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異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~  作者: 和田真尚
第一章 国盗り始め

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26/202

第24話 「ちょ・・・やめ・・・そこは触らないで!」ミナは襲撃された

「わが~~~~~~~~!」


 俺の腰に取り付き泣き喚く若い男。


 情けない事この上なき醜態(しゅうたい)(さら)しているのは、俺の元守役にして、大坂屋敷詰めの家老、加治田(かじた)藤佐(とうすけ)利守(としもり)である。


 俺を含め、親しい者からは『とうざ』と呼ばれる人の良い男だが――――。


「お主はもう二十五であろうが! 年甲斐(としがい)もない! いい加減に離れぬか!」


「何を申されます! 命永らえて再び若と相まみえたのですぞ! これが泣かずにおられましょうか!?」


 腰に回った腕にさらに力がこもった。


「泣くより先に、お主の命を救った二人に礼をせい!」


 藤佐(とうざ)の首を掴み、強制的に反対側へ向ける。「ぐげっ」と変な声が聞こえた気がするがもう知らん!


 その様をミナとクリスが苦笑いして見つめていた。


「この二人がな、回復魔法……とかいう術を使ってお主の傷を治したのだ!」


「なんと……この可憐な南蛮の女性(にょしょう)が手前を?」


「南蛮ではないが……まあとにかく治したことには変わりない」


「ありがとう……ありがとうござりまする! もはや二度と、若とまみえること適わぬものと覚悟をしておりました! この加治田(かじた)藤佐(とうすけ)利守(としもり)、このご恩は終生忘れませぬ!」


 床に頭を擦り付けるようにして何度も礼の言葉を述べ立てる。


 時折、「天女の如き慈愛!」とか、「薬師如来の御業!」とか、「少彦名神(すくなひこなのかみ)もかくやあらん!」とか、やたらと大袈裟な言葉が聞こえるが触れると面倒そうなので放っておいた。


 最初は誇らしそうな顔をしていたミナとクリスだったが、いつまで経っても終わらない藤佐(とうざ)の礼に「もう結構ですから!」と宥めるのに必死の有り様だ。


 触れると面倒そうなので助けはせんがな。


「はあ……藤佐の感傷的な性格にも困ったものだな……」


「いいえ。そうとも言い切れませぬぞ?」


 口を挟んだのは僧形(そうぎょう)の中年男。


 医師の曲直瀬(まなせ)道玄(どうげん)だ。


 瀕死の傷を負った藤佐が命を繋いだのは、この医師の存在なしには語れぬ。


「先生ほどの腕を持つ医者が藤佐の言い分に賛同するのか?」


「はい。危篤(きとく)と覚悟していた患者の傷が瞬く間に癒え、目を覚まして大声で泣き喚いておるのですぞ? 神仏の御業と申すより他にありますまい」


「そうか。先生の目から見てもそう思うか」


「医者として今日ほど口惜しく思った日はありませぬ。それなりに医術を修めたと自負しておりましたが、井の中の蛙にございました。まだまだ精進せねばなりませぬ」


 先生の目がぎらつき始めた。


 今にもミナやクリスに弟子入りすると言い出しかねない様子。


 藤佐に加えて先生の相手もせよと丸投げするのは気の毒か――――。


 適当な話題で注意を逸らしてしまうとしよう。


「ところで、先生は何故(なにゆえ)京屋敷におられたのだ?」


「わたくしでございますか? いえ、京屋敷ではございません。大坂屋敷をお訪ねしておりました」


「そうか。往診の日であったか」


「左様でございます。お陰で京の地震は逃れたものの、気付けばこちらに」


「済まないことをした。当家に用が無ければ、神隠しになぞ遭わずに済んだものを」


「神隠し? ほう、これは神隠しにございましたか。ならばここは異界ですな。丁度良い」


 先生は清々した顔つきで話す。


「太閤殿下の横暴振りには辟易していたところでございます。やれ千宗易殿と付き合いがあった、やれ関白秀次卿と付き合いがあったと、何かにつけて目を付けられ、鬱憤(うっぷん)が溜まっておりました。息苦しいことこの上ない。異界の方がいくらかマシでございます」


「肝が据わっておられるな」


「医者にございますので。患者を治すことに比べれば、大概のことは驚き慌てるに値しませぬ」


「神隠しは驚き慌てるに値すると思うが――――」


 ドタドタドタドタッ!


 慌ただしい足音と共に、大人数が――――。


「「「「兄上っ!!!!」」」」


「待て――――グフッ!」


 小さいのが次々と俺に飛び掛かって――――誰だ!? 腹を目掛けて飛び掛かって来た奴は!?


「離れんか!」


「兄上!」


「兄上じゃ!」


「本物じゃ!」


「会いたかった!」


「新五郎! お松! お鶴! お千! 離れよと言うのが分からんか!」


 弟一人に妹三人、何を言っても聞き分けず「嫌じゃ離れぬ!」と言ってきかない。


 この大騒ぎを前にして、さすがの藤佐も静かになり、先生は口元を押さえて笑い、ミナは目を丸くし、クリスは――――。


「ふわああああ……。可愛いねぇ……」


と、目を輝かせて「おいでおいで」と犬や猫を誘うように手を差し伸べた。


 すると弟妹達は動きをピタリと止め、クリス――――ではなく、横にいるミナに狙いを定めた。


「南蛮人!?」


「綺麗な髪!」


「目が真っ赤!」


「それいけ掛かれ!」


「ちょ……やめ……そこは触らないで――――!」


 クリスが「どうしてぇ?」と半泣きになる中、ミナは四人がかりで手籠めにされ、あられもない姿になってしまった。


 なかなかそそる――――いやいやそうではない。でかした弟、妹よ――――それでもない!


 おほん……済まぬなミナ。骨は拾ってやるからしばし耐えてくれ……。


「はっはっは……楽しそうだな……」


 弟妹達の騒ぎに紛れ、気付かぬ内に部屋の外には人垣が出来ていた。


 母上、八千代、山県に左馬助。そして――――。


「父上!? お、起きても良いのか!?」


 母上と八千代に支えられて立つ父上の姿。


 思わず先生の顔を見ると、大きく頷いた。


「往診した際は臥せっておられました。ですが、こちらへ来てからお加減がよろしいようです」


「寝たきりだったではないか! たったの数日で歩けるまでに回復するのか!?」


「わたくしも初めての経験です。藤佐(とうざ)殿もすぐさま事切れてもおかしくない傷にございました。ですがそうはならなかった」


「……神隠しが原因か?」


「確かなことはなんとも……。ただ、わたくしの腕だけでは難しゅうございました。喜ばしくありますが、医者としては悔しくもあり……」


 先生が深く溜息をついた。

読者のみなさまへ


 今回はお読みいただきありがとうございます! 


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 連載は続きます。

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