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恋愛事情①

 この宗教は女性が多い。戸別訪問を受けるのは主婦であり、週中の戸別訪問を行うのも主婦だからだ。僕の家に来たのも坂上姉妹という主婦だったし、集会の伝道活動、群れ単位の伝道活動の出席者はほとんどが主婦だ。それで女性が多く、男性は重宝される。


 独身者はというと、やはり女性のほうが多い。女の子のほうが親の言うことを守りやすいからなのか、それ以外の理由があるのかわからないが、なぜか若い女性は同世代の男性より多い。僕は今29歳なのだが30代になると男性の独身者はもっと少なく、女性はその倍ほどいるような感じだ。それで兄弟で独身が長い人は、よほど何か信念があるのか、それとも性格もしくはその他の問題を抱えているかのどちらかになってしまう。一昔前は、男女比にもっと開きがあり、一人の兄弟にトラック一台分の姉妹がいる、などとも言われていたようだ。でも今の20代はというとそこまで男女の比率に差はない。でもやはり姉妹たちのほうが多い。


 ということで必然的に女性と話す機会は多くなる。それも子どもの時からなので、女性と話すことに抵抗がなくなる。中には男性と話すより女性と話すほうが楽だという兄弟もいるほどだ。僕たちは伝道活動に勤しむが、息抜きもよくする。例えば伝道活動の合間に休憩時間を設け、30分から1時間ほどお茶を飲み、会話を楽しむ。長谷川兄弟と一緒に伝道活動をする水曜日の午後は二人で休憩をとるが、集会の伝道活動、群れ単位の伝道活動の時には数人で誰かの家に入ってお茶を飲み、会話を楽しむ。そういう時に若い姉妹と会話をしたりする。


 その他にも週末の集まりの後に一緒に食事をすることがある。週末の集まりは日曜日の午前中か、集会によっては日曜日の午後に行われるのだが、その時に別の集会から長老がやってきて講演をすることがある。それを訪問講演という。訪問講演の後には必ず、誰かの家で食事を準備し講演者と一緒に来た人を招待する。この食事の招待は自発的に行われることになっている。しかしそれは建前で、群れごとの当番制であることがほとんどだ。その際、講演者が同じ集会の若者を連れてくることがあるのだが、そういう時はこちらも若い人を集めて歓迎する。そうした時が若い男女の知り合うきっかけの一つになる。


 話が少し逸れてしまうが、訪問講演でいつも思い出す出来事がある。この宗教では聖書にある通り、褒められることや正しいこと、人を励ますことを話すように教えられている。それが時に悲劇を生むことがある。神戸の集会にいた頃の事だ。隣の隣の集会だったか講演者が来た。若い人が付いてくるということではなかったが、講演者夫妻が若いということもあり、僕たち若者が食事を招待することにした。集まりでお会いすると講演者は見た感じ30歳前後ではないだろうか、講演者としてはかなり若いほうだった。兄弟はやせていてそこそこ背が高く、僕より少し背が高いので175cmくらいだったように思う。黒く丸い淵の眼鏡をかけ、頭は前のほうが少し薄くなったか、なっていないか、微妙なところだ。姉妹は兄弟に比べれば少し小柄で、それでも160cmくらいはあったのではないだろうか。兄弟に比べれば姉妹はポチャッとしていたが太ってはいなかった。二人とも色白だった。


 こちらは20代前半の兄弟と姉妹5名くらいっだだろうか。食事の招待は僕の群れだったので僕の家で行うことにした。その時は3LDKのマンションで一人暮らしをしていたので十分なスペースがあった。自分たちで整えた食事をしながら講演の感想や講演者夫妻の馴れ初めなどを聞いていた。その時、講演者の兄弟がこう言った。

 「この前、歌を作って二人で歌ったんです。」

 兄弟はギターを弾くのが趣味で、それで神を賛美をする歌を作ったとのことだった。僕たちはもちろん、アーティストでもなければ聖歌隊でもない。それで歌を作るのが上手で歌うのが上手な人には会ったことはない。個人的に歌を作ったり、その歌を歌ったりすることはあるかもしれないが、そんなことは家族内で話して人に言うことではない。僕は少し変わっている兄弟だな、と思った。ところが誰か一人が講演者の兄弟を褒めた。そうすると皆口々に褒めた。そうするように教えられているし、相手は年上で長老だ。ここで驚く一言を耳にする。

 「では、歌いましょうか。」

 歌う?聞き間違えたかな、と思った。それに、そもそもギターがない。それで僕はこう言った。

 「聞きたいのですが、ギターがないですもんね・・・」

 待ってましたと講演者の兄弟。

 「取りに行きます。」

 失敗した。隣の隣の町なので大丈夫と思ったのが浅はかだった。講演者の兄弟は外に出て5分もしないうちにギターを抱えて戻ってきた。車のトランクに積んでいたのだ。これは彼の予定だったのだ。僕たちは積極的な話しをするように教えられている。それで講演者の兄弟のいる集会でも同じように褒められる。こうなると、もう兄弟の暴走を止めるのは奥さんしかいない。それで兄弟の隣を見たが奥さんは呼吸を整えていた。ああ、姉妹も歌うんですね。

 「エーホバーをあーいしー、エーホバーとーあーゆむー。」

 日曜日の午後、日差しが少し和らいだころ、僕の家には上手でもなく、かといって下手でもないギターと夫婦の歌声がこだましていた。3番まであった。

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