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第百十二話「参考書籍、著、ババフライ」


 俺とローグは龍の角内部を高速のまま落ちていた。

 クロキリンによって反転した重力をそのまま、グラビラを下へ。

 黒い重力が逃がさないために俺ごと落ちていった。


「うぉおおおおおおおおっ!」

「エボルト! グラビラぁ!」

「マー!」


 俺はグラビラを解かない。むしろより強く。

 マーチャンの障壁を展開して障害物になる木々をなぎ倒す。

 その後にローグが落ちてきて、何の障害物もなく加速する。


「こ、けらぁあああああっ!」


 ローグは両手をバタつかせるが、それ以外に何もできない。

 メタルゴブリンの重量と速度で落ちる体を止める魔法があってたまるか。

 しかもアヤメが直前に手に持っていた杖を打ち抜き済みだ。

 

「うちの奴隷はほんと頭がいい」

「マァアアアアアッ!」


 マーチャンが軌道を逸らそうと体を捻る。

 アヤメは俺が杖について話をした時点で杖を狙えと察してくれた。

 ローグの身体に傷が付けられないから見落としがちだが、杖は杖だ。


「モンスターは自分の体一つで戦うイメージだから、その辺忘れるんだよな」

「マァアアーアッ!」


 マーチャンが俺のグラビラ重力圏から逃れる。

 ローグはそのまま有効範囲外までグラビラをかけ続け。

 瞬きもする前から見えなくなっていった。


「ありがとマーチャン」

「マー……」


 マーチャンの進化した翼が明らかに疲れてヘロヘロにはばたく。

 それでも上昇を続けてくれる辺り働き者である。


「ご主人様!」


 アヤメが足を地面につけてたり落ちたりしながら近寄ってくる。

 俺は飛んでくるアヤメを受け止めてマーチャンの上で合流した。


「ローグは落ちましたか」

「ああ、死んだかどうかは分からないけどな。すごい速度で落ちていったし戻ってくることはそうないと思う。音の壁も超えてた……し」

「ご主人様!」

「頭がキンキンする」


 耳鳴りが止まらない。

 マーチャンの障壁があったとはいえ音速を回した反動かも。

 

「いやでも運が良かったというか、あいつも全力を出せなかったからな。もう一個の杖も使わずじまいだった」

「ご主人様が杖の解説なんてして、私じゃなきゃ合わせられませんよ」

「助かったよ。破壊してくれて」


 俺は身体がふらついてそのまま尻もちをつく。


「出せる手は全部出した。マーチャンのエボルトも使っちまったしアヤメの赤い稲妻もほぼ充電切れだ。俺は魔力を使いすぎ……」

「赤い稲妻は充電していますが一瞬放てる分残っているかどうかですね」

「グラビラもここまで全力で出したこともないし、自分で浴びたのも初めてだ」


 黒い雨を浴びているような感触だった。

 自分にかかるたびにピリピリと体を蝕んで、プレッシャーといえばいいか。


「あそこまで可視化できるんだな」

「私も若干ですが黒くなっているのが見て取れました」


 重力ってそういえば光も吸収できるんだっけか。

 アヤメは俺を介抱しつつ、上を見ていた。


「どうする?」

「私がお兄様に会うわけにはいきません」

「だよなぁ」


 クロキリンが反転を使ったという事はあちらも激戦が予想される。

 暗雲立ち込めると言うが本当に見えるからな。

 マーチャンが翼を広げて、空を見上げると――


「龍のコケラとは。第三の龍マムートが人に与えた力の結晶体である」


 突然、声がかかった。

 それは予期もせぬ声の主で、反転した木の上に座っている。


「マムートは肉体をエネルギーそのものに変換しリヴァイアスの大地に溶け込んだ際に、シズの作り出した人の心に作用して知性を生み出した事で感情を作り上げ、モンスターにもそれを分け与えた」

「キャン……」


 アヤメがキャンに声をかける。

 キャンはまるで子供に御伽噺を利かせるように言葉をつづけた。


「コケラはその力の純度をより高め一か所に集めることで知性そのものが産まれる現象である。しいては人間の生命石を数億単位で集め分離機にかけることで人口のコケラを製造することに成功する」


 キャンの穏やかで人懐っこい笑顔が輝く。

 俺は疑問が尽きなかった。

 何を話しているのかとか。

 何故マーチャンの索敵に探知されなかったのだとか。


「コケラは人の知性感情そのものであり、故に全ての個体に索敵、探知能力が備わっていると思われる。純粋な力そのものだった龍が、人の命を経てどう変わったのか、もう一度マムートという個体に戻した時に、どう変わったのかわかるものがいれば人の産まれた意味がわかるのだろうか」


 キャンは両手を合わせて首をかしげて、こちらを見た。


「以上、コケラに関する知識でした。参考書籍、著、ババフライ」

「キャン、なんのつもりですか?」

「お姉ちゃんは察しがついてるんじゃないかな。とりあえずローグを倒したご褒美という事で、知りたいって気持ちは誰にでも平等かなって」

「ババフライが本を出してるなんてな」


 流石の俺もこの状況で察しは付いた。

 アヤメも立ち上がり、持っていた弓を構える。

 キャンは顎に指を当てて、まだ構えない。


「んーババフライさんの書いた本は私くらいしか読んでないんだ。もったいないよねー」

「あなたは誰です」

「わたしはわたしだよ」


 キャンの微笑みは整いすぎて、底が見えない。


「真チュート教の新老師、半年前のできたてほやほやのキャンです!」


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