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第百二十五話「言うまでもないことかも知れないもの」


 真チュート教に関してわかったことの中にムーチャンの事がある。

 龍のコケラは作成に億単位の生命石が必要になる。

 つまりはそれほどの量を集めるとなれば隠すことなどできまい。


「聖地はあちらですよ」


 聖女は俺を笑顔で促す。

 龍の角内部の出口近くで、既に日は暮れていた。

 ここまで遠征に来ていた全員がようやく肩の力を抜いて各々へたり込む。


「主様初めて来ましたよここ!」

「僕も初めてです。イチ見てください! 雲があんなに」


 イチとイルカが二人して聖地を歩き回る。

 俺はあと一息まで上り詰めて、龍の角の反転重力から解放される。


「ここが聖地ねぇ」


 そうして横に広がる世界は、天空の城そのものだった。

 遺跡のような建造物が立ち並ぶが、そのどれもがコケひとつなく眩い。

 パラパラと夜空に舞う蛍のような光が、ここが夜空かもと錯覚させる。


「あの中央に見える大聖堂が私のおうちです」


 聖女も後から続いて俺に解説してくれる。

 というかなんで近くにいるんですか。

 隣のアヤメが珍しく小さく感じてしまうほどの存在感だ。


「マー!」

「マーチャンさんも気になりますか? いくらでも空を飛んで構いませんよ」


 俺はなんとなく聖女がマーチャンと一緒に居ようとしているのがわかる。

 マーチャン自身は警戒してないからいいが。

 真チュート教は狙ってたからなぁ。


「ユイ様」

「あ、はい!」

「そんなに緊張なさらないで、それとも、私に何か気になることがおありですか」


 聖女が目を細めて俺を見てきた。

 バレていると、一瞬で確信する。

 この台詞の答えが、俺の分水嶺となるだろう。


「気になること、ですか」


 ここで真チュート教に関して聞けば彼女は素直に答えるだろう。

 そしてそこから更なる情報は手に入る。

 敵対の意思はそこまで感じないが、知った時にどうなるかわからない。


「じゃあ一つ」

「はい」

「奴隷契約を破棄できる能力があるって、本当ですか?」


 俺は聖女に世界の内を言及することをやめた。

 知ればこの世界の渦から逃げられなくなる。

 好奇心で探るにはリスクの高いそれを、俺はやめた。

 聖女は少しだけ驚いて目を開くと、まだ穏やかな表情にかえった。


「はい、私にできる特権の一つです」

「それをお願いすることはできますか?」

「それだけでいいのですか?」


 俺は聖女の問いかけに首を振った。


「はい、それで構いません」

「そう、そうですか」


 聖女の視線から俺が外れた。

 彼女はマーチャンだけを見ている。


「では契約破棄、今いたしますか?」

「今ですか?」

「はい、これから私たちは今後の諸々と彼らとご相談しなければいけません。忙しくなりますのでお望みでしたら今すぐにでも」

「じゃあ、お願いします」


 聖女は俺を見ないで会話を続ける。

 もうこれ以降彼女と個人的な会話をすることはないだろう。


「誰を?」

「アヤメをお願いします」

「ご主人様!」


 アヤメがそこで声をあげた。

 俺はそんなアヤメの反応を少しうれしく思いつつ、意見は曲げない。


「彼女の裁定に関してもティーダ氏による推薦は済ませてあります」

「わかりました、準備をいたしますので大聖堂まで付いてきてください」


 聖女は先に歩いていってしまう。

 俺は振り返るとアヤメに、イチとニィとサンもいる。


「主さま?」

「あぁサンたちは開放してやれないんだ。すまん」

「いえ、わたしたちにお気遣いは無用です。元より解放されるものではありませんので」

「主様! そんなこと気にしないでもよろしいですよ!」

「ご主人様どういうことですか?」

「俺のわがままと、話したいことがあるんだ……っと」


 俺が進もうとしたら、ヒハナがいたことに気づく。


「ユイくんはアヤメの事をそうしたいのね」

「いけませんか?」

「面倒な男の子ね。私の趣味じゃないけれど、それはそれでいいのでしょう。大丈夫、クルスお兄さまには私から言っておくから。それにま……」

 

 ヒハナは付き合いが長いわけじゃないのに、俺を見抜いたみたいだ。

 一度アヤメを見てから、お互いに同じことを考えてため息をつく。


「言うまでもないことかも知れないもの」

「マー?」

「マーチャンは大聖堂の前で待ってて、ついでにあっちの方を向いておいてくれるとありがたいかな」


 俺は夜空の向こうを指さしておく。

 マーチャンは面倒そうな顔をしつつ指示に従ってくれた。

 聖地は広さ自体は小さな町のようで、中央へはすぐだった。


「大聖堂の礼拝堂ね……」

「わぁ……わぁっ!」


 イチがはしゃぐ、隣のイルカもジャンプしそうだ。

 礼拝堂は月明かりに照らされて壁一面のステンドグラスが絶妙に反射する。

 それはゆっくり動く万華鏡のようで、ここ居いるだけで吸い込まれそうだ。


「どうぞこちらへ」


 聖女が待っていた。礼拝堂の中心で両手を広げている。

 俺はアヤメの手を強引につかんで引っ張った。

 アヤメはあまり乗り気じゃない足取りだが、ちゃんとついてくる。


「お二人とも、生命石をつけてください」

「……はい」

「…………はい」


 俺たちは服をまくってへそを出す。

 カチンと優しく触れて、


アヤメ ♀ 18歳 ユイに隷属

 閃光戦士Lv43

*能力

 技術(剣/斧/弓/柔)

 魔法(火/雷)

 審美眼

 帯電

 騎乗

 聞き分け

 引き溜め

 集中

*スキル

 シュート(赤木の弓) 

 マラク(宝剣マラク)

 ボルト(雷装の腕輪)

 パーティクルオーバー


「それでは契約破棄を行います。二人とも目を瞑ってください」


 俺とアヤメをつないでいた契が解除される。

 礼拝堂の床は月明かりより力強く輝き、二人の繋がる糸のようにほつれた。


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