼んだはいいが、その飲んだ珈琲がいくらするのか分からないのだ。

 そして、僕も、いや、僕だけでなく店長も、その値段を知らない。

 値段の決まっていないものを出すなんて、店としておかしいと思う。


 普通は店長が値段を決めるんじゃないのかと、以前彼女に問い詰めてはみたものの、めんどくさがり屋の彼女は欠伸混じりに言ったのだ。


 「好きにつけていいよ」と。

 全くもって意味がわからない。

 ただのアルバイトの僕の好きにしていいだなんて。


 じゃあ、タダでも良いのかと聞いてみたが、それはだめなのだという。

 それなのに、彼女は僕に口酸っぱく言うのだ——「必ず、対価を貰え」と。

 だから、一円でもいいから、最悪お金じゃなくてもいいから、必ずお代を貰わなければいけないのに。


 そう思い、青年が座っていたテーブルを拭こうとしたとき、ある物が目に入った。


「なにこれ……外国の硬貨……?」


 テーブルに、金色に輝く一枚の硬貨が置かれていた。

 硬貨には、天使の羽のような模様と女性の横顔が刻まれている。

 それに、見たことがない文字も刻まれていた。

 文字なのか、数字なのかも分からない、どこの国のものとも違う。


「もしかして、偽金!? ……いや、なわけないか」


 明らかに高級感漂う硬貨を、そっと僕はカウンターの机の引き出しにしまった。

 売ったらいくらになるんだろう、なんて邪念が一瞬頭をよぎったが。


「後で店長に聞いてみるか」


 それにしても、不思議なお客だった。

 自分を勇者だと比喩するなど、よほどの自信家でない限り言えないだろう。

 そんなことを思う僕は、やはり生粋の日本人なのだなと、しみじみ感じられる。


(あ! そうだ、課題……)


 片付け終えた僕は、当初の目的であった課題のことを思い出し、次のお客がくるまでと、手をつけ始めた。

 それから、閉店時間までお客が来ることはなかったが、何だかその日は課題が一向に進まなかった。

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