第36話
「ねえ。里。私さ、中学生のころ、里のことずっと好きだったんだ」車の中で美星は言う。
「俺も美星のこと、ずっと好きやったよ」里は言う。
「ここでずっと暮らしたい」
「暮らしたらええよ」
山間の道を走りながらそんなことを里は言った。
里が言ったように渓流はとても綺麗なところだった。
「魚取れるの?」
「ああ。取れる。たくさんおる。いくらでも釣れるで」里は言う。
「へー。すごい」
川原で里と一緒に魚釣りの準備をしている美星は言う。
里の言う通り魚はたくさん釣ることができた。
「楽しいやろ?」
「うん。楽しい」
きらきらしている魚(あゆだろうか?)を見ながらにっこりと笑って美星は言った。
「祭りがあるんよ。二人で行こうか」帰りの車の中で里が言った。
「お祭りがあるの? いきたい!」驚きながら美星は言う。
「じゃあ決まりやな。昼飯食べたら準備しよ」
里は車を街に向かって走らせる。
美星が初めてキスをしたのは十四歳の雨の帰り道でのことだった。
相手は里で里も初めてのキスだったらしい。(本当かな?)
「今日はありがとう。篠崎」
「もう泣いてへんな。よかった」
と本当に安心した顔をして里は言った。
「引っ越しもうすぐだっけ?」
「ああ。もうすぐや。まあもう慣れたけどな」
「引っ越しばかりだと大変?」
「大変やけどいいこともいっぱいあるよ。いろんな土地が見られるし、友達もたくさんできる。それから」
「それから、なに?」
「なんでもない」
笑って里はそう言った。
お昼ご飯は街で食べることにした。
有名なお食事処があるのだそうだ。
「里はもう引っ越しはしないの?」
「ああ。せえへんよ。この街にずっといる」
里が連れていってくれたお店は古い家の中にある歴史あるお店だった。(テーブルの外には、小さな川が流れている)
お蕎麦を食べて、お魚を食べて、食後に綺麗な和菓子を食べた。
「どう? 満足した?」
「満足した」と美星は言った。
夜空にはとても綺麗な星があった。
久しぶりの浴衣を着て、お祭りの道を歩きながら美星は里が教えてくれた夜空に輝く星を見る。
「もう少ししたら、帰るんやんな」里が言う。
「うん。帰る」
里と手をつなぎながら美星はいう。
たくさんの人たちのざわめきと、音楽と、ぼんやりと明るい橙色の光がとても幻想的だった。
「いろいろとやらなきゃいけないことがあるから」
「それが終わったら、どうする?」
「ここに戻ってくる」
「そうやな。それがいいわ」里は言う。
「里。ありがとう」
「俺はなんもしてへんよ」
美星は里とキスをする。
「恥ずかしいな」
「全然、恥ずかしくないよ」幸せそうな顔で、泣きながら、里の腕の中で美星は言った。
美星 終わり




