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第百二十一話「私たちはあなたの呼びかけに答えたのよ」

ちょっとまた書き溜め期間に入ります


 マムートの内部で出会ったのは、かつて死んだ仲間のイノリだった。

 真っ暗な世界で腕を組んで一人だけの彼女が見える。


「え、え?」


 俺は覚醒した意識のまま困惑しかなかった。

 どういうことだ、いやこれ夢……


「寝るなっ!」

「うぉっ!」


 イノリが腕を組んではきはきと喋る。

 瞑りかけた瞼が開いて、俺はその世界を見渡す。

 真っ暗で何もないのに圧迫感と浮遊感で漂う深海のような場所だった。


「ここは」

「マムートの内部でしょ。ユイくんちゃんと起きてる?」

「起きてます! 起きてますよ!」

「ならよし、じゃあ私は」

「いや待って! イノリどうしたの! 教会でいなくなって生命石になったはずだし。大体マムートの内部だってなんでわかるの」

「そうね、たぶんそれじゃない?」


 イノリが指さす先は、俺。

 俺もいつの間にか見えるようになって、ベルトについた生命石が光る。

 これはイノリの生命石だ。


「シャドウの時みたいに影が現れたのか? だったらイノリは真っ黒な影に……あれ、真っ黒」


 今の空間ととても良く似ている、シャドウで現れる味方の色だ。

 

「私はもう死んじゃった人間なの。記憶と想いだけがあなたのそこに残っているだけ。だからあなたが契魔法で触れてあなたの魂を通して私が現れるのがシャドウ……であってるわよね?」

「あ、あぁたぶん。だからシャドウで呼んだときに俺のしてほしいことや状況を共有できるっていう感じだ」

「だったら私はそういうことでしょ。ここにいる私はイノリではないけれど、イノリの記憶を持ってあなたに話しかけているだけ」


 イノリは自嘲するように笑う。


「あなたがあんまりにも情けないから、助けに来ちゃったのかもね」

「……それでも、俺は助かったよ」


 俺はこの場所がなんとなくだがわかった。


「ここはシャドウそのものなんだ。人のもつ記憶とか、想いとか、そういうのが全部集まって力の塊に溶け込んでいるんだ。そしてこの中に」

「マーチャンがいるのね」


 シャドウのもつ影は想いの色が重なってできた黒なんだ。

 人の記憶を吸った力の結晶に吸い込まれ、俺自身の自我が曖昧になった。 

 この場所がマムートの体内だという事を本当の意味で理解する。


「助けなきゃ、マーチャンはこんな場所にずっといるんだ」


 俺は左右を見渡してマーチャンを探す。

 もちろんどこまでも真っ黒で先は見えない。

 そこで俺は首を振って、仲間に、友達に、家族に話しかける。


「ブリン、キーリも、俺に協力してくれないか? イノリも、早速助けてもらって悪いけど……」

「しょうがないわね」

「ぎー!」

「コォオオッ!」


 俺のベルトについていた生命石から光が溢れて、ブリンとキーリが現れる。

 どちらも生前の姿そのまんまで、生き返ったみたいに見えた。

 でも、彼らはあくまで記憶だ。そんなに甘くない。


「マーチャンはどこにいるんだろう。確かに掴んだはずなんだよ」

「そもそも、身体が残っているの? 生命石しか残っていないってことはない?」

「いやそれは否定できないけど……でもまだ」


ユイ ♂ 18歳

 魔法戦士Lv17 操獣士Lv20

*能力

 技術(鞭/杖/手綱/剣/槍)

 魔法(火/風/水/土/氷/契)

 精神耐性

 意思疎通

 隷属契約

 隷属能力強化

 隷属成長強化

*スキル

 ドレイン(吸気の黒鞭)

 マシルド(土守りの杖)

 コウォル(氷壁の杖)

 シャドウ(ブリン・イノリ・キーリ)

 スラッシュ(裁断の閃剣)

 アイテム(金櫃の指輪)

 グラビラ(斥杖ナーガ)

*隷属者

 アヤメ

 マーチャン

 イチ

 サン

 ニィ


「うん大丈夫。でももしかしてマーチャンにはそもそも身体がないのか?」

「ぎ―!」


 マーチャンは龍のコケラという力の塊だと言われた。

 ブリンがキーリに乗って走り回る。そこまで探してもいないのだ。


「でもそうすると俺はどうやってマーチャンを探せば……」

「ぎー!」

「どうしたんだブリン。おわキーリも」


 ブリンが俺に頭をぐりぐりしてじゃれついてくる。

 キーリが俺に鼻を近づけてすり寄ってきた。


「なんだいきなり、俺こんなことしている場合じゃないんだけどなぁ」 

「ユイくんは気づかないの? 私たちはあなたの呼びかけに答えたのよ」

「え、あ……」

 

 皆が俺を見ていた。

 マーチャンを探してほしいという俺の願いに、応えたのにだ。


「もしかして、マーチャンの場所最初から分かってた?」

「あなたがわかったのならそれでいいのよ。私たちはね、いつだってあなたの事を助けてあげられるけど、それはあなたが決めなきゃいけないの。私たちは生きてないの」

「いや、うん。ありがとう」


 俺がお礼を言うと、いつの間にかまたこの世界が真っ暗になった。

 この不思議な空間だからもらえたボーナスみたいなものだったのだ。

 消えてしまいそうな俺を最後の最期で持ち上げてくれた。


「死んでしまったかもしれないけれど、俺はまた会えたみたいでうれしかったよ」


 生命石に魂は残らない。生きていない。

 俺自身が何とかするためのサポートをしてくれるのが、シャドウなんだ。

 さて――


「マーチャン」


 俺は何も見えなくなった。感じなくなって、聞こえなくなる。

 だけど声を発して、届くのだと信じた。


「俺の旅にずっとマーチャンはいたんだ。異世界に連れてこられて、目を覚ましても俺は一人じゃなかった。マーチャンがいたからなんだよ。知らない場所に連れてこられたのに、不安でしょうがなくなっても、一人じゃなかったから俺はここまでこれたんだ」


 一緒に見た最初の星空を思い出す。

 かつての地球で寝ていた時に、あの穏やかな気持ちはなかった。

 ドラゴンになって空を飛びたい。

 そんな願いから少年から預かった小さな友達。

 願いは叶ったかもしれないけれど。


「俺たちの旅は別に世界のためとかじゃないし、誰かに褒められるような立派な物でもなんでもなかった。ただ一緒に知らない場所を見て、目標もなく冒険をしていると、たまらなく楽しくて……」


 俺は目を瞑る。

 眠るためじゃなく、応えを知るために。


「蛇とか食べて、変なもの買ってアヤメに呆れられたり、やかましいイチや、押しの強いニィに振り回されたり。サンが勝手に本を買っちゃうんだ。マーチャンはどうだったのかわからないけれど」


 暖かい。

 俺は頭の上に手を伸ばす。

 いつだってマーチャンはそこにいて、生きていた。


「俺はこのまま異世界で生きてみたいと思っているんだ」


 俺の手は、命を持った意志に触れる。


マーチャン ♂ 0歳 ユイに隷属

 Lv31

*能力

 危険探知

 索敵

 飛行

 障壁展開

 心眼

 祝福

*スキル

 エボルト

 ユニオン


「行こう、ユニオン!」


 俺は明日を迎えるための言葉を唱えた。


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