第一章 第九話 冒険者ギルド①
「それでは剣術試験となります、五郎さん! 先ずは好きに振り回してください」
「了解した」
係員から渡された刀は刃引きされていて攻撃力が減衰された物だ。
怪我をする可能性が低い刀を渡されたので、五郎と名乗る事になった彼は、此の世界に出現して以来、初の剣術の型を試す事にした。
(・・・此の2日間で、様々な身体能力の確認の為、身体が記憶している体幹を揺らさない歩法や、身体移動を駆使してみたが、敢えて剣や刀等の武器を用いた武術の動きは試していなかった・・・。
俺としても此の身体に、どれほどの武術が記憶されているか愉しみだ!)
呼吸を落ち着けてから刀を正眼に構え、仮想の相手を思念上に想定して、それに向けて身体が憶えている剣術の型を開始した。
「ヤエーッ!」
体の奥底から気合の入った言葉が自然に飛び出し、先ずは正眼からの突きが行われ、瞬時に元の正眼の構えに戻ると、面打ち、小手打ち、胴切り、と連続技が行われ、そのまま後退する体勢で、下段斬り、上段切り返し、燕返し、を行いつつ元いた場所に帰ると、その場で八相の構えに切り替えると、凄まじい猿叫が怒号の様に飛び出した。
「キエエエェェーッ!」
周りがその凄まじさに静まり返る中、五郎と名乗る事になった彼は、練習用に置いてあった立木に向かって突進し、又も別の猿叫が飛び出した。
「チェストーッ!」
その怒号が飛び出すと共に、凄まじい連撃が練習用に置いてあった立木に左右から襲い掛かり、僅か5撃で立木を打ち倒してしまった。
周りで練習していた他の冒険者も、その凄まじい猿叫と立木を打ち倒した連撃に息を飲んで見つめていた。
五郎と名乗る事になった彼が一連の剣術の型を終えて、係員に刀を返したのだが、係員は呆然としていて刀を受け取らずに倒れてしまった立木をただ見つめている。
5秒ほどして漸く目の前に返された刀を受け取った係員は、脂汗を滲ませながら魔力係数を測るオーブの有る別室に彼を案内した。
◇◆◇◇◆◇
此の【冒険者ギルド】でも有名な一級女性魔術師【詩奈】と、一級重盾戦士【権六】率いる一級【冒険者】チーム【不動】のチームメイトがワザワザ見物に来た事で、注目株と思いぞろぞろと見学に来た他の【冒険者】達は、凄まじいまでの猿叫に度肝を抜かれ、太さ30センチは下らない立木を僅か5撃で打ち倒してしまった事実に、中々の剣術使いであると認識した。
ざわざわとそこかしこで今見た撃剣を評する輪が出来上がっていたが、彼が案内された魔力係数を測るオーブの有る別室でどよめきが起こった事で、再度静寂に陥り、やがて出てきた彼と係員に注目した。
そのまま元の受付所に戻った彼は預けていた鑑札を受け取り、新たに発行される【冒険者ギルド】カードの金属札の内容を刻むべく、建物奥にある応接室に向かった。
此の時点で興味を惹かれて見ていた冒険者達は、オオッとどよめいた。
何故なら【冒険者ギルド】カードの金属札の内容を刻む場合というのは、三級以上の【冒険者】になった事を意味する。
因みに【冒険者】の等級は通常6段階存在し、六級から始まり一級を持って一応頭打ちになるが、もしも明らかにそれを超える場合は、国家として名誉貴族の称号が与えられ、二つ名を名乗る事も認められた上で国家お抱えの【特級】として扱われる。
【冒険者ギルド】カードの金属札に刻み込む作業は、特殊な魔法技術を用いる為に、冒険者どころか【冒険者ギルド】でもギルド長や専門の魔法使い以外、専用の部屋には入室も許されない。
なので、五郎と名乗る事になった彼も、その隣室で細々とした【冒険者ギルド】カードの内容を、係員と供に推敲する事になっていた。
何故かと云うと、実は五郎と名乗る【冒険者】は既に【冒険者ギルド】内でも6人居て、引退した者まで含めると18人も所属していた事になっていて、「どこどこ村の、誰々の息子の五郎」と名前欄に書かざるを得ず、瞬時に同僚が名前を見ただけで判別し辛いらしく、ニックネームなどを名前欄に刻んで良いらしい。
なので係員は理由を説明した上で彼には、名前欄に刻むニックネームを考えて貰っていたのだ。
彼は10秒程推敲してから、ある名前を係員に告げ、文字を書面に書いた。
「【雷流】と刻んで貰いたい。 頭に天啓の様に閃きました」
書面に書かれた【雷流】の名前を確認し、係員は内容と名前を再度彼に確かめてから隣室に向かう専用の職員に手渡した。
此の時から【雷流】と云うのが、彼の名として此の世界に知られる事になるのだった!
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