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第九話「ジョブは産まれたときに必ずひとつ持っています」


 イルカの住む屋敷は予想していた以上に大きかった。

 まず入口についたら端が見えないほどの塀に囲まれた土地がある。

 入ったら十数人の使用人たちが出迎えにお辞儀をされた。


「ユイ様もお召し物を変えたほうがよろしいかと」

「確かに臭いとは思う」


 俺は任侠映画でしか見たことない出迎えにのまれながら、今は更衣室だ。

 イルカとアンとヤアは別の場所へ、俺はトルメさんに連れられた。

 トルメさんはすでにこの屋敷の燕尾服に着替えている。

 ここに来るまでぼろ布だったからわからなかった。彼はダンディ紳士だ。

 

「ユイ様も見たところ我々と同タイプのお召し物をなされていたので、僭越ながら燕尾服を用意させていただきます。ご希望とあれば別のものを用意しますが」

「ありがとうございます。ワイシャツに紳士服の黒ズボンよりずっといい」


 久しぶりの新品一張羅は気持ちがいい。

 あれだけのサバイバルを生き抜いた仕事着にも感謝しつつ、身体を見る。

 トルメはそんな様子を見守りつつ俺に解説してくれた。


「この服は細部に魔法繊維を施しております。火を防ぎ水をはじき、汚れやにおいをつきにくくされております」

「水をはじくってことは、このまま水魔法で洗っても」

「乾かす必要がありません。それにここで使われているものはとても頑丈です。ゴブリンの持つ剣程度なら傷ひとつつかないでしょう。イルカ様がこれを選んだのも、この屋敷で一番丈夫なのがこの服だからです」


 どうやらこの燕尾服をくれるらしい。

 魔法繊維というのがよくわからないが、防具の役割を持てるのだろう。

 だからゴブリンの巣にも防具がほぼなかったのか。

 この異世界は防具なしでも防御力を担保できる。


「フード付きのケープでもつければ雨も守れるな」

「あとで商会に行かれるのでしょう。その時に聞いてみると良いのかもしれません」


 ケープという言葉も普通に通じる。

 やっぱり世界観が地球にかなり寄っているのだ。


「そろそろ食事の準備も整っていると思われますので、先に向かいましょう」


 この屋敷は廊下も広く、トルメさんがいなかったら迷子になるだろう。

 来た道を戻れと言われたらわからないくらい歩いて、食堂に着く。

 すでに出来上がった料理が長机の上に並べられ、上座にはイルカもいた。

 壁には数人の使用人が立ったまま待機している。

 なぜか神官のシルっておっさんもまだ同じように立ったままでいた。


「どうぞユイ様、こちらへ」


 俺はイルカ右隣のすぐに座らせてもらう。

 ちなみにトルメは長机のかなり離れた場所で、さらに離れてアンとヤア。


「今回は特別です。僕たち五人の生還を祝っての簡単な祝杯とさせていただきました」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 簡易的な挨拶を済ませた後は、いただきますで食べ始めた。

 イルカは笑顔で俺に食事を勧める。


「ユイ様もどうぞ、遠慮せずに」

「えっと、マナーとかわかんないけど」

「そんなものいりませんよ。あ、毒を気にしていますか? 万が一のためにシルにも待機してもらっていますのでご安心ください」


 神官がいるのって回復呪文のためかい。

 というか回復呪文は病気も直せる感じなのか、医療は強そうな世界だ。

 そして食べ物はというと――


「ソースをこうやってつけて……うまい!」


 かなりおいしい。

 現代人の俺でもかなり上等な味付けだと感じる。程よいしょっぱさ。

 久しぶりのごちそうに我を忘れそうになるが、


「まー! まー!」

「おっ、ちょっと待って食べやすいようにこうやって」


 マーチャンは隣の補助席みたいなのに座って、俺が食べさせる

 これは現代料理でも異世界を無双できなそうだ。


「ほらほら、口が汚れちゃうだろそれだと、あースプーンは思い切り噛んじゃ駄目だって。あっ緑色は吐き出すのかこやつはぁ」

「ユイ様、そちらの水を飲むことをお勧めしますよ」

「ん、これか……う、んんっ! うまいぃっ!」


 水が美味い。

 味がしない水に何をと思うかもしれない。

 喉を通った瞬間に体が水を流す川になったような清浄感あふれる。

 今まで飲んでいたものは水なのか。


「これは回復魔法を加工して作られたポーションの中でも最高峰のものです。保存はききませんが回復力はお墨付きです」

「すごいよ、今の俺なら早番残業ができる」

「この後のことを考えてのものです。身体を正常に保つのも大切ですよ」

「ああ、この後サリー商会だっけ」

「ええ、ユイ様は奴隷が欲しいのですか?」


 俺は食べていた手をびくりと止めてしまう。


「あ~いや、まぁひとりで旅をするっていうのも寂しいかなって」

「ご希望でしたら、アンとヤアのどちらかを譲渡しますよ。ユイ様がよく見ていましたし気になっていたのでしょう? 二人なら命を助けてもらった恩もあります」

「いや、それはちょっと遠慮するというか」


 末席にいる二人がちょっとビクリとしていた。そりゃ驚くよ。

 確かに見ていたけど、初対面で裸をみちゃったのもあってだね。

 悪気はないんだ。男の子だから許してください。


「そ、それに俺は戦闘できるタイプの奴隷を雇いたいんだ」

「なるほど、そういえばユイ様にはその辺も説明したほうがいいですね」

「その辺っていうと?」

「ジョブシステムのことです。この世界では必ず人は一つの職業を持つことが許されます。それは分かりますね?」


 世界の常識を教えてくれる感じか。

 俺は二つジョブを持っているが、もちろん突っ込まない。


「ジョブは産まれたときに必ずひとつ持っています。初期ジョブと呼ばれ、戦士、魔法使い、市民、修道士の四種類のどれかが割り当てられます」

「戦士、魔法使い、市民、修道士が基本?」

「はい。戦士は全身が屈強ですが基本的に魔法が使えません。魔法使いは魔法が使えますが、肉体に加護をほとんど持たないため自分で持った刃物でも傷つくくらい脆弱です。その二つを足して三で割った能力が市民です」

「市民はじゃあ損なのか?」

「いいえ、むしろ一番使用者が多いです。戦士や魔法使いでは日常生活で不便なことが多くあります。だから特別な役割を考えなければ生まれてすぐ市民にジョブを変える人がほとんどです。市民だけは生まれつき誰もが素質を持ちます」

「なるほど、生活で考えるとそうか」


 この世界では魔法で水を汲んだり火をつけたりする。

 地球人より頑丈で力強いのは、ジョブの加護があるから。

 その二つの恩恵がある市民が一番便利なのか。


「市民は戦闘をしなくてもレベルが上がり易いのでその点でも好まれます」

「修道士は?」

「修道士はもっとも素質を持つ人間が少ない職業です。魔法使いと同じで肉体の加護が無く、魔法も中途半端ですが、回復魔法を覚えます」

「回復魔法ができるのが特徴なのか」

「はい。しかも修道士は修行次第でジョブ変更や、回復の固形化、目視での生命石閲覧など、重要な役割の能力を持つこともあり、産まれてくれば仕事に困ることはない職業です」


 イルカはすらすらと俺にこの世界のジョブについて教えてくれた。

 多分これはこの世界の常識なのだろう。

 俺は何度か言葉をかみ砕いてから、疑問を出した。


「イルカのジョブの貴族っていうのは? あとトルメさんも執事とかだったな」

「市民から派生する上級職です。その人の素質次第でいつかジョブチェンジできるようになります。執事なら家事やお世話能力の向上でしょうか」


 上級職とはいってもそこまでハードルは高くない感じか。

 操獣士というジョブも上級職というのは分かる。どこから派生したんだろ。


「だから素質はさておき、戦闘の意志さえあればほとんどの奴隷は戦士になれますよ」

「と、とりあえずサリー商会に行ってみたいなー」


 俺は見に行くだけだからね。お金なんてないし。


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