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私が月になる  作者: 琴音
29/42

29.外からの景色

「今度、ゆりっちのとこにも挨拶に行かなくちゃね」

「うちはいいよ、放任主義だし、何年も連絡してないし、カイを紹介したら卒倒しちゃうよ」

「卒倒ってなんだよ。俺はバケモノか」


寡黙だけど仕事一筋で家族を大切にする父親。

家事のすべてを完璧にこなす、良妻賢母の美人妻。

その母親の遺伝子を見事に受け継いだ妹。

”あら、可愛いわねぇ””また、綺麗になって””○○大学ですって、すごいわねぇ”

妹の評価は止まることを知らない。

それに比べて、私の評価は言葉や文字にしづらい。

”あら、元気そうね”の一言で(まと)められてしまう。


『人間は泣きながらこの世に生まれてくる。阿呆ばかりの世に生まれたことを悲しんでな』


 シェイクスピアがリア王の中で言ってるんだよ

 だったらさぁ、究極の阿呆になって笑いながら一生暮らしたいよな

 いつだったか、コウがそんな風に語っていた。


私は笑うことを選ばなかった。

生きることの、あらゆる所作に無表情で応えた。

もっと愛想良く振る舞うことが出来たなら、きっと周りの景色も違ってただろう。

そして、私は他の人とは違った景色を見ていた。


父は長年、会社に不倫関係の愛人がいる。

母も知っていて、父に顔がそっくりな私を毛嫌いしている。

なぜ自分が訳もなく嫌われているのか、その理由がわかったら妙に納得が出来た。

廊下ですれ違い、ちょっと手が触れただけで鋭い目つきで睨まれた。

それは父に向けたくても、向けることのできない制裁なのだ。

私は理解する。

先に済ました夕食後に、妹のおかずが一品多いことも、誕生日プレゼントであげたハンカチがゴミ箱に捨てられていても。

なんてことないと、すべてうまくやり過ごした。

一家団欒、絵にかいたような幸せ、外からの景色が円満で彩られていること。

母にとって、それが一番大切なことなのだ。

守ろうとしているものが、脆くて一瞬で崩れてしまう砂上の城でも、母を責めることはできない。

それが彼女にとってかけがえのない居場所に違いないのだから。


カイ、私ね、そんな自分に疲れちゃったの。

愛されることばかりを渇望して、愛することを忘れてた。

人を好きになるだけで、ちゃんと幸せなんだと気が付いたよ。

カイのホンキに苦しくて、見えないフリをしていたの。

ゆりっちが俺の年に23を足して、想像してため息ついて、その方程式いつまで続くのかって不安になった。

そんなふうに必死に埋まらない数字と戦って、カイは私以上に苦しんだと思う。

もう変わらない数字を数えるのはやめたよ。

カイ、この愛はちゃんと届いていますか。

あなたが思ってる以上に、私はあなたを愛しています。

愛を知った女は強い<レベル100>


つづく

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