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夕方の伝道活動

 目をつむり、うとうとしながら昔のことを思い出していたら、集合時間の5分前になってしまった。急いで支度して外に出る。アパートの入り口に止めていた自転車に乗り、集合場所に向かう。今日の集合場所は家のすぐ近くの公園なのでぞれでも十分間に合う。


 集合場所には開始時間の1分前に到着した。司会をする兄弟がすでにグループ分けを始めていた。司会は大体長老や奉仕の(しもべ)の兄弟が行う。今日は30代の長老が司会をしている。若くても教会から長老に任命されていれば長老と呼ばれる。夕方の伝道活動は昼間と違い、4人から5人で1グループとなる。訪問するのは昼間と同じ2人組なので、それが二組いるということになる。夕方の伝道活動は特に若い人の参加が多い。開拓者で時間を計上しなくてはならず、夕飯の支度など家庭の責任のない僕のような人が参加する。今日の参加者はちょうど8人。これは司会する兄弟にとってもやりやすい。2人の組を4つ作り、それを二組にまとめれば良いのである。


 二人で一軒一軒家を訪問するのはイエス・キリストの方法に倣っている。イエスは70人による伝道活動を組織した際に、二人一組とした。防犯の意味もあるのだろう。ただ、現代で今日のような夕方や夜間の伝道活動となるとさらに危険が増すので、二人を二組にして連絡を取り合い、何かあればすぐに対応できるようにしている。姉妹はよほどのことがない限り姉妹と組む。独身の姉妹と兄弟が組むことは避けたいところだ。何か間違いがあっても良くないし、いつも同じ男女が一緒に伝道活動をしていると集会内で変な噂が立つこともある。それで姉妹が一人になってしまう時の優先順位は、長老か奉仕の(しもべ)の兄弟、もしくはおじさん兄弟、該当する人が誰もいなければ若い兄弟となる。


 グループ分けが終わると次は区域の地図を分ける。区域の地図とは集会に割り当てられている区域をさらに細かく分けたものだ。そう、1つの集会ごとに伝道する区域が割り当てられている。その区域をいくつかに割り、地図を作成する。地図は市販の地図を購入し、拡大コピーをして利用する。その区域の地図を使って毎日家々を訪問している。会えた家には印をつけ、近い間隔で何度も訪問することがないようにしている。大体、一軒の家には1か月に1回訪問するように調整している。

 僕のグループは、司会の長老の兄弟、23歳の姉妹、30代の姉妹となった。全員独身だ。割り当てられた地図を見て、最初の家の近くまでみんなで自転車で移動する。それから、見通しが良いところは二組同時に訪問し、見通しが悪いところは一組が訪問している間、もう一組は見えるところで安全を確認する。


 夕方の伝道活動は、昼間の伝道活動で会えなかったところに絞り、訪問する。地域によってその基準は異なる。今いる集会では4回以上会えなかったところを訪問することにしている。それで、会えることは少ない。正直、そのほうが良い。

 伝道活動を始めて10年以上経つが未だに慣れない。今でも知らない人と話すのは本当に苦手だ。毎回勇気を振り絞ってインターホンを押す。内心、家の人が留守であればいいな、と思うほどだ。でもこれがイエス・キリストのご命令であるから仕方がない。


 数件訪問して、自転車を止めた場所まで帰ってきた。まだ少し時間がある。4回訪問して会えない家というのは数が少ない。それに、大体夕方でも会えないのですぐに割り当てられた区域を回りきってしまう。それで時間が余ってしまう。

 そういう時は、集会の集まりで話された話の感想や、その話のより詳しい内容、あるいは訪問して自分たちの伝道活動に対して好意的な反応をした人がいた、というような話をする。そういった話題がなければ、伝道活動中にかわいい猫がいたというような小さな事件や昨日見たTV番組についてなど、どうでもよい雑談をする。若い男女が公園や駐車場の隅で話をしているのだから、近所の人からしたら気持ちが悪いかもしれない。しかし、僕たちにとっては重要な息抜きであり、楽しい時間でもあった。


 「9月に入ってすぐ巡回訪問ですよね。」30代の姉妹が言った。

 「そうそう。今回は早いねえ。」と長老の兄弟が言った。

 巡回訪問とは、17~20ほどの集会の区域をまとめて巡回区と言っているが、その巡回区を監督する長老が訪問する1週間のことを言う。この宗教では9月から新しい年度になるが、巡回訪問も1つ目の集会から順に回っていく。この特定の長老が巡回区を巡回する決まりは使徒パウロやテモテの例を基にしている。使徒パウロは伝道旅行を行い、その際立ち寄った教会でクリスチャンの信仰を強めた。パウロが伝道旅行で設立した教会をテモテは訪問し、問題を解決し、クリスチャンの信仰を強めた。巡回訪問で巡回する順番は巡回長老が順番を決めていく。ある巡回長老は問題がある集会を最初に訪問し、ある巡回監督は自分が落ち着く集会を最初に訪問する。それは巡回長老のさじ加減であった。

 特に今いる集会に問題はないようにみえる。僕は開拓者なので普通の信者より沢山伝道活動をしている。主婦の姉妹たちの雑談にもよく付き合う。問題がある集会だとそういう雑談の中から、長老たちに対する不満や、仲間の兄弟姉妹からいじめられている話など聞こえてくるのだが、この集会はそれがほとんどない。僕にとってとても居心地の良い集会であった。


 それにしてももうすぐ巡回訪問か。

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