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第九十九話「兄妹はなかよく!」


「フルール!」


 突如として風が払われた。

 俺とアヤメじゃない彼女の花びらが冷気ごと空に舞い上がる。


「ヒハナさん!」

「ユイくん昨日ぶりね。ちょっと見かねて飛び出しました」


 ヒハナが割って入ってきたのだ。

 クルスもアヤメもキャンも、突然の乱入に固まってしまう。

 俺としては、やっと味方してくれそうな人が現れた。


「クルス兄さん。私ひとこと申し立てるわね」

「……なんだ?」

「兄妹はなかよく! 武器を向けるなんて言語道断でしょ!」


 ヒハナがびっとクルスを指さす。

 クルスってこう見るとやたら妹に妨害されてるな。

 一時の静寂こそあれ、揺れはすぐに起きた。


「な、なんか地面揺れてないか?」

「私ちょっと逃げてたの。ユイくんそれに乗せてもらうね」


 ひょいと、ヒハナはキーリの尻辺りに乗っかる。

 アヤメは何かを察してすぐにキーリを蹴って急かした。


「うぉおおっ!」

「まー!」


 俺は慣性でのけぞりながら、ヒハナが逃げてきたという言葉を察する。

 地鳴りは、大量のモンスターをここにまで連れてきていたのだ。


「牽制!」


 クルスも早くに理解したのか、隊列を俺たちからモンスターへ。

 ブランカたちウキョウ兵は度重なる状況に苦い顔をしつつ対応している。

 キーリを抑えるどころでなくなった状況が、逃走を簡単にしてくれた。


「ふーん」


 キャンはそんな状況でもこちらを見ていて、動揺もしていない。

 キーリは加速したままウキョウ兵を振り切り、森の中へ走り出す。



 一度敵を撒いてしまえばこちらのものだった。

 キーリは素早く変則的な地形でも機動力を保てる。

 マーチャンがいれば、モンスターを避けつつなすりつけにも使える。


「お尻が痛いのだけれど」

「ヒハナ姉さん、助かりましたが正直に言いますとあまり近づいてほしくありませんでした。何があったんですか?」

「正直なのね。モンスターの大群、しかもたくさんのゴブリンに追われていたのよ」


 龍の角は前方から陽の光を受けなくなって、夜になっている。

 俺たちは方向を見失ってここで野宿をする判断をした。


「ひどいのよ。少し愚痴を言わせて」

「ウキョウの状況と事情も一緒にお願いします」

「……三国会議にウキョウからはクルス兄さんとアンクの二人が代表として来たの。クルス兄さんが聖器を使用できたことから強い勢力はアンクの方に集中、ブランカと私がクルス兄さんの主戦力となったわけなのだけれど」

「お兄様にハブられたのですね」

「そう! 朝起きたら誰もいなかったのよ。ブランカすら起こしに来るつもりはなかったなんてひどいと思わない?」


 波乱万丈の元と考えたらここで距離を置きたいのはわかる。

 ヒハナは手のひらにマーチャンを乗せて弄ぶ。


「姉さんは波乱万丈の元ですから。距離を置ければ安全という事ですよ」

「私を避雷針にしないでほしいのだけれど。ただ龍の角に追ってこれたわけだから、私を見捨てた兄さんとブランカは馬鹿よ」

「状況を整理しよう」


 俺は野宿の準備をするためにアイテムボックスを使いながら話す。


「解決する重要順に話すぞ。

1.三国会議キナワの使者として俺たちは聖地に向かう。

2.キリン種がキナワの勢力を襲っている進行の妨害これを解決。

3.クルスが俺たちの命を狙っているので説得して和解。

4.ヒハナさんが起こしたモンスターの大量発生を凌ぐ」

「私が起こしたわけじゃないのだけれど」

「1は最重要項目だ。合流が目標だが」


 俺はカバンに入れてあった箱型の魔具を置いた。

 ヒハナがそれをつんつんする。


「これは箱?」

「通信……なんといえばいいか、一定距離までだけどマーキングした同種の魔具にメッセージを送ることができる」


 この世界携帯電話がない。

 通信手段の主が手紙なのだ。

 かなり便利よりな異世界なんだけどこの手のは無いんだよね。


『ユイくんに報告。キリン種に追われていますが全員生存して最初の宝珠にまでたどり着きました。ただキリン種はこれからも襲い掛かってくるのと、龍の角で会うことのないゴブリン種との戦闘が気がかりです。合流より先にキリン種への説得を依頼します』

「とのこと。合流はあとでいい必要なのはこっち」

「キリン種の説得ですか」

「2をとりあえず考えようか。キリン種の群れがどこにあるかだな。俺たちは今どこにいるのかもよくわかってない」


 クルスたちから逃げてきたのもあって現在地がわからない。

 アイテムの中にある地図を開いてみるが、位置が宝珠基準だ。


「龍の角はそもそもがダンジョンのような構造をしています。修行目的で登る修道士はともかく、旅行感覚で進むには危険な道ですので」

「最悪上に向かって進めばいつかはたどり着けるって感じだからな……」

「私たちが期待されているのはおそらく腰のそれが原因でしょう」


 アヤメが指さすのは俺の腰に着いたベルト。

 キーリの生命石だ。

 ヒハナはもちろんわからないみたいで首をかしげて動かない。


「朝になったらこいつを呼んで道案内ってことか?」

「もうそれくらいしかありませんので」

「じゃあ次は3」

「クルスお兄様の説得は無理ですね」


 アヤメがきっぱりと言い放つ。

 俺も反論できないので頭をがっくりさせて終わりだ。


「これは聖地に着くまで保留だなじゃあ4」

「原因がわかりませんし、遭遇しなのなら逃げてよいかと」

「そうだな、メドゥたちの脅威になるなら考えなきゃだが、原因も何もつかめない」


 色々な出来事が重なったが、考えてみれば単純な話で。


「俺たちがやりたいことよりもやらなきゃいけないこと優先」

「龍の角とはいえマーチャンがいれば敵の回避はできます。ので」

「じゃあ私からも意見いいかしら」


 ヒハナがひょっこり手をあげる。

 というかこの人は俺たちについてきているがウキョウ側の人間だ。

 だから理解できない部分もあっただろう。


「はいどうぞ」

「なんでキャンがあそこにいたの」

「そっちかぁ」

「私たちにはわかりかねます」


 そうわからない。

 なのだが、俺の中で妙に引っかかる。

 身に覚えがあるというか、久しぶりに思い出したみたいな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 色々不明点があって、どう決着つくのか楽しみです
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