9. 初めてのダンジョン
俺とフロストは訓練場から出て、ギルドに戻る。
「ユージさん、見てください。あなたにぴったりな討伐依頼がありますよ!」
フロストがそう言い、討伐依頼が書かれた一枚の紙切れを指差す。
『ゴブリン討伐依頼 1体 報酬銀貨1枚』
ゴブリン1体か。初めての魔法での討伐には良いかもな。
「今のユージさんのウォーターボールだと倒せるかはわかりませんが、フッ。」
やっぱりこいつ、ちょくちょく俺のことを馬鹿にしてるな。フロスト、覚えてろよ。俺がフロストを超えるのはそう遠くない未来だ。
「そうですね。フロストさん。この依頼を受けることにします。」
「それでは受付嬢へ渡しに行きましょう」
受付嬢に渡しに行こうとしたところ、何者かに話しかけられる。
「ねえ」
振り向くとそこには幼い少女が...。じゃなくて、ギルドマスター様がいた。一体なんのようだ。
「ユージとフロント、せっかくなら手伝ってほしい。ダンジョン攻略。」
フロストって名前呼ばれるときいつもこんな感じなのか?少しかわいそう。フロントって『前』って意味だよな。後方で戦うやつにフロントって名前で呼ぶなよ。
「イリスさん。わかりました。ユージさん、ちょうど良かったですね。ダンジョン攻略初めてですよね?」
「ダンジョンになんて行ったこと無いです。」
「なら初体験ってのは大事ですからね!一緒に行きましょう。」
ダンジョンってどんな感じなんだろう。
「スチールリリーの他二人には既に伝えてあるから。集合はダンジョン前。」
「スチールリリーってなんですか?」
「スチールリリーは私フロストとクレイブさん、リリアさんでパーティを組んでいて、そのパーティ名です。」
直訳すると、鋼鉄の百合。
「私が加入したときからこの名前でしたよ。って、そんなこと話している場合ではありませんね。ダンジョン攻略の話でしたね。そういえば、ダンジョンはDランク以上しか参加できないはずですけど...」
「わたしが許可する。特別に。」
ということで。特別にダンジョン攻略に参加させてもらうこととなった。
イリスから話を聞くと、このダンジョンは6階層まであり、それぞれ生息している魔物のランクが違うらしい。下に行くほど魔物は強くなっていき、最下層にボスがいる。今回のダンジョンは中でも比較的容易な方で、1階層ではFランク、2階層ではF~E、3階層ではE、4階層ではE~D、5階層ではD、6階層はD~C、ボスはBってとこだ。
今回は俺達が行けるのはだいたい4階層くらいまで。クレイブがいればDまでは平気で倒せると思うが、俺がEランクなせいで危険が伴う可能性も考慮して3階層まで潜ることに。
基本はイリスが先導して魔物をばんばん倒してまっすぐボス部屋へ行ってボスをどかーんと魔法でやって終わりらしい。あくまでイリスが円滑にボス部屋へと進めるようにサポートするのが俺達の仕事ってことだな。ボスと戦っているときに別階層から魔物がなだれ込んでくることもあるらしく、各階層の魔物を処理する必要がある。
初めてのダンジョン攻略、頑張ろう。
ダンジョンの入口に到着した。そこには多くの冒険者たちが集まっていて、まあまあ賑わっている。緊張している人もいれば「おおー!」なんて言って士気を上げている人もいる。
ダンジョンに入る前のこの雰囲気、とても好き。イリスさんはもうダンジョン内に入っているようだ。
「おーい!ユージ!フロスト!」
この声は。
「クレイブさん!ユージさんもいますよ!」
「ああ、ギルドマスターから話は聞いている。ユージ、Eランクなのにダンジョン攻略に参加するんだってな?安心しろ、お前のことは俺達が守ってやる。」
「ありがとうございます。迷惑をかけますね。」
「全然良いのよ!ユージはもう私達の仲間でしょ?スチールリリーに正式加入したっていいんだからね!」
いやー本当にいい人たちだな。異世界ってこんなに平和で大丈夫?
ということで、俺はスチールリリーに一時的に加入することになった。ダンジョン攻略中のみ。
スィートピィへの道のりで戦ったときの陣形は俺とクレイブが前衛、リリアとフロストが後衛だったが、俺がウォーターボールを実践で使いたいがために今回は他はそのままで、俺だけ前衛と後衛の間に配置されることになった。中衛とでも言うのか。
「皆の衆!ダンジョン攻略開始!」
リーダーっぽい人の合図によって冒険者達が一斉にダンジョンへなだれ込む。調子に乗って全速力で走って中に入っていく人や、「俺は絶対に生きて帰るんだ〜!」と言って入っていく人もいた。死亡フラグたてんなよ。
ダンジョン内に入ると前、右、左の3方向に道が別れていた。それぞれの道に魔物がいるんだろう。俺達は前の道に進むことになった。
道を進んでいくと、早速魔物が現れだす。たしかここは1階層だからFランクの魔物が出てくるのか。最初に遭遇したのはコボルト3体。
リリアが軽やかな身のこなしで弓を引き、矢を1体のコボルトの頭に命中させる。即死だ。
「うおおおおおおお!」
クレイブが大剣を横スイングさせる。
ザシュ!という鈍い音と共に二体のコボルトの上半身と下半身は分断された。
「ユージさんと私は出番がありませんね。」
「とはいえユージさん、油断は禁物ですよ。ここから魔物の数が増えていきますから。」
このあと、俺はウォーターボールでゴブリンを1体、フロストが見本としてウォーターボールでゴブリンを2体倒して、それ以外のほとんどはクレイブとリリアが倒して楽々1階層は攻略することができた。1階層にはFランクのゴブリンとコボルトしか生息していないみたいだった。2階層はどうだろうか。
2階層からはEランクの魔物も含まれるようだ。ちなみにイリスが先導してばんばん進んでいっているため次の階層への階段は見つけているようだった。
階段へ行くとそこにはイリスが倒したであろう魔物の残骸が散乱していた。
ぐちゃぐちゃすぎて元の魔物の原型が保たれていない。イリスの魔法、どんだけ強いんだ。ダンジョンぶっ壊しちゃうんじゃないの。
俺達は階段を降りていき、2階層の攻略を始める。
「どうやら2階層からは床にトラップがあるようです。みなさん気をつけてください。」
フロストはしゃがみ込み、床をまじまじと見つめている。
床を一目見るだけで罠があるかないかわかるのか。すごいな。
「ユージさんはトラップを見るのが初めてですよね?」
「トラップには色々な種類があってですね。例えば今さっき見たトラップはスパイクトラップです。踏むとトゲが飛び出してきて足に穴が空きます。」
こいつ、今さらっと怖いこと言った。ひえ〜、想像しただけでゾワゾワする!
「あとは踏むと毒ガスが出てくるトラップ。これは個人ではなくパーティ全体に影響を及ぼすので非常に厄介です。それと転移トラップもあります。転移トラップを踏むとダンジョン内でランダムな位置にテレポートしてしまうので注意が必要です。魔物の巣に飛んだ場合は終わりです。」
「極稀にダンジョンの壁の中にテレポートするときもあります。そうなったら死にますね。ダンジョンで帰らぬ人となるのは転移トラップを踏んだ人が多いです。」
ダンジョン、怖すぎる。久しぶりに本格的な生命の危機を感じてる。これを平然とやってのける冒険者たちはすごいな。
と、フロストからトラップについての説明を受けながら進んでいると...
見たこと無い魔物が1体。全身がツタで構成されているヘビのような感じだ。
「あの魔物は?」
「あれはEランクのヴァインサーペントですね。」
「ツタの魔物です。何本かのツタが集合してなんらかの力で魔物へと変貌したとされています。ヘビのような動きをするのが特徴です。」
ならばここはファイアを使うのが奇策ではないか?ツタを燃やせばいける。いや、ウォーターボールが使えるならファイアボールもいけるだろ。
「ファイ――」
詠唱をしようとしたらリリアに手で口を封じられた。
クレイブとフロストは焦った顔をしている。
「火属性魔法はダメ!毒が発生するのよ!」
「そういえばユージさんに言っていませんでしたね。密閉された場所で火属性魔法を使うと毒が発生し、最悪みなさんの命の危機が伴うんですよ」
毒?
もしかして...一酸化炭素中毒?
ああ、そうか、この世界の化学は発達していないのか。
だから毒と呼ばれているのか。なるほど。
火属性魔法は控えるようにしよう。
とかやってたらヴァインサーペントが目の前に!
この魔物はツタを自由自在に操れるため、多彩な動きができる。
クレイブとリリアの攻撃は当たりそうにない。
「こういうときは私の出番ですね!」
「アイシクルランス!」
3つのアイシクルランスがヴァインサーペントの周りに生成され、一斉に放出される。
3本の氷の槍がツタの魔物を貫いた。
ヴァインサーペントはパリパリになって崩れ落ちていく。
花を液体窒素につけたあとのように。
「フロストさんの魔法すごいですね。さすが3属性持ちって感じです。」
「3属性持ち?私は2属性しかもっていませんよ。」
「え?だって、水と土と氷でしょう?」
「ああ、ユージさん。氷は水に入ります。」
フロストが多少ニヤけた顔で言ってくる。俺を馬鹿にしているかのような顔。なぎ倒すぞ。
とまあ普通に旅の疲労などもあって忘れていた。そういえばエルダも言っていた、氷は水の上位互換だと。
2階層はトラップが多いだけで魔物は少なかった。俺達のパーティではゴブリンを5体、ヴァインサーペントを2体倒した。ヴァインサーペントは氷が弱点らしく、倒せるのはフロストしかいないみたいだ。フロントに感謝。あ、フロストだった。
3階層に到着した。俺達が行ける最後の階層。
1,2階層同様パーティごとに別れて魔物を制圧していく。何個か道があったうち俺達のパーティは細い道を進んでいくことになった。
なぜか魔物がいない。
「魔物がいませんね」
「そうね。嫌な予感がするわ」
「まあ、俺にかかりゃ大丈夫さ」
「油断は禁物ですよ」
もう少し先に進んでいくと。何かがいた。
リリアの嫌な予感は的中した。まあ、そうだと思ってた。
「あれはオークですね。Dランクです。」
なぜDランクがここに?下の階層から上に上がってきたのか。オーク、俺達で勝てるのか。
いや勝てるな。クレイブがやってくれるだろう。とはいえ一筋縄ではいかない。
うーんどうしたものか。
俺は弱者なりの知恵を見出すことにした。
その名も『オークの目にウォーターボール!水で何も見えないよー!作戦』
いきます!
「ウォーターボール!」
オークの顔面にウォーターボールを命中させた。コントロール◯
顔を必死に拭っているオークさん、頑張って。
「アイシクルランス!」
オークが顔を拭っている隙にフロストが2本の氷の槍をオークの両足にぶっ刺す。
「グオオオオオオオ!」
両足に氷の槍を刺されたオークは動けなくなっている。痛そう。
ザシュィィン!
そしてクレイブの斬撃によってオークの左手が切断される。痛そう。
ゴブリンとは違い、オークの肉を切る音は更に鈍い。
完全に動けなくなったところをリリアが弓でオークの頭を狙い撃ち。
オークの頭から血が吹き出た後、倒れる。
これが長年共に行動してきたチームワーク。
俺、なにもしてないよ。
「やったわね」
「Dランクが出現するとは予想外だったが、朝飯前だな!」
色々なことがあったが、俺達がオークと戦っている間に3階層の魔物の一掃は終わっていた。
あとはイリス次第といったところか。まあAランクの彼女なら余裕でしょ。
3階層まで攻略した俺達は、任務完了!といったところでダンジョンを出てギルドへ戻り、魔物素材の買い取りを行う。
報酬はゴブリンとコボルトを合わせて合計18体倒し銀貨18枚、ヴァインサーペントは2体で銀貨10枚、オークは銀貨20枚となり、合計銀貨48枚となった。4人で分割し、1人12枚の銀貨を受け取り、ひとまず解散となった。イリスの攻略が終わり次第、ギルドに召集されることになるだろう
さて、それまで何をしようか。ひとまず少し遅くなったが昼飯でも食べに行くか。




