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第八話「あれが僕たちの目的地、西果ての街バーチです」


 夢の中で見たのは、子供のころの俺だった。

 まだ一桁くらいの年頃で、この思い出は俺もよく覚えている。

 妹が両親にせがんでインコを買ってもらった話だ。

 名前はピーちゃん。

 世話をすると約束したのに三日くらいで飽きて妹が餌をあげなくなった。

 俺もペットが欲しかったので、ピーちゃんに餌をあげるようになる。

 誰も相手をしないのなら俺が世話をしても親は怒らないと思った。

 次第に仲良くなって、触ることもできた。

 家に帰るのが楽しみになった。

 でもいつだったかの日に、唐突にインコがいなくなった。

 ゲージの中のどこを探しても消された絵のようにまっさら。

 俺はその時いた父に聞いた。


「ああ、死んだよ」


 父はそれだけ言った。

 今だったらわかる。捨てたのだ。

 夜に鳴くこともあったし、持ち主の妹がいらないと言ったのかもしれない。

 でも小さい俺にそこまで至る賢さはなかった。

 どうしてと死んだのと問いただして、父に怒られるのも怖かった。

 それだけでなにもなし、このはなしはおわり。


 なんでピーちゃんのこと思い出したんだろう。

 ブリン――



 眼を開けると、焚火の音がする夜空が広がっていた。

 固いリュックを枕にして、洞窟にあったでかい布を体に巻いている。


「そうだ、まだ森だった……」


 イルカたちは森の中でも迷うことなく進んでいく。

 ただ陽が沈んでもまだ森を抜けられなかった。

 横を見ると、イルカ、アン、ヤアの三人が眠っている。


「危険だけど野宿して……今見張りをしているのはトルメさんか」

「あの、起きていますか?」

「ん、イルカ様起こしちゃったか」

「様なんて付けないでください、イルカで構いませんよ」


 イルカの小さな声が聞こえた。マーチャンを抱いて寝ている。


「暖かいですねマーチャン。モンスターを使役できる人がいるのは知ってましたが、こんなに小さいのは初めてです」

「ま~」

「それで、ご相談なのですが……用を足したくて」

「ん~? ああ一人じゃ危険か」


 二人の子は交代で見張りもするだろうし、俺がついて行ったほうがいいな。

 俺はいざというときに戦闘するから寝てほしいって言われて外された。


「じゃあ二人に出す音が聞こえない程度に離れればいいかな」

「すみません」

「いえいえ」

「そうじゃありません。今日のこと色々です」


 もしかして個人的な話かな。

 俺は起きちゃったマーチャンもふるふるしていたので、世話しつつ聞く。


「僕以外の三人はあなたを今も疑っています」

「え、あい?」

「モンスターを操る能力がある。オウゴブリンを倒せるレベルとは思えないからだそうです。あなたもまた敵じゃないかと」

「あぁ……」


 なるほど、救助自体がマッチポンプと。

 俺はイルカたちの事情を何も知らないからなぁ。

 貴族だから権力争いでここまで? いや聞くの怖い。

 何言えばいいんだこれ。


「ごめんなさい! ここでまず謝らせてください。僕はあなたが刺客だと思っていません」

「刺客?」

「僕たちは魔車を襲われ、戦闘できる部下にも裏切られました。逃げ場所を失い魔奥の森にかろうじて転がり、そこでゴブリンの群れに襲われて囚われてしまったのです」


 イルカは子供のわりに言動が落ち着いている。

 それでも、今日までのことを思い出すと恐怖で震えるみたいだ。


「力の強そうな大人の男性は最初に食べられました。僕とトルメ、アンとヤアが生き残れたのは逃げる力が無さそうだったからです。逃げないように身ぐるみを剝がし、少しすれば僕たちの番が来るのは確実でした」

「怖いのなら話さなくてもいいよ」

「でも、ここから状況が変わります。段々と洞窟内にいたゴブリンの声が少なくなっていったことです。昨日には、オウゴブリンの声しか聞こえていませんでした。そんなときに、あなたが来てくれたのです。僕を抱きしめてくれた」


 イルカは俺のワイシャツの袖をつかんで、震える手が止まる。


「僕たち四人が無傷でいられたのは、あなたのおかげです」


 イルカが夜に俺を一人連れ出したのは、信頼してほしかったからだろうか。

 一応横目で焚火を見ると、トルメさんがこちらを見ていた。

 しばらく時間がたつと、またイルカは横になる。


「ユイ様」

「おやすみ、ちゃんと毛布にくるまって、風邪をひかないよにね。マーチャンもよろしく頼むよ、暖かいから」

「ま~」


 俺はイルカを寝かせてから、トルメのもとに近寄る。

 トルメは焚火をじっと見つめて、俺のほうを見ていない。


「イルカ様をありがとうございます。ユイ様」

「いえいえ。俺なんかずっと寝てて悪いくらいです」

「……イルカ様を殺そうとした刺客は、彼の兄です」

「……兄弟なのか?」

「はい、イルカ様は五人兄妹でして、長男クルス様、長女ヒバナ様、次女アヤメ様、三女キャン様、次男イルカ様とその中でも末にあたります。事情は複雑なのですが、次女アヤメ様がクルス様と仲を悪くし、それを仲介するために今回の遠征がありました。ただそれはクルス様の怒りに触れたようでして……」


 事情を話してくれているけど、俺は関わる気はない。

 おそらく信用しているというトルメなりの意思表示なのだろう。


「イルカ様は優しく知恵はありますが、まだ幼い。今回のことで人間不信になってしまったかもしれない。ユイ様を信じるというイルカ様の言葉を、できうる限り尊重していただきたいのです。差し出がましいことばかりで自分の都合ばかりですが、どうかお願いいたします」


 俺は軽い返事を返すのは失礼な気がして黙った。

 まだ今日出会ったばかりの彼らにそんな言葉で締めても約束にはならない。


「無事に着きますよ。俺が守ります」


 だからできそうなことだけ言って、俺も焚火を見つめた。



 翌朝、日が高くなるころになって遂に森を抜けた。

 開けた視界には平原が広がり、少ししてあるものに遮られる。


「おぉ~」

「あれが僕たちの目的地、西果ての街バーチです」


 イルカがちょくちょく俺に説明してくれる。話の種は尽きない。

 バーチと呼ばれたその街の姿は、一言でいうなら壁そのものだった。

 高層ビル並に高い壁に覆われていて、街なのかすらわからない。

 

「バーチはここより西の海、南に魔奥の森、北に王都ウキョウと、国の中でも重要な施設と危険な自然を隣り合わせにしている壁であり、重要拠点とされています。そのため軍備はウキョウ領内でも最大クラスの設備が施されています」

「だからあんな壁がでかいと」

「主な入口は北か東ですが、南にも門があるのでそのまま向かいましょう」


 歩いていくと街の外にも小屋などがあり、作業する人間もいる。

 異世界生活六日目にしてやっと人のいる場所についたという感じだ。


「あ、マーチャンのことはリュックの中に入れておいてもらってもよろしいですか、事情を話すのも構いませんが早くの用がありまして」

「ああ、仲介だっけ。マーチャン、リュックの中でじっとして、緊急事態以外はここから出ないように」

「まー」


 まだこの世界がどの程度の文明基準なのかよくわからない。

 紙幣があるし、水道がなくとも魔法で水が出せる。

 便利よりな異世界だ。


「あっ、見えてきましたよ」

「おや、こっちからくる人は珍しいな。東から迷ってきたか? こっちも通行料金は変わらないぞ。大人5000ベル。子供3000ベルだ。もちろん魔力補充によるものでもいい。あとは生命石の証明と――」

「すこしよろしいですか」


 トルメが門の前にいた男と会話を始める。

 門もかなり大きく、開いている今ならガンダムもしゃがめば通れそうだ。

 衛兵らしき人の装備は軽装で、ファンタジーじみた鎧じゃない。

 というかゴブリンの巣にも鎧ってなかったな。


「ベルってお金の単位だよな?」

「はいそうです。ゴブリンの巣にもありましたが10000ベル札と5000ベル札、1000ベル札の三つがあります。あとの細かいものになると硬貨に分類されて……」

「イルカ様……ご無事でいらしたのですね」

「あっ、どうやら話が通りそうです」


 衛兵たちが慌てだすと、壁に向かってまくしたてる。通信だろうか。

 しばらくすると、修道服を着た初老の男が現れた。


「私はバーチ所属の神官シフです。生命石を目視鑑定させていただきます。確認しました。ご無事で何よりです、この度は衛兵の失礼をご許し下さい」

「いえ、私もこんな服装ですので、疑うのは仕方ありません」


 シフと言ったか、生命石を見ると言っていたがへそには触れなかった。

 職業によってステータスを目で見れる能力があるのかも。

 門の先には馬のいない馬車みたいなのが用意されていた。


「早速ですが、ここにいる五人で屋敷に向かいたいのです。まだ使用人が残っているのでしたら食事の準備もさせてください。その後サリー商会と連絡も取るので、事前のアポを」

「イルカ様、それは私どもが報告させていただきます」

「ではお願いします。ここからは時間の問題です。今日中にサリー商会との面談と買い戻しは必須になりますから」


 俺も流れで乗り物に乗って、街の中を揺らされる。

 建造物はスペインのような統一感のある美しい街並みを彩っていた。

 街灯らしきものもあり、景観は中世ながらも科学技術を感じさせる。

 イルカがこちらをみながら、何かを聞いてほしそうに見ていた。


「さっき話にでてた、サリー商会って?」

「サリー商会は首都をまたにかける一大企業連合です。扱っている商品は多岐に渡り、今回の話で関わる商品は奴隷です」

「どれ……奴隷……どれい……」


 いや、アンとヤアのステータスを見たときから存在は想像できた。

 この世界には奴隷が存在する。

 俺のジョブ能力によくある隷属者とはそれなのだ。


「どうかしました?」

「俺も、それについて行ってもいいかな?」


 なんというか、俺の能力がこの物騒な言葉と深く関係している。

 隷属ってそういうことだよな。

 リュックの隙間から覗くマーチャンも街を眺めていた。


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