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01 月夜のシーフテイカー

オヴとリネアの冒険が始まる。

 月明りに照らされる牧場地帯であり犯罪者の隔離村である、ノヒン王国のイタコト村。家畜もすっかり寝静まった頃、ずるずると引きずられる音と少女の助けを求める悲鳴が響き渡った。


「たすけて!いやだ!いやだ!」


引きずられて地面に一直線の溝を作っているのは、この村で農業を営み暮らしている家の一人娘である。歳は8才、一方引きずっているのはこの村で養鶏場を営む家の息子オヴだ。年齢は18歳、好きなものは鶏、嫌いなことは服が汚れること。


「大人しく来るんだよッ!」


揺れるランタンの蠟燭を気にしながら、少女の両手首を縛る縄をギュッと引いて無理やり運んでいると、この少女を探していた父親が汗をボタボタ垂らしながら走ってきた。


「お願いします!娘を助けてください!」


父親はオヴに必死に縋りついて懇願した。オヴはこのイタコト村では有名人である。とはいえ、いい意味でというわけではない。オヴはシーフテイカーである。財産を盗まれた人から盗られたものの金額の4割程度のお金をもらい、盗られたものを取り返す仕事である。オヴはオリスクという町にあるシーフテイカー組織のエースだ。


「娘が盗んだものは返します!お金も払います!だから…どうか…」


父親は震えた手で小袋を差し出す。その様子からして彼の全財産だろう。


「娘さんが盗んだのは花です。もう同じものは二度と手に入らない。諦めてください」


父親が差し出した硬貨の入った袋を突き返して言った。理由は二つあった。1つ目は犯人を処刑場まで連れて行けばこれよりもたくさんのお金が手に入るため、2つ目はこのお金を受け取った後、この父親が困窮し盗みを犯せば、少女のように依頼が入り、捕まえなくてはいけなくなる可能性があるからだ。


「仕方ない…」


オヴがそうボソッと呟くと、父親の顔に一瞬だけ希望が見えたが、その顔はすぐに絶望に変わることになる。オヴが腰のダガーナイフを取り出したのだ。処刑場まで運ぶ犯人は顔さえ分かればいいのだ。


「パパっ…」


一段と大きな声が一瞬響いた。オヴのダガーナイフは少女の首に深々と突き刺さり、ナイフを抜くと赤い血が噴水のように流れ出た。


「あ゛あ゛あ゛ーッ!な゛んで!嘘だ!」


その光景を見た父親は絶望し、頭を地面に強く打ち付け続け、娘と共にこの世を去った。後に聞いた話だが母親も数日後に首を吊ったそうだ。


「オヴ、何かあった?」


騒ぎを聞きつけて外に出てきたのは近くの古い小屋に住んでいる幼馴染の女性、リネアだ。親に捨てられ一人でオオカミやキツネを追い払う仕事をして生活している。彼女の歳は16だったか17だったか、まあ気にする程のことではない。リネアは月明りに照らされた道が赤く染まっていることに少し驚いた様子を見せたが、すぐに状況を察したようだ。


「器用だね。血が服についていないなんて」


「いい服じゃないけど、親に作ってもらった大切な服だからね」


そう言うオヴの手には血がべったりと付いていた。服に付かないように血の吹き出す方向を手で変えていたのだ。リネアは折れた箒の柄を構えると魔法でその血を洗い流した。


「せせらぐ水」


「ありがとう。あとリネアのボロ小屋にある荷車を貸してくれ。金はそこに落ちている袋に入っている」


「いいよ」


少女の死体を載せて布をかけると、オヴはオリスクに向かって歩き出した。リネアは小袋を小屋に入れ、父親の額の血を丁寧に拭き取り彼らの家まで担いで運んだ。


8日経った頃、地面の血は雨ですっかり流されて何事もなかったかのように人々はそこを通り、少女の両親は近くの森に丁寧に埋葬されていた。オヴは一仕事を終え、荷車にトウモロコシや野菜くず、その他穀物などを載せてイタコト村に戻ってきた。


「お帰りオヴ」


「ただいま。はい、お土産」


荷車を貸してもらったお礼として、リネアに白くて柔らかいパンと小瓶に入った蜂蜜を渡した。するとリネアの顔はパアッと明るくなりとても喜んでいる様子だ。


「ありがと。あっ、亡くなった両親のお墓はいつもの森にあるからね」


「ああ、供える花も買ってきたよ」


森に入り今まで殺めてきた人たちの眠る数十のお墓を丁寧に磨き上げて、先日殺めた両親のお墓に一輪ずつシラユリを供え、家に帰った。


「帰ったか」


「あら、お帰りなさい」


「ただいま、父さん、母さん。今回は鶏たちに上等なトウモロコシを用意できるよ」


「それはよかった」


荷物を降ろし、トウモロコシは乾燥させ、野菜くずは肥料にするために腐葉土と混ぜ、穀物は倉庫に保管する。一通りの作業を終わらせると養鶏場に向かう。


「餌の時間だぞー!俺より広い所に住んでいるんだから早くおいでー!」


家の建物の3倍程度面積がある平飼いの鶏小屋に入りえさを与えていく。その間に両親が卵を回収して鶏たちに感づかれる前に家に戻っていった。


「お仕事完了!」


荷車をリネアに返しに行くと彼女はいつもの様子と違い、真面目な表情をしていた。


「荷車戻しておくよ。リネア?どうした?」


リネアはこちらの顔をのぞき込んで、少し考えた後、とある提案をしてきた。


「オヴ、私と一緒に冒険者やらない?」


意外な提案を受け少し驚いたが、彼女の様子からよほどの事情があるのだと察した。この後の決断がこのノヒン王国を大きく変えることを二人はまだ知らない。


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― 新着の感想 ―
拝読いたしました! オヴの日常やリネアとのやり取りで「この狂気は日常に根付いている」ことがわかりますね。 グリム童話やゴシック調に近い寓話的な怖さが魅力的でした!
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