2.自分と向き合う
「なんなんだあのショタコンは!? 勝手に人を呼び出しておいて『こんな冴えないおっさんはお呼びでない』だの『誰も貰ってくれない』だの好き勝手言ってくれやがって……!!! 散々だよもう!!!!!」
森の中に響き渡る明らかに声変わり前の覇気のない怒号を耳にして、己の体が本当に少年化したのを実感する。目線も低ければ、手足も小さい。これはもう本当に後戻り出来ない状況になってしまったと理解した。
よくある異世界転生物では冴えないおっさんが活躍する物語は定番だったが、あのショタコンはどうも、それは好みじゃなかったらしい。
グッバイ俺のハーレムチャンス……。
一先ず今は取り乱しても仕方がない。一旦状況を整理して、これからどう人里におりていくか、当面の食料や住処をどうするかを考えなければならない。これを怠ったら死ぬ。確実に死ぬ。
そういえばステータスって唱えろって言ってたよな……。
よくあるテンプレートものならチートな能力がお決まりだが、ここまで王道ルートから外してくると、良い方と悪い方のどちらに振れるかが分からない。が、あの神の事だ。なんとなくどちらに振れているかが分かる。怖いなぁ……ステータス見るの。もう少し後でもいいかな……。
いや、ここで怖気付いてどうする。心までショタに引っ張られるんじゃない! 男を見せろ!!!
「ステータス!」
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名前:ユウト
性別:男 年齢:10歳 種族:人族
職業:???
称号:神より愛されし者
スキル:???
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「ですよねぇ!? 知ってたよ!」
肝心な所が全部隠されてる……。最悪だ、悪い方に触れてしまった……。むしろ何で唱えろって言ったのが謎なレベルで何も分からない。
落ち込んでなんかいられない……。ステータスが見えない以上、日が落ちるまでに火、水、食、住を見つけられなければほんとに詰みだ。
一旦魔法系が使えるかだけは確認しておくか……。そう、そうだよな、スキルが見えないからって魔法が使えないとは限らないもんな。物は試しだ。
「ファイヤーボール!」
何も起こらない。いや、まだだ、まだ適性がなかっただけの可能性がある。
「ウォーターボール!」
……何も、起こらない。
「ウィンドショット……! ロックバレル…………! ヒ、ヒール……? ダークネス…………?」
全滅。まさかの思いつく属性全て撃沈。詠唱が間違っている可能性はあるが、そうなってくるともう今出来ることは何も無い。
「嘘だろ……どうしろって言うんだよ……。異世界に転生? して、直ぐに死ぬとか冗談じゃないぞ」
項垂れてる時間が惜しい。こうなったら意地でも水場を探してやる……!
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「あった……!!!」
水場を探そうにも知識チートがある訳でもなく、闇雲に森の中を練り歩いた結果、探索開始から約4時間後にようやく水場を発見。木漏れ日が差し込み、どこか神秘的な雰囲気を感じる湖。見慣れないが可愛げのある動物達もここの水を飲んでいるから、安全だと信じたい。
「長かった……しんどかった……。死ぬかと思ったぁ……!!!」
ここにやってくるまでに何か巨大な生き物を何度か見かけ、その度に行く方向を変えていたため、今が最初の地点からどのくらい離れていてどの方角に歩いてきたのかも分からなくなっており、人里に降りれる可能性がグッと減った。
「とりあえず水! 水の確保!」
きっと飲める! 大丈夫! 寄生虫とか未知の病原体とかこわ、く……。怖くね? 煮沸……せめて煮沸したい。でもこの細腕で木をグリグリして1から火を付けるなんて無理に等しいと思うぞ!? 文明の力って凄かったんだな……。
現代社会の知識が仇となり、目の前の神秘的な湖の水を飲めないで項垂れていると、後ろから何者かにつままれ? 湖に落とされた。
「え!? は!? 寄生虫! 病原体!!! てか足! 着くし、座れる……」
驚きと恥ずかしさから、ドッドッと高鳴る心臓の鼓動を押さえ付けながら、先程まで居たであろう場所に目をやると、角の生えた、たてがみがとても荘厳な白馬が佇んでいた。
「ユニコーン……?」
ファンタジー小説大好き人間だった自分から言わせてもらうと、そうとしか呼称のしようがない存在の登場に、先程とは別の胸の高鳴りが押し寄せて来る。
道中にも魔物と思しき生き物を見かけたが、ファンタジーに思いを馳せている時間などなかったので、これが初のファンタジーとの対面とさせて頂きたい。
そうこう考えていると、ユニコーンの方から歩み寄ってきてくれた。
「……触ってもいいのか?」
こくり、と頷いたため、恐る恐るその頬に手を伸ばすと、向こうから手に触れに来てくれた。
「お、おぉ〜……」
思ったより筋肉質で、すべすべで、それでもこの世界に来て初めての温もりを感じ、自分の語彙力では言い表せない程に感動してしまった。
「ん? 君、俺の言葉わかるの?」
その言葉にもこくり、と頷くユニコーン。
来た!!! 意思疎通の取れる相手! 最初の相手がユニコーンなのが納得いかないけどそれもこれも全て良し!
「あのさ、早速なんだけど質問いい……? この水、俺が飲んでも平気……?」
少し悩んでからまた首を縦に振ってくれた。悩んだ時間は怖いけどこれは飲めるってことでいい。いいはず!
「いただきます!」
手で水を掬い、思うままに水を飲む。これはあれだ、なんか標高の高い山から出てくる美味しい水みたいな水だ。いや、それより美味しいかもしれない。喉が渇いていたからって言うのもあるんだろうが、それにしたって美味い。
「ふぅ〜……生き返ったぁ〜……!!!」
喉を潤し、早急に見つけなければならない課題をひとつ達成したことで、張り詰めていた死へのビジョンが少しだけ遠のいた気がした。
それにしても……流石ショタコンの神様が作った肉体なだけある。
水面に映る姿でしか確認出来ないが……。
若さを象徴する潤いを持ったハリのある白魚のような肌に、濡れていても分かる綺麗な黒髪。スラリと伸びた古傷やしみ1つ無い手足。叫び声で分かったがかなりの美声と来たもんだ。しまいには短パンときましたか、そうですか。
あまりにもショタコンほいほい過ぎる。
鏡で自分の顔を確認しなくてもわかる。これは絶対に美少年。
この容姿にしてくれた感謝も感じてしまうほどに整っている顔に見惚れていると、
「くしゅんっ」
これまた可愛いくしゃみが出てしまった。
あ、どうしようこれ。全身ずぶ濡れ……。
先程遠のいたはずの死神がまた近付いて来た。まずい。どうしよう。と、顔を青ざめさせていると、ユニコーンが鳴いた。同時に濡れていた髪や服が乾き、どこか暖かく感じる。
「これ、君が……?」
すると、ユニコーンは申し訳なさそうに鳴いた。
「はは、いいんだよ。ありがとうね」
頭を撫でてやると、嬉しそうに鳴き、俺を口でくわえ、ユニコーンの背中に乗せてきた。
「どこか連れて行ってくれるのか?」
返事をするかのようにヒヒーンと一声鳴くと、早馬のごとく駆け抜けてくれた。何処に行くのかは分からないが。
ん? 待てこれ、連れ去られ……? いや、深くは考えないようにしよう。きっといいように、なる……よね?




