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第百二十二話「なに格好つけてるんだよ、マーチャン!」


 俺の内にあるかすかな魔法がマーチャンへと届いた。

 生命石しかない身体は元の姿を取り戻し、さらに増幅する。

 目の前で金色の輝きが誕生し、光の輪郭を作り出す。

 そのフォルムは、


「ドラゴンだ……!」


 ファンタジーの世界で見るドラゴンのイメージそのものだった。

 大きな翼を広げ、中央にはイケメン顔のトカゲがいる。

 ただ眼はくりくりでちょっと怖さよりもぬいぐるみ感があった。

 胸元にはおっきなふわふわの毛玉みたいなのがあって、


「でっか……」


 大きさはトラックにも負けないくらいの大人ドラゴンだった。


マーシフルドラゴン ♂ 0歳 ユイに隷属

 Lv31

*能力

 危険探知

 索敵

 飛行

 障壁展開

 心眼

 祝福

*スキル

 エボルト

 ユニオン


「なに格好つけてるんだよ、マーチャン!」

「マー!」


マーチャン ♂ 0歳 ユイに隷属

 Lv31

*能力

 危険探知

 索敵

 飛行

 障壁展開

 心眼

 祝福

*スキル

 エボルト

 ユニオン


 マーチャンが翼を広げて、真っ黒な世界を砕いた。

 眩い光に包まれる。

 ガラスの窓が割れるみたいに世界が開け、元の龍の角に帰ってきた。


「ご主人様!」


 アヤメの声がした。

 見ると、マムートに囲まれて今にも逃げ遅れそうだ。


「アヤメーっ!」


 俺は大声で無事なことを叫んだあとで、抱き留める。

 マーチャンの飛行能力ですぐ救出に迎えた。

 ついでにイチとヒハナも助けておく。


「お二人ともおかえりなさい。待たせすぎです」

「すぐ帰ってこれると思ったんだって」


 俺はアヤメと顔を合わせた後で、マムートを見る。

 マムートの身体は、穴が開いていた。


「マーチャンが力の中心だったってことか?」

「主様! まだ何か来ます!」


 マムートの残った体から多脚による一斉攻撃が迫ってきた。

 ヒハナが戦闘態勢に入るが、マーチャンと目を合わせて前へ。


「マー!」


 マーチャンの叫びが、波動となってマムートの全身を揺らす。

 揺らされたマムートの脚が崩壊していく。


「マーチャンが障壁を飛ばしてる?」


 マーチャンは一度大きく息を吸うように顔を持ち上げて、


「マァアアアッ!」


 口から放たれた魔力の衝撃がマムートの全身を割り抜いた。

 力そのものにヒビが入るように空間が割れた。

 マムートの身体は割れたまま停止した。


「やりましたぁああっよ! 主様流石マーチャンですよ!」

「この子うるさいのね」

「マムートの身体自体は浮く物質なのかあれ」


 マーチャンの一撃がマムートを倒した。

 これでクルス兄さんからもうだうだ言われずに済むだろう。

 力の半分を失い、自我もなく動いていた龍は停止した。


「あーあ」


 キャンの声がした。

 見るとマムートの上で魍魎開門を開いて俺たちを覗いていた。


「結構いけると思ったのに、やっぱりうまくいかないものだね」

「キャン!」

「でも不思議」


 キャンはアヤメとヒハナを見た後に、地面にいる人間たちを見て呟く。

 いや、兄妹を見ていたのだろうか。

 クルスはキャンと目があって、自重したように笑う。


「あぁ、ありえないな。こんな辺境の錆びれた森に、ウエスト貴族の俺たち兄妹が初めて全員揃うなんてな」


 クルス、ヒハナ、アヤメ、キャン、イルカ。

 五人全員が揃ってマムートを見ている。

 俺はそんな様子に少しだけ疑問が沸き立った。

 キャンはマムートの雄姿を見損ねたのに、そこまで慌てていない。


「キャン!」


 俺の疑問に答えてくれたのは、今までここにいなかった奴だ。

 外套で身を隠し覗く眼光から知性を感じるゴブリンの姿だった。


「ローグ!」

「こちらに譲れ!」


 譲れ。

 この場にいた全員がその言葉の意味をわかりかねた。

 俺だけがその言葉の意味を理解できて、間に合わなかった。


「……譲るよ」


 キャンがつぶやく。

 俺がこの異世界に来て初めて使ったブリンとの隷属契約を思い出す。

 あれは通常とは違う、ただ口と意志での了承で行える隷属だ。

 おそらく契魔法の派生から産まれる特殊なもので、今の言葉の意味が。


「キメラ!」

「ローグ!」

「ご主人様いったい」

「あいつは一人だけ奴隷を残してたからそいつを使って回復しつつ高速移動の能力でここまで来た。それはわかるな」

「は、はい。死体を確認できなかったローグの奴隷人間がいました」

「次にキャンとローグの間で隷属者の譲渡が行われた。あの一瞬でムーチャン……いやマムートがローグとの隷属関係に変わったそして」

「見ろ!」


 ここにいた誰かが空を見上げた。

 マムートの身体が崩壊していく。

 決定的な死を前にまわりが沸き立つが違う。


「ローグの身体が……」


 ローグはキメラのスキルによって自らの身体にマムートを飲み込んだ。

 ゴブリンの肉体はよりシャープな輪郭に銀色を帯びた機械の命。

 頭上の円盤は中身をなくし、天使の輪となってローグの上に浮かんだ。

 

「うちの同僚も格好良くなっちゃいましたって。きゃっ!」

「逃がしませんよキャンお嬢サマ」


 キャンがまた魍魎開門の中へ逃げようとしたのをチェーンが引っ張る。

 ブランカが早打ちで楔を打ったのだ。


「ブランカ!」

「うちのお嬢サマはどいつもじゃじゃ馬でいけねぇや。ほんと」

「あーもう」


 キャンは捕らえられ、マーチャンの上に転がった。

 ブランカもついでにマーチャンの上に降りてくる。

 既にドットインパルスは発動していて、腕の周りに杖が浮いている。


「さてさて、ここの方々はあれをどうにかできるんですかい?」


 ブランカは俺を見て心なしかほっとしつつ、後ろを指さす。

 背後には巨大なローグのキメラが完了しようとしていた。

 

「うちの王子様を働かせたんだ。もうっちょっとくらいは何とかしてほしいもんなんだが」

「助けるさ。ここにいる全員くらい」

「マー!」


 俺はここにいるたくさんの人にマーチャンを助けられた。

 恩は忘れないし、マーチャンを助けることに比べれば楽勝だ。


「さぁ飛ぼう! 空の先は俺たちのもんだ!」


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