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第百十話「今のアヤメは俺でも近寄りがたくてね」


「本当に運がないな。呪いか?」


 ローグは肩を鳴らして愚痴る。

 俺もなんとなくだが把握してきた。


「ローグは傷を従属者に肩代わりできるんだ」

「それだけではありません。消えたゴブリンは足が速かった」


 ローグの姿を見ると、足が逆関節に曲がった不思議な姿をしている。

 最初の突撃で倒した足の長いゴブリンに特徴が似ていた。

 そんなことを考えていられるのも一瞬で、また一斉攻撃が来る。


「来ます!」

「シャドウ! アヤメあれに使ってくれ!」

「はいっ!」

 

 俺はブリンをキーリにチェンジして稲光にまみれる。


「グラビラ!」


 怯んだゴブリンを重力の波で追い払う。

 ローグは器用に避けて俺に肉薄した。


「ドレイン!」

「……っ! ファイスパル!」

「グラビラ!」


 ブリンがいないため手数が減り攻勢に移れない。

 俺は何とか右手の鞭でスキル妨害を、グラビラで守りを固める。

 アヤメは、キーリと共に雷魔法を放ち続けた。

 互いに帯電を持つからこそできる相乗的な感電が変化をもたらす。


「マラク!」


 アヤメが刀身にあえて手を乗せて放電させる。

 彼女の長髪が電気を帯びてふわりと広がり、バチバチと音を立てる。

 全身が熱を帯びて、全身のラインが赤く染まった。


「熱い私に触れてください……」


 アヤメが剣を手放す。

 足裏が稲光を放つと同時に飛び出した。

 大型ゴブリンの一体が前に出て守りに入る。


「ありがとうございます。熱くて微熱くて……」


 アヤメは武器を捨てて、その手でゴブリンを撫でた。

 指先からゴブリンへ、彼女の赤が伝染する。

 ガードした武器から体の表面に入れ墨のように伝わって、爆ぜた。


「あなたも……」

「避けろ!」


 ローグは気づいたみたいだ。

 アヤメの全身赤くなる雷は、そのまま敵の身体に伝わって爆発する。

 感電の伝導率と電熱の爆発が合わさった赤い稲妻の切り札だ。


「ドレイン!」

「っ!」

「今のアヤメは俺でも近寄りがたくてね」


 俺は司令塔であるローグに集中する。

 アヤメは全身爆弾女というわけだ。

 もちろんモンスターによっては効かないし防ぐこともできる。


「あと四人……三人……」


 ただ触れるだけで爆弾に変えるという殲滅能力は心強い。

 コストにマラクの保存電力をほぼ消費するデメリットがあるが。

 アヤメ自身も熱いのか頬が赤く目が据わり、酔ったようにふらつく。


「ドレイン! あんたも大概運がないな」


 俺はローグの足止めを続けた。

 アヤメはその熱を誰かに与えたくて、モンスターに近づいていく。


 考えてみれば、ローグの能力はとんでもないものだ。

 味方の数だけ生き返ることができるから最初に前に出て敵を見れる。

 把握したうえで有効な手段を探れる。

 大量のゴブリンがいるだけでローグは無敵と言っていい。


「仕方ないさ」


 ローグは自嘲気味に笑って、まだ何かを秘めている。

 奴はヒハナのオリジナルスキルで手札をほぼ消費された。

 最初に飛行能力を持っていたのはヒハナ対策で、空振りした。


「コウォル!」


 俺は眉をひそめた。

 ローグはそれだけの不利不運を背負ってなお撤退はしない。

 ならばまだ何かある。

 手札を切らされたのは俺たちかもしれない。


「シャドウ!」


 俺はブリンを再度呼び出して剣と杖を一つ握らせる。

 まだこちらにもマーチャンという切り札がある。

 ならばこの勝負は切り札をどう使いきるかが勝負だ。


「コウォル! ドレイン!」


 ローグは素早く動いて杖を振りかざす。

 俺はドレインを合間合間に挟まなければならなくなる。

 ブリンは剣術でローグを狙うが決め手にはならない。

 だが敵の数は確実に減っている。


「あの赤くなる彼女は、いつまで続けられる?」

「うちの奴隷をあんま見ないでいただけるか!」

「あと数秒か? それとも感電させる人数に制限があるのか?」


 ローグは素早いその肉体を手放さない。

 いやあえて時間稼ぎのできる肉体を選んだのかもしれない。

 自信の手札を残すことよりも、相手の動きを阻害する動き。


「あとひとり……」


 アヤメに触れられたゴブリンは爆発する。

 爆発に巻き込まれたゴブリンは虫の息だ。

 だが確実に殺さないと命のストックにされる。

 電熱は確実に減っていった。


「っち!」


 本来ならもっと長い間赤くなれる大量殲滅能力なのだが。

 昨日空から振ってくるモンスターに赤い雷を消耗してしまった。


「アヤメ!」


 俺は落ちていた宝剣マラクをアヤメの傍に投げる。

 アヤメがそれを握ると、赤い稲光が剣に吸い込まれて熱が収まる。

 残ったいたのは奴隷の子供が一人だ。

 子供の奴隷は何を思ったのか俺たちに背を向けて逃げ出した。


「ボルト!」

「キメラ!」


 アヤメが雷の矢でその背中を貫く。

 ローグがさっそく最後の手を切った。

 死にかけた子供を……違う!


「まー! まー!」

「最後のさいごでもう一個ストックしてたわけか」


 マーチャンの索敵範囲外に、戦闘に参加できない場所にいた保険だ。

 キメラという能力の範囲は分からないが、索敵内が効果範囲になる。


「いや、こいつはそもそも作戦行動に向いているタイプのゴブリンじゃない」

「オウゴブリンと思えば空を飛ぶゴブリンに足の速いゴブリン、奴隷は人間みたいだが奴隷は全員ゴブリンみたいだな」

「無条件に隷属できるのがゴブリンなだけだ。そしてこんな利点もある」


 ローグは今までの中で一番小さい、普通のゴブリンのサイズをしていた。


「君たちの手札を消耗しきれたわけではないが仕方あるまい。その鞭は厄介だが、まあ何とかなるだろう」


 ローグの普通の身体が、黒光りして艶を出す。

 まるで鉄のようで、さながらメタルゴブリンといえばいいか。


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