第百二十三話「やっちまえ」
マムートとローグが融合した姿は巨大な銀色の天使だ。
ローグは銀色の強大な身体で浮き、天使の輪を上空に浮かせていた。
俺とマーチャンは飛び上がる前に一度地上へと降りる。
「アヤメはあっち、いけるな?」
「もちろんです」
アヤメやイチ、ヒハナやブランカとキャンを降ろした。
一緒に戦うよりもこっちの方が効率がいい。
「アヤメ様は僕が守ります!」
「大丈夫だよそんなんしないでも。アヤメは自分で何とかする」
「イチは妹たちの元に行きなさい。私は私でやらなきゃいけないことがありますから」
俺とアヤメは一度だけ目くばせをしてもう見ない。
頼りになる奴隷たちがいてうれしい限りだ。
「マーチャン!」
「マー!」
マーチャンが翼を広げた次の瞬間には飛び立つ。
マムートの進行方向に立ちふさがり、声を響かせる。
ローグの銀色の体躯に罅が入った。
「ったく、つくづくついてない割に往生際が悪すぎるんだよ! ローグ!」
「マーァ!」
「ままならないものだからな!」
ローグは両手を広げてマーチャンを払おうと振りかざす。
大きさで言うならば手だけでマーチャンを握りつぶせるだろう。
だがマーチャンはきりもみ状に上昇し、そのままローグの身体へ。
「マー!」
ローグの身体はマーチャンに貫かれ粉々に割れた。
銀色の吹雪が龍の角で舞う。
ただその破片たちが少しずつ形を変貌させ、小さなローグになる。
「破片全部ローグかよ、まあでも」
「抜錨!」
クルスの拡張した声が全員に響き渡る。
示し合わせたように、地上にいた人すべてが動き出した。
「ノビル!」
「ファイアロウ!」
先陣を切ったのはイチだった。
ニィとサンがそれに続いて手にした武器を振りかざす。
戦っているというよりも、後ろにいるイルカやローザを守っている感じだ。
「マーチャン行くぞ! ユニオン!」
「マー!」
俺はマーチャンの身体に触れてもう一度ユニオンを唱えた。
祝福の光が、ここにいる人々守るよう降り注ぐ。
かつてのマムートとは真逆の力が、全員にいきわたった。
「大盤振る舞いだ。へばってないで後片付けを始めよう」
アヤメのようにここまでで全力を使い果たした人間にも戦ってもらう。
俺と意志を共にするものにのみに与えられるマーチャンのバフだ。
「スイレンジュウニヒトエ」
ヒハナがオリジナルスキルを放つ。
刀身が水のように揺らぎ波を起こして、銀の破片を飲み込んで潰す。
その規模の刀を振る度に引っ張られてたたらを踏んでいた。
「大規模攻撃用のスキルまであるんすか、ヒハナ様は便利ですねぇ」
「ブランカ、あなただってオリジナルスキルはあるでしょ」
「いやぁオレはもう使い切っちまったわけなんですけど」
「まだあるでしょ。奥の手くらい」
「……ほんとこの兄妹は人使いが荒い!」
ブランカは両手を前に出して銃の形を描く。
銀の腕輪に残された二つ分の輝きを糧に、二丁の俊弾が鳴りひびく。
「ドットインパルス、オーバーフロー」
ブランカの目の前にいた複数のローグが砕け散る。
ヒハナの津波と、ブランカの弾幕が地上の道を切り開いていた。
「有り球全部持っていけ、お前らにゃ風穴がよく似合うさ!」
「ギリ様! 彼らを中心に陣形を!」
「了承だ! メドゥに続け!」
地上はあの二人を中心にローグの破片を捌き続ける。
俺が心配する必要はないだろう。
「だからマーチャン、俺たちはあれだ」
「マー!」
マーチャンは上空に残っていた天使の輪をめがけて飛び立つ。
中身を失ったマムートの円盤はまだ死んでいない。
「うぉっ!」
それどころか、俺とマーチャンに不可視の圧力を投げかけてくる。
おそらく障壁がなかったら粉みたいに溶かされていただろう。
俺たちはあえて避けずにその力を受け止める。
「下にいる奴らには気持ちよく戦ってほしいもんな。俺だってそうさ」
「マァアアアッ!」
マーチャンの前方で障壁同士がぶつかり合って赤く染まる。
俺はとっさに持っていた自分の杖に手を触れる。
マムートの身体に触れて、自分の内にあった力を開放する。
斥杖ナーガ *スキル グラビラ ナーガ
「ナーガ!」
俺の左手にある杖が黒い蛇の姿を形作る。
大きく手を振りかざし、黒蛇の鞭が障壁にまっすぐ突き通る。
重力の鞭が拮抗した障壁を押し出して穴を開く。
「マーチャン!」
マーチャンは天使の輪の力場を打ち破って天空を仰いだ。
そのまま急降下して、天使の輪に直接頭突きをかました。
「マァーッ!」
バチバチと火花をあげて天使の輪が悲鳴をあげているようだった。
だがまだ足りない。
「クルスお兄様、合わせるくらいはできますよね」
「俺に命令するな。俺は俺のやりたいことをしているだけだと言っている」
俺とマーチャンのすぐそばに、濃い雷雲があった。
アヤメがその上で居合の構えをとり、大きな雷雲を背に引き溜めている。
宝剣マラクは余すことなくその雷雲を吸い、螺旋状の赤い稲妻が響く。
「よろしいですね」
「やっちまえアヤメ」
「パーティクルオーバー!」
アヤメのオリジナルスキルが放たれる。
振り放つ雷鳴の轟音が、この戦いに終止符の鐘を叩く。
天使の輪が耐えられなくなって罅割れ、全体に伝染していく。
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