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第5話 ねぇ、褒めてよ

「……というわけで、これが私のスキルです。チェキ」


 そう言って、指を二回鳴らす。

 チェキ、と口にした直後に指を二回鳴らす。それが、このスキルの発動条件だったのだ。


 今までスキルに気がつかないはずだわ。

 つい先日まで、私は前世の記憶がなかったんだもの。


 いきなり現れたチェキを見て、ミレーユたちは目を丸くした。


「この機械が、チェキって言うの?」

「はい。試しに撮ってみますか?」


 スキルというだけあって、チェキフィルムは必要ないらしい。


 そう考えれば、かなりの経費削減よね。


「じゃあ……パトリシアちゃん、ちょっとおいで」


 手招きすると、パトリシアが笑顔で近寄ってきた。ほっぺがもちもちしていて可愛い。

 笑って、と声をかけ、すぐにチェキを撮る。出てきたチェキを見て、ミレーユが感嘆の声をもらした。


「なにこれ! すごいわ。パトリシアそっくり……っていうか、パトリシアそのものよね?」

「はい。そういう機械なんです」

「これがあれば、パトリシアの幼い姿をいつまでも保存できちゃうってこと!?」


 日頃の穏やかな態度からは想像もつかない興奮ぶりである。


「あ、あの、シルヴィー、ちょっといいかしら?」


 そう言って手を上げたのはオデットだ。クールな美人、という雰囲気の彼女だが、今はクールさの欠片もない。


「それって、二人を映すこともできるの?」

「はい。大丈夫ですよ。むしろ、その使い方の方が一般的なくらいです」

「お金はいくらでも払うわ。だから……」


 オデットはそう言うと、ルネの肩を抱き寄せた。


「ルネさんと二人で、めちゃくちゃ撮ってくれない!?」


 その言葉を聞いて、ルネが面倒くさそうに溜息を吐く。しかしオデットはそんなことは気にしない。


「あ、それから、ルネさん単独のも何枚かもらえる? 笑ってるのもいいけど、怒った感じのとか。あとは……」

「いい加減にしなさい、アンタ」

「だってこんなチャンス、もうこないかもしれないんですよ!?」


 オデットの必死過ぎる形相に、ルネが一歩退いた。


 クールな美人かと思ってたけど、オデットさんって、ルネさんの強火オタクだったんだ……。


「落ち着いてください、皆さん。皆さんからは、お金をとるつもりはありませんから」


 ただし、客は違う。スキルが判明した時は正直がっかりしてしまったが、冷静に考えてみると、かなり金になるスキルだ。


「明日から、チェキもメニューに入れちゃいましょう」


 これで大儲け、間違いなしだわ!





 シルヴィーの予想通り、チェキは大盛況だった。

 この世界にはそもそも、写真という概念すらない。そんな世界で、チェキという新しいものに惹かれる客はかなり多かった。


「チェキ一枚が銀貨一枚って、かなりいい商売よね」


 ドリンクをとりにきたタイミングで、ルネが言った。


「はい。正直、タダで銀貨が手に入るようなものです」

「スキルを使っても、疲れたりはしないの?」

「特には」

「すごいわね」


 ありがとうございます、と礼を言おうとしたところで、ルネさーん! というオデットの声が聞こえた。


「ルネさん、チェキ撮影入りましたよ!」

「私、フロアに戻るわね」


 慌ててルネが客のところへ戻っていく。彼女はかなりコンカフェ適正があったらしく、連日大人気だ。


 チェキは一台しか出せないけど、私以外が使うこともできる。

 私が離れすぎると消えてしまうみたいだけど、店内にいれば十分みたい。


 水を飲んで、一息つく。朝から働きっぱなしで、それなりに疲れてしまった。


 ……そういえば今日、リュカさん、きてないわね。


 チェキのことを知れば、間違いなく彼は撮りたがるだろう。しかし、チェキ一枚の値段は銀貨一枚。

 貧乏冒険者の彼が払える額ではない。


 働くって言ってたけど、大丈夫なのかしら?

 冒険者ギルドに依頼される仕事には、危険度が高いものもあるもの。


 売上のためとはいえ、自分のせいでリュカが大変な思いをしているかもしれない、と考えると心配になる。

 ただの客ではあるのだが、どこか放っておけない雰囲気があるのだ。


「まあ、とりあえず、今は仕事に集中しなきゃ」





 閉店間際に、リュカがやってきた。

 衣服は泥で汚れているし、手足には小さな傷がたくさんある。汗だくで、ふわふわの髪も今日は湿っている。


「リュ……旦那さま!?」


 思わず名前を呼びそうになり、慌てて訂正する。あくまでも、ここでは旦那さまだ。特別扱いしている、なんて他の客に思われたら困る。


 ぼろぼろの姿で現れたリュカに、店内の客も困惑しているようだ。


「シルヴィー。なんか今日から、シルヴィーとチェキって言うのが撮れるって、聞いたんだけど」

「はい。今日からの新メニューなんです。ただ、お値段が……」


 リュカはシルヴィーの言葉を遮り、ドン! と重たそうな革袋をテーブルに叩きつけた。


「これで、いっぱい撮れるでしょ。他の男と撮る暇なんてなくなるよね」


 袋の中には、大量の金貨が詰まっていた。


 え? どういうこと? これ、全部本物の金貨……!?


「だ、旦那さま、これは……!?」

「俺、働いてきたんだ。偉いでしょ? シルヴィーのために、報酬額が高い仕事やってきた。ねえ、褒めてよ。俺の嫁でしょ?」


 ねえ、とまるで子供のように甘えた声で迫られる。


「ちょっと待ってください。その、こんなにお金をもらえる仕事って、なにを……?」


 まさか、違法な仕事に手を出してしまったの? 私のせいで?


「ドラゴン討伐だよ」

「えっ?」

「だから、俺、ドラゴン倒してきた。だるかったけど」

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