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第21話 「囮を出して適当に歩けば魔物は狩れる」山県の答えにミナは驚愕した

「――――討ち取った魔物の数は以上にござります」


 俺達が帰還した日の夕刻、各所に配されていた家臣達が魔物退治を切り上げ報告にやって来た。


 たった今報告を終えたのは、東の荒れ地で魔物退治の指揮をとっていた重臣の浅利(あさり)


 山県と並ぶ当家の戦上手だ。


「こちらを若に……」


 浅利が小姓(こしょう)に一通の書状を手渡した。


 首注文(くびちゅうもん)ならぬ魔物注文と名付けられた書状だ。


 小姓から受け取り、文面に目を通す。


 そこには討ち取った魔物の種類や数、討ち取った日付と場所、討ち取った者の名前に至るまで事細かに記されている。


 俺の手元には浅利が差し出したものを含め四通の魔物注文が届けられた。


 討ち取った魔物と大将の名を書き出してみるとこうだ。


 北の大将は浅利(あさり)式部丞(しきぶのじょう)昌種(まさたね)


 犬頭こと『こぼると』を中心に討ち取った魔物は百四十七。


 南の大将は雑賀(さいか)孫三郎(まごさぶろう)重継(しげつぐ)


 小鬼こと『ごぶりん』を中心に討ち取った魔物は百三十三。


 東の大将は小幡(おばた)上総介(かずさのすけ)高真(たかざね)


 大猪こと『おうく』を中心に討ち取った魔物は百六十一。


 西の大将は山県(やまがた)二郎(じろう)国昌(くにまさ)


 討ち取った数はここが最も多い。


 『ごぶりん』を中心に三百十二。


 ミナから魔物について教えられたお陰か、頭一つ飛び抜けている。


 浅利、雑賀、小幡の三人は悔しそうな顔をしているが、こればかりは仕方があるまい。


 慣れぬ土地で慣れぬ魔物を相手にした上、魔物退治に費やした時間は数日程度。


 加えて、死んだ者や重い傷を負った者は一人もいない。


 四大将が如何に慎重に行動していたか分かるというものだ。


 俺としては上出来だと家臣をねぎらってやりたいが――――。


「ミナ、クリス、今回の成果は如何(いかが)であろうか? 合わせて七百五十三匹を討ち取ったが、俺達には上出来(じょうでき)不出来(ふでき)かの区別がつかん」


「相当な数だと思う……。一体何人で魔物狩りをすればこんな……」


 ミナの問い掛けに浅利、雑賀、小幡、山県が次々と答えた。


「我らは百程度の兵を預かっておりましたが、魔物を狩るのに割り当てたのは二十人ばかりでござります。数人から十人ほどの組を作り、手分けして方々を見回ったのでござる」


鷹狩(たかがり)の要領で追い立てれば、思いのほか容易く討ち取れましたな」


「危険な生き物だと伺いましたので全ての兵を狩りに当てとうござったが、我ら本来のお役目は来るかもしれぬ敵から領地を守ること。お役目をないがしろにも出来ませぬ」


「魔物は鳥や獣と違って人を恐れませぬ。鳥や獣は人が近付けば逃げまするが、魔物は人を餌と思っておるのか放っておいても襲い掛かって来る。(おとり)を放って適当に歩き回れば勝手に釣れまする」


「何と! 左様な手立てがあったのか!?」


「あたかも島津の()野伏(のぶ)せの如し!」


「ぬう! 次は負けん!」


 山県に対抗心を燃やし始める浅利、雑賀、小幡の三人。


 もはやミナの問いなどお構いなしだ。


 一方、ミナとクリスは驚きに目を見張った。


「たったそれだけの人数で?」


「って言うか味方を囮にしたって方に驚いたよぉ……」


「冒険者には出来ない芸当だ。誰が囮になるかを巡って内輪もめになるぞ」


「それ以前に魔物を相手に囮なんてする気にならないよぉ。恐過ぎるでしょそんなのぉ」


「ほう? 魔物とはそこまで恐ろしいものか?」


「当たり前だ! 魔物を恐れないなど……まさに狂戦士だ!」


「狂戦士かぁ……冒険者パーティーを超える手際の良さはそれが原因?」


「『ぱあてい』が分からんな。組……とか言う意味か?」


「ああ。そんな意味だ」


「冒険者共が如何様(いかよう)に魔物を狩るか興味深い。話してくれぬか?」


「そうだな……。冒険者がパーティーを組むとすると、前衛、中衛、後衛に二人ずつ、合計六人といったところだ」


「魔法師や弓士が最低限一人ずつは必要だねぇ。数日で狩れる魔物は多くて十から二十くらいかなぁ?」


 この説明に家臣達が勝手に盛り上がり始めた。


 ある者達は「前、中、後では足りぬ! 左右の備えも必要だ!」と陣形やら人数を論じ、またある者達は「飛び道具が少ない! もっと増やさねば!」などと持たせる装備を論じている。


 ミナとクリスは、どれだけ戦うつもりなのかと言いたげに呆れ顔だ。


 すると山県が「それがしも尋ねたきことがござりました」と、ミナとクリスに話しかけた。


「奇妙なものを見付けたのでござります。是非ともご覧いただきたい」


 皆で広間を出て縁側に並ぶと、鍋を両手に持った家臣が庭先へ出た。


 鍋の中には色のない何かが入っている。


「魔物狩りの最中、持参していた鍋の中へいつの間にか入っていたのでござります。他にも、木陰や岩の裏に群集しているのを見かけました」


 山県が「おい」と合図をすると家臣が鍋を引っくり返す。


 すると、人間の頭大の塊がボテッと転がり落ちた。


「スライムだな」


「だねぇ」


 二人が訳知り顔で頷く。


「動きは非常に鈍く、人を襲うという話も耳にはしないが、極めて厄介な魔物だ」


「身体が粘着性の液体で出来ていてぇ、しかも強い酸性なの。獲物をドロドロに溶かして吸収するためにねぇ」


「身体の中心にある核を破壊すると一瞬にして干乾びて死に至る。だが……」


「強い刺激を受けると破裂してぇ、酸性の身体を周囲に撒き散らすちゃうのよねぇ。下手に近付くとただじゃ済まないわぁ」


「スライムは土や水を汚すから、なるべく退治したいが……」


「破裂させちゃったら意味ないわよねぇ」


「うまく退治する方法はないのか?」


「身体が破裂する前に素早く核を破壊出来ればよいらしい。ただ、剣や槍で突く程度の速さではどうにもならない。弓矢の速さでも足りない」


「魔法で倒そうにも、魔法への耐性が高くて大変なんだよねぇ……」


「魔法を使っても核を正確に破壊出来なければ結局は破裂してしまうんだ」


「高威力の風魔法でぇ、瞬時に核を両断するとかしないとダメなんだよねぇ。でもぉ、威力の高い魔法を精密な操作で使うってメチャクチャ大変でぇ……」


「厄介な魔物だな。迷惑この上ない」


「だが、スライムの核や魔石は高価で取引されるんだ。退治出来れば、土地の汚染源を絶ち、貴重な収入源に化ける」


「あ~も~! 悔しいわぁ! 目の前にお金の塊があるのにぃ!」


 クリスは両手の拳を握り締めて悔しがる。


 しかし、良い話が聞けたな。


 『すらいむ』を退治することが出来れば大変な利益になる。


 何か手立てはないものか――――


「――――あ」


「シンクロー? どうかしたのか?」


「喜べ二人共。『すらいむ』を安全に、しかも容易く狩る方法を思いついたぞ」


 ミナとクリスは目を見張った。

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