第四十九話「ジョブを見てもらうといい」
俺たちは簡単めなダンジョンの一層をクリアしたところで一度解散した。
今はアヤメと一緒に帰路についている。
基礎知識とお試し感覚だったので今日はこのくらいだろう。
「ボスといっても一層じゃあのくらいか」
ちなみに一度クリアした者が仲間にいればボス部屋は素通りできるらしい。
「ご主人様、サトーと言いましたか。知識は悪くありませんが危なっかしく頼りない印象がありました。ただビジネスで考えれば悪くないかと」
「同意見。お試し期間終わったら助っ人も使う機会なんてなさそうだし、明日もサトーでよさそうな気はする」
人気のなさはあの危なっかしさだろう。
彼には命を懸けた探索にあれは頼りなさを感じてしまう。
「悪い人ではなさそうだけどな」
「あくまで案内と知識に限りますが……着きましたね」
俺たちはキナワの街中にあるまだ見慣れないマイホームに帰ってくる。
「ただいまー」
「まぁー」
もちろん誰もいない。
俺は鍵をポケットにしまい途中でサリー商会から受け取った荷物を下ろす。
「確か、中にタオルあったよな」
「もう入浴するのですか?」
「とりあえず一回入ってみたいからな。また汚れたら寝る前に入る」
「……わかりました。荷物は私が寝室まで運んでおきます」
「ありがとう」
晩飯もサリー商会で済ませたし、あとは歯を磨いて風呂入る!
脱衣所に向い服を脱いで、浴槽を眺める。
「メドゥのところにあった風呂に負けずここもでかい……これが風呂の魔具か。浴槽に宝石が付いている感じだな」
俺は浴槽にあった魔具に手をかざして魔力を送る。
するとじょぶじょぶと浴槽にお湯が流れ始める。
おけでお湯を掬ってかけ湯をしてから、浴槽に腰かける。
「こうやって少しずつ水かさが増していくのを待ちながら入るのも良き」
俺はいま瞑想に近い落ち着きを得ている。
ゆっくりと全身が暖かいお湯に包まれ、疲れがほぐれ行く。
「ここの湯もいいだろう」
「はい、よき」
メドゥがいつの間にか向かい側で風呂に漬かっていた。
俺はこの程度ではうろたえない。
「この風呂の魔具も専用の湯が出るように調整してあってね。疲労回復に最適なんだ。ちなみに私の邸宅では花の香りもある」
「あちらもよき」
「今日はどうだったかな?」
メドゥは今喋りたい気分なのか、俺の方をじっと見ている。
無視するのも悪いので口を開いた。
「メドゥさんのおかげで助かりました。ダンジョンサポーターのおかげで知らないダンジョンの仕組みも教えてもらえましたし」
「それは良かった。君たちがここを管理してくれれば私も気楽にここに来れるからね。私は君たちに結構期待しているんだよ」
「あんまり弱くてがっかりしないでくださいよ」
ババフライを倒したのだってヒハナとブランカのおかげだし。
「大丈夫だよ、君もちゃんと自分の力を理解しなきゃダメだよ」
「あれ、メドゥさんも目視でステータス見れるんですか?」
「ちょっとはね。君は一度教会に行ってジョブを見てもらうといい。ある程度は自分の方針を定めないとね」
「教会……ジョブ? ん、んん!」
確か教会ってジョブを変えることができるんだよな。
そういえばババフライ戦以降魔法使いのレベルが20を超えてたっけ。
つまり俺に何か有用なジョブが産まれたという事だろうか。
「えっと、もしかしてそういうのもわかったりするんですか?」
「君が知らない二つ目を持ってるのも知ってる」
「ご主人様またメドゥ様が来ていますよ! なにをなさっているんですか!」
アヤメが鼻息を荒くして浴室に入ってくる。
そこで会話が終わりなのか、メドゥは風呂場から出てしまう。
二人は視線を合わさずすれ違う。
「油断も隙もありませんね」
「メドゥさんは風呂に入りに来ただけじゃないのか」
「いいえ違います。あの手の権力者は何かを私たちに押し付けるつもりなのですよ。その時になあなあで絆されるご主人様の様子が見てわかります。そういうところありますから」
アヤメはむすっと腑に落ちない表情で俺の隣に座った。
俺なんか面倒ごと抱えそうなのかなぁ。
*
翌日もダンジョンギルドに向かい。サトーと合流する。
「大丈夫でございますよ。拙僧はほぼ空きがございますので」
「それで商売大丈夫なのか?」
「事務仕事の毎日でございます。それよりも! ささこちらへ!」
サトーに案内されたのは、ダンジョンギルドで人ごみの多い場所だ。
掲示板らしき立て看板に、文字が自動でかかれて浮かぶ。
「そういえばギルドの施設なんも見てなかったな」
「ダンジョンギルドにも様々な施設がございます。まずは依頼書。これは訳あって欲しい生命石やモンスターの素材などを依頼する場所です。ここでお金を稼ぐ場合はこちらを利用したほうが効率が良いかと」
「ただ潜るよりも目的があって潜れるってことか」
「はい、今回はボブ迷宮五層でも取れるレッドゴーレムの瞳石にしましょう」
「相変わらずバンバン勝手に決めるなぁ」
「あ…………」
俺がぼそりというと、サトーが固まる。
食事の時もメニューを決めてたり、結構せっかちな印象があるから今更だ。
「も、申し訳ございません! せ、拙僧もその……」
「ああ別にいいよ。俺たちのために考えたプランなんだろ。自分で考えたいときはそう言うから」
「はい……恐悦至極でございます……」
サトーはちょっとしょんぼり反省している。
アヤメは口出ししたらきつい言葉になると分かってるからか黙っていた。
が、まあ無理だったみたいだ。
「自分が正しいと思ったら全部勝手に進めてしまうんですね」
「はうっ!」
サトーはとどめを刺される。
「あ、あの、次はライブハウスに向かいたいのですが、お二人ともその予定でよろしいでしょうか……」
「ライブハウスってなんだ? 音楽でも奏でるのか?」
「いえ……語ってもよろしいですか」
「どうぞ」
サトーは一度深呼吸してから、胸を張って話し出す。
「かつてダンジョン内では犯罪が横行していた時がございました。深層でモンスターにやられたことにすれば簡単に略奪できたからです。それを嘆いた聖者アビスは聖器千種眼を使いダンジョン内をすべて把握する能力を得ました」
ダンジョンギルドの、一番人ごみの多い場所に案内される。
先が見えなくなるほどの長い通路に、椅子がいくつも設置されていた。
壁にも無数のモニターが設置されていて、俯瞰視点で人を映していた。
「千種眼はダンジョン内を警戒する無数の目玉です。ほらあそこに」
サトーが指さす先に、ぷかぷかと浮かぶ球体があった。
球体は身軽に円を描きながら動いて、ギルド内を眺めている。
「あれが無数にダンジョン内を監視しているのですよ」
「ライブハウスって、あれが見ている者がここに映ってるってことか?」
「はい、そうすることでダンジョン内の蛮行を防ぐだけでなく、ダンジョンモンスターに対する生の情報を記録できます」
モニターに映っているのはダンジョン内を探索するパーティなのか。
モンスターとの戦闘シーンもあり、大人数の連携も見える。
「現在この聖器を操っているのはメドゥ様です」
「あ! だからやたら情報の出入りが早いのか……」
「盟主メドゥ様はあの若さで聖器に認められるほどの才覚をお持ちで、目視鑑定でステータスのほとんどを暴けるほどの実力もございます」
「あぁだから昨日……」
「昨日、いかがなされたので?」
「新しいジョブに転職可能になっててさ、それを教えてもらったんだ」
サトーは興味深そうに俺を直視する。おそらく目視鑑定だろう。
特に隠す気も無いので、両手を広げる。
俺の新職を見るがよい。
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