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第六話「今、助けるんだ!」


 でかいゴブリンの逃げた先の洞窟をのぞき込む。


「どうする、ここは引いたほうがいいのか? でもあいつだって知恵がある。このまま逃げても追われて逆に襲撃される危険だってある」

「ぎー……」

「今までのやつらはもしかしたら俺たちの寝床を探していたのかもしれない」


 ゴブリンはどういう理屈で増えているのかわからない。

 今後この森を探索するのに、こいつという脅威を放っておくべきかどうか。


「いけるか?」

「ぎー!」

「マーチャン、索敵は常に続けて、危険だと思ったらなんでも伝えて」


 ブリンの言葉に背中を押されて、俺たちは進むことにした。

 罠があってもマーチャンの危険探知がある。


「この洞窟の奥に村があるのかは知らないが、あるっていうなら向かう!」

「ぎぃ!」

「こっそり乗り込め―!」


 ブリンが先陣を切って歩き出す。

 この洞窟を教えただけあって内部も知っているみたいだ。

 ある程度歩いて、


「まー!」


 マーチャンの言葉に俺たちは体を止める。

 その目の前を、剣が通過した。


「でかゴブリンが剣を投げてきたのか!」

 

 どうやら俺たちが危険だと相手もわかっているようだ。

 投石のように武器を投げこんでこちらをけん制している。


「ぎー……」

「落ち着け、いいかみんな。作戦は相手の足を狙って転ばせること。ブリンはとにかく相手の注意を引き付けて自分の身を守ること最優先。倒れた時がチャンスだ。俺たちが両目を潰せればなんとかなる」


 皮膚がどれだけ硬くても目は例外だ。頭にスマッシュでもいい。

 あとは巨体を支える足を鞭やナイフでじわじわなぶっていく。

 長期戦だ。


「コンバーット!」


 俺たちは巨大ゴブリンに向かって飛び出す。

 そこは大広間のようで、いろんな武器やら服が散らかっている。

 ゴブリンたちの戦利品かもしれない。


「ぎっ!」


 ブリンは先頭で飛んでくる武器を剣ではじく。

 危なげなく役割を果たす仲間に頼もしさすら覚えた。

 巨大ゴブリンは近づいてくる俺たちに焦りの表情を向け、何かを決意した。


「こいつ何かして……な、武器もでかい!」


 巨大ゴブリンが取り出してきたのは、より強大な鉄塊だった。

 そいつすら持て余すほど巨大なそれは、建造物か何かだったのだろうか。

 おおきくふりかぶった。


「来るぞ!」


 言うまでもなくブリンは構える。

 敵も焦っている。あんなに大きなものを持てばバランスも悪くなる。

 むしろ動きがさらに鈍く、俺たちの的になるだけだ。


「ギ……ガァアアアアアァァアア!」


 渾身の力を込めた横なぎ。

 ブリンは出鼻をくじいた。威力が出る前にその鉄塊に剣を当てて止める。

 

「上手いっ! 敵の両手をふさいだ!」

「ァ、ァアアァァァ゛アアアア!」


 巨大ゴブリンは、その小さなブリンに力負けする姿に慟哭する。

 その叫びが、亀裂を生んだ。


「まーッ!」

「あっ……」


 ピキリと、嫌な音が鳴る。

 それはほかでもない、ブリンの持っていた剣があげた悲鳴だった。

 なまくら同然だった剣だけは、ただの小さな鉄塊だ。


「ぎ――」

「ブリン!」


 剣が割れ、重量がそのままブリンの体を叩いた。

 巨大ゴブリンの攻撃が、初めて振りぬかれる。


「あっ……ぁあ……っ!」

「ガ……ギア……」

 

 息切れをしながら、巨大ゴブリンはブリンを追う。

 ブリンは吹き飛んだ。肉の叩かれる音がして洞窟の壁にぶつかる。

 俺は震える体で、ブリンの飛んで行った方向を見つめる。


「……助けなきゃ」


 どうすればいい。

 あいつは鈍いが硬く攻撃は重い。俺がひきつけられる敵じゃない。

 なら倒さなきゃいけない、でもあの皮膚を貫けるものはない。

 考えろ、考えろ。


「……」


 もっと慎重に動くべきだったとか、後悔とかそんな余計なことはいい。


「今、助けるんだ!」


 俺は走り出した。

 巨大ゴブリンはまだブリンに意識が向かっている。

 転ばせる?

 駄目だ。バランスも崩れてない状態でやってもすぐ起き上がる。

 皮膚は固い。でも敵も生き物だ。


「っ!」


 俺はとっさにナイフを取り出して、その柄に鞭を巻き付ける。


「スマァアアッシュ!」


 鞭をしならせて、先端に巻き付いたナイフの先端を巨大ゴブリンに向ける。

 ナイフを当てれば傷つけられるかもしれないが、狙いはそこじゃない。

 

「ギッ――!」


 俺は背後に回った。

 ゴブリンの内臓に直結している穴、尻の穴に向かってスマッシュを放つ。

 ナイフは尻穴をこじ開けて、ゴブリンの皮膚内部に入り込んでいった。


「スマッシュ! スマッシュ! スマッシュ!」

「アッガッ……ガ」


 はらわたをかき回すように、スマッシュで鞭を暴れまわらせる。

 巨大ゴブリンは開いた口が声にならない悲鳴を漏らしていた。

 俺は近づいてさらに内部へと、心臓へと鞭が向かうよう意識する。


「スマッシュスマッシュスマ――!」


 俺は無我夢中のままそれしかできなかった。

 精神力の続く限り続けるんだ。

 いつあの巨大ゴブリンに頭から潰されるかわからない。


「まー……」

「っ……!」


 ただ、マーチャンの鳴き声を聞いてはっと我に返る。

 見ると、巨大ゴブリンはうつぶせに倒れていた。

 時折ナイフの暴れる衝撃でびくびくと跳ねだけで、死んでいる。


「た、倒せた……」


 俺は使いすぎた精神にめまいがしてその場に倒れそうになるが、


「ブリン!」


 ブリンのことを思い出して、疲労困憊の体に鞭を打つ。

 俺は前も見れずに下を向いたまま、ふらついて歩いた。

 マーチャンが心配そうに俺を見ながら先行してくれた。

 しばらくすると深緑の足が視界に入ってくる。


「ブリン……?」

「…………」


 俺は膝をつき、半ば倒れるようにブリンに近寄った。

 ブリンの体は半分がひしゃげて痙攣していた。


「あっ……あぁ……」


 手が震える。唇が渇いた。

 ブリンのかすかに動くその身体は、触れたら壊れてしまう砂の山に思えた。

 それでも、俺は無事だった半身の手を握る。


「ブリン……?」

「…………」


 ブリンの目が、少しだけ光を反射してこちらを見たような気がした。

 小さな手が、俺の手を握り返してくれた気がした。

 

「大丈夫だ……なんとかする、大丈夫だから……」


 俺は語り掛ける。それしかできなかった。

 魔法があるのだから回復呪文があるかもしれないが、俺にはない。

 頼る場所もない。


「…………」


 どれくらいたったのか自分でもわからなかった。

 カラカラという音がして、ブリンの背中から宝石が落ちたことに気づく。

 

ブリン Lv29 ユイに隷属


 情報の少なくなったブリンの宝石を、俺は手に乗せてじっと見ていた。

 ブリンの体からは、すでにぬくもりが無くなっていた。


「……まだ、五日しかたってない。まだ、出会ってそれだけなんだ」

「まー……」


 俺は今の感情をどうしていいのかわからずに、立ち上がる。

 上着を脱いでブリンの上にかぶせてやった。


「マーチャン……他にモンスターはいないか?」

「まー?」


 今できることをしなきゃいけない。

 助かった自分たちがここでやられたら、ブリンの意味がなくなる。

 マーチャンは隷属しているからか俺の命令を聞いてくれた。


「……誰か、そこにいるのか」


 俺は呼吸を整える。

 ずっと呆けていたんだ、体力は戻った。

 マーチャンは、洞窟の奥にあった抜け穴みたいな場所を示していた。


「…………」


 鞭を構え、先に攻撃できる用意はできた。

 俺は自分でも驚くくらい冷めた感情のまま、そいつらに向かう。

 抜け穴の向こうには、


「…………」

「……あっ、あ。あなたは……?」


 裸で縛られたこの世界の人間たちがいた。

 人がいるって、こういうことだったのか。


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