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第57話 「斎藤家に対する侮りの念、拭い難く」新九郎の予想通りに事は進む

「――――()って(くだん)(ごと)し。寄騎貴族と家臣共、いずれも斎藤家に対する侮りの念、拭い難く」


 評定当日、昼前――――。


 藤佐(とうざ)弾正(だんじょう)と共に領都に遣わした当家の軍目付(いくさめつけ)竹腰(たへごし)次郎兵衛(じろべえ)は、評定直前に先んじて帰り着くや、直ちに注進に及んだ。


 その内容は、全くもって想像通りであった。


 ミナが表情を歪める一方、左馬助は()もありなんと嘆息(たんそく)する。


 丹波の奴めは座ったまま、何故か妙にニコニコ笑いながら俺と竹腰のやり取りを眺めておる。


「ただでさえ、流民の頭目とでも思われておるからな。そして当家に魔法師がおらぬ事、やはり大事であったか」


「左様にござります。魔法師は少数なれど、魔法の力は絶大。あたかも日ノ本において持てる茶器の数を競い、比べるが如し」


「冒険者の魔法師も雇い入れて数を揃えてはおいたが、効き目はなかったか」


「然り。ネッカーでの例に漏れず、冒険者は嫌われ者。これに応ずるが如く、各々の手並みは低く見積もられており申す」


「こちらにはミナやクリスもおる。いずれもただの冒険者ではあるまい?」


「御両人とも女子(おなご)にござりますれば……」


「男程には使い物にならんと?」


「恐れながら、左様にござります」


 ミナを気遣ったのであろう、竹腰は低い声で答えた。


「見る目の無き者共よな」


「真に。()(なが)ら、斯様(かよう)な次第につき、先の戦勝は運良きに過ぎず、とも思われておりまする」


「やれやれ。一つ侮りが始まれば、万事が侮りに繋がるのう。これでは一段……いや、二段、三段は低く見られていような」


「あるいは四段、五段と低く見ておるやもしれませぬ」


「言いおるわ。さすがは年寄りよ。遠慮がない」


「五十年の齢、無駄には重ねておりませぬ」


「重ねて言いおる。で? 左様に侮るのだ。連中はネッカーなどには来ぬと?」


「然に非ず。参上するとの(よし)


「辺境伯とミナの手前……であろうな。見せかけに過ぎぬか」


「恐らくは。加治田様、松永殿の御案内により、あと一刻ばかりで着到するかと」


「ふん……。そこは予定通りか――――」


「ほっほ。手向かいする者共がおれば、面白うござりましたな?」


 黙って聞いておった丹波が声を上げて笑った。


「馬鹿を申せ。跳ねっ返りを一人、二人成敗した所で意味はなかろうが」


「意味の有る無しではござりません。面白いか否かでござる」


「何の違いだ?」


「ほっほっほ。こじつけで何とでも申せますれば……」


 たった一人の無軌道の責めを全員に押し付け、この機に悉く撫で斬りにしてしまえ――――左様に言いたいらしい。


 つまりは、相手を陥れる(はかりごと)を巡らすまたとない機会。


 丹波がこの上なく好物とするものよな。


 だから『面白い』なのだ。


 まったく迷惑な爺よ。


 ついでに、俺が如何に出るのか試しておるのやもしれん――――。


「――――お主は気が早過ぎる」


「機を逸するやもしれませぬぞ?」


「分かっておる。だが、奸臣は根こそぎ叩くと決めたであろう? 此度集まる者共だけを叩いても半端に終わる」


「機に乗ずるのでござります」


「目の前の餌へ一心に飛び付くが如き行いは下策ぞ。禍根は一挙に絶つべし」


「ほっほ。賢しい口を利くようになられましたな」


「お主に言われたくないわ」


「ほっほっほ」


 満足したのか、丹波はニコニコと笑顔のままで黙ってしまった。


 常にこうして俺を試そうとするのだ。


 油断ならぬクソ爺よな……。


 変わって、ミナが口を開く。


「すまない、シンクロー。私は人寄せ程度にしか役に立てなかった……」


「左様に卑下するものではない。俺一人であれば、人寄せも出来なかったであろうからな」


「……ありがとう」


「礼は不要。それより…………もっと柔らかい顔をせい!」


「え? ――――むぎゅ! むぐふふ!」


 両手でミナの両頬を挟み、強張った顔を押し揉む。


「悲壮な顔は相手に付け込まれる元ぞ? 大笑いせよとは言わん。せめてツンとすました顔でもしておれ」


「むんふおー! むほふふむふふほふ!」


「わっはっは! 何を言っておるのか分からん!」


「むんふおー!」


 こうしてミナの顔をほぐしてやりつつ時は過ぎ、竹腰の申した一刻が過ぎた。


 屋敷の門前が騒がしくなり、やがて騒がしさは屋敷の中にも入り込む。


 間もなくして、藤佐(とうざ)弾正(だんじょう)が姿を見せた。


「只今戻りましてござります」


「お待たせいたしました……」


「領都の仕置、大儀であった。で? 参上した者共の人数は?」


「はっ。寄騎貴族が十名、辺境伯家の家臣が十名。合わせて二十名にござります」


「奇しくも同数――いや、計った上での同数だな」


 藤佐と弾正が頷く。


「寄騎貴族は全員、辺境伯家の家臣については主だった役目にある者全員が参上するように申し伝えましたが、半分にも満たぬ数にござります」


「舐めておりますな。連中は。若とミナ様を品定めし、あわよくば籠絡(ろうらく)せんとする魂胆(こんたん)かと」


「籠絡のう。その為にこそ、人の数を限ったか」


「はっ。人が多過ぎれば根回し能いませぬ」


「何らかの企みがある事、相違ござりません」


「相分かった。心得ておこう。ミナも良いか?」


「もちろん。散々に顔を弄ばれたからな……。緊張も何もない」


 半眼でジトッと俺を見るミナ。


 視線を笑って誤魔化し、評定を開く広間へ向かうべく部屋を出た。


 廊下に出ると、向こうの隅で誰かが数人に囲まれている。


 囲んでいる者達に見覚えは無い。


 参上した寄騎貴族か家臣の誰かであろうが、囲まれている者は――――、


「――――ヨハンか?」


 間違いない、屋敷内の見回りを命じておいたヨハンだ。


 今朝、顔を合せた折は元気な顔をしておったものだが、今は蛇に睨まれた蛙の如き顔付き。


 今にも脂が滲み出しそうだ。


「ミナ……」


「ああ。私も同じ気持ちだ」


 後ろに続く左馬助、藤佐、弾正、丹波は何も言わない。


 が、俺とミナが進み始めると四人分の足音が続く。


 こ奴ら刀でも抜いていまいな?


 左様に思ってしまう程に、殺気漂う足音だ。


 何か感じ取るものでもあったのか、ヨハンを囲んでおった者共が振り向いた。


 ヨハンが申し訳なさそうに何かを言い掛けるが、目線で制する。


 口を開いたのは、如何にも横柄そうな顔付きをした男だった。

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