第三十五話「どの街も三日すると出ていく気がする」
オサカの街に来て三日が過ぎた。
俺たちは旅の準備を整えて、宿を離れることとなる。
アヤメは先頭を歩きながら、俺は名残惜しそうに宿に振り替える。
「どの街も三日すると出ていく気がする」
「まー」
「今食べたらお昼入らなくなるだろ。いい匂いはするけどさ」
ユイ ♂ 18歳
魔法使いLv18 操獣士Lv9
*能力
意思疎通
隷属契約
隷属能力強化
隷属成長強化
鞭術
杖術
魔法(火/風/水/土/契)
*スキル
ドレイン(吸気の黒鞭)
マシルド(土守りの杖)
ファイアロウ(火矢の杖)
コウォル(氷壁の杖)
シャドウ(ブリン・イノリ)
*隷属者
アヤメ
マーチャン
出発前に見たステータスを思い出して、今後の旅路に気を引き締める。
アヤメは整備されて新品みたいな弓を揺らしながら歩く。
「お金もありませんから……あれだけあったのに10万ベルを下回りました」
アヤメ ♀ 18歳 ユイに隷属
狩人Lv9
*能力
技術(剣/短剣/斧/弓/罠)
魔法(火)
審美眼
解体作業
聞き分け
*スキル
シュート(赤木の弓)
ヴィジョン(投影の細剣)
アツア(火種のナイフ)
「魔列車の出発時間は二時間後だっけ」
「はい、おそらく二日程の旅路になると思われます。安全な航路と考えれば早く安い最適解です」
「格安でも譲ってもらってもかなりお高かったもんなぁ」
俺たちはオサカに行くために魔列車に乗ることにした。
オサカの外れに、アーチ状の巨大な天窓屋根がある建物が見えてくる。
壁もなく開けたそこは、魔列車の駅だ。
内部から覗くのは、俺のイメージする列車の倍の大きさもある箱の列。
あれが魔列車なのだろう。
「でけぇ」
「魔列車はトーチゴーレムの生命石をもとに作り出す乗り物です、強いモンスターなのもあり世界にもまだ30台ほどしか製造されていません。故に乗車料金は高値ですが、それでも乗る価値は大いにあります」
「この世界でも数少ない安全な航路なんだっけ」
俺たちは追われている身だ。
撒いたとはいえ、ウキョウ領内ならどこで追手に遭遇するかもわからない。
街中で暗殺はされないが、道中の安全は保障されないのだ。
それに加えてこの世界はモンスターの脅威が大きい。
強いモンスターの多い南を個人で渡る命の値段はお高いという。
「幸運でした。たまたま渡航断念された方のペアチケットを格安で買い取れたのも」
「俺たちアバンチュール! に見えたのかもよ」
「さて、四号車でしたね」
昨日まで時間を見てはこの駅をふらついて、予約の空きを探していたのだ。
たまたまだ、駅内で出会った老夫婦のご厚意には感謝している。
「四号車、これが俺たちの乗るオサカ行きの魔列車か」
魔列車の形状は戦車と呼んでもいいほどにごつく大きな箱だ。
装甲がひしめく先頭車両の後ろ、シャッター付きの客車は全七両ある。
電線を連ねる必要がないからか、屋上もあった。
俺が異世界転移した列車とは箱っぽいところしか共通点がない。
「屋上があるけど外で立てる速度なのか?」
「音を切るほどではありませんがモンスターで補足できる速度ではありませんよ。ですが魔列車には空気抵抗を流す風の壁を前方に生成します。それがモンスターを近づかせないのと、屋上での風よけになっているのかと」
「この世界のモンスターほんと殺意高いの多いからね」
魔奥の森も一歩間違えば死に直結していたが、危険は森だけじゃない。
むしろ運が悪ければあれ以上に危険なモンスターと平原で遭遇する。
ヒハナさんが言っていたスタンビートもそのひとつだろう。
「そのための魔列車です」
「走行中の事故は一度もありませんって宣伝してるね」
「いらっしゃいませ、お二人の乗車券を確認させていただきます」
アヤメはこれから乗る魔列車を見つけて駅員にチケットを見せる。
駅員のおっさんはうなずいてから体を引いて俺たちを招いてくれた。
「どうぞこちらが個室のカギになります。お客様の個室は六両目、売店と食堂は二両目にございます。係りの者も二両目に多くいますので何かありましたらそちらで。一両目は関係者のみの車両ですので立ち入りはご遠慮ください」
開いたままの大きな扉をくぐって、魔列車の中へと入った。
列車内部はいくつかの狭い部屋が何個も繋がっているタイプだ。
俺たちが眠る個室も、ダブルベッドに収納スペースがあるだけで結構狭い。
「トイレは車両の後ろにあるみたいだな。ん、外が気になるのか」
アヤメは個室に入ると、ベッドに腰かけて頬づえをついている。
俺もリュックを収納してからかがんで窓の外を眺める。
「わかるぞ、知っている人がいたりするんじゃないかときょろきょろしちゃうんだ。俺にはわかる」
「違います。ご主人様と一緒にしないでください。ただ……いえ、ご主人様と同じような事を考えていたのかもしれません。屈辱です」
「えぇ……」
「もし私たちが危険にさらされるとすればこの列車に私たちを狙う者が入り込んだ時です。警戒していたのかもしれません」
アヤメはうんと背伸びをしてベッドの上に身体を預ける。
マーチャンも真似をしたくなったのかベッドの上に飛び込んで跳ねた。
「まー」
「森を出てすぐにヒハナ姉さんに偶然とはいえ会ってしまったので、二度起きることもあるかと」
「じゃあ屋上に行って入る人観察するか?」
「嫌ですよ、屋上は見送りに手を振る乗客がたくさんいる芋洗いですので」
外には見送りなのか手を振る人間が多くいる。
「あれ、あの人サリー商会にいた長杖買取の人じゃないか、あの人もこの列車に乗るのか……」
「おそらく商品をキナワに運ぶのかと、武器はダンジョンがあるあちらの方が需要が高いですから」
しばらくすると汽笛が鳴り、ゆっくりと景色が流れて行った。
「出発しましたね。これで列車内は外部からの障害に対し無敵になりました」
「隕石でも落ちてこない限りは大丈夫か」
「よほど固くないと弾かれます」
「まぁー……」
マーチャンが車窓に張り付いて夢中になっている。
俺は緩んだ気分でマーチャンを撫でつつ、持ってきたお菓子を取り出す。
「マーチャンはこれからすくすく育ってもらわないとな。キナワでも成長を期待しているぞ」
「そういえばマーチャンがドラゴンかもという話をされたことがありますが、本当にそう思っているのですか?」
「あくまでそうだったらいいなって位に考えてるよ」
「そうですか……ご主人様にはドラゴンについてお話ししたほうがよいかもしれませんね」
アヤメは足を組んでマーチャンを撫でながら、頬杖をつく。
持て余した時間を俺への異世界講座に使ってくれるみたいだ。
「そういえばドラゴンの話は深くしなかったな。あんまり生活に重要な話でもないのか?」
「はい、教養ではありますが必要という知識でもありません。チュート教に伝わる世界の成り立ちです」
「必要じゃない知識はすぐ覚えるよ俺は」
俺が自信満々に親指で刺す。無駄な記憶力に自信あり。
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