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第百九話「群生とあだ名されたが悲しいかな」


 ローグの奴隷を二人飛ばした所で、対策を撃たれる。

 潜伏に意味がないことを悟り、一か所に集まられた。


「ゴブリンたちが集結してるな。どうするか」

「矢を打つことはできますが、位置を気づかれます」

「まー」


 マーチャンの索敵範囲内に他の伏兵はいないと出ている。

 もちろん絶対ではないが、いないという線で話を進めた。


「これ以上は各個撃破も難しい感じか。そうなるとローグの他に奴隷の子供が二人と、ゴブリンの群れが数匹ほど。種類までは分からない」

「見えてないですが空を飛ぶ個体が最低一体いるはずです。ヒハナ姉さんの時に使っていましたから」

「たぶんあそこに生き残ったのは戦線にいなかったか、飛行能力を持っている奴らだろうな」


 全員が弱いという期待はしていない。

 だが少なすぎる。


「ヒハナさんのせいで数が減ったとはいえ、あれじゃあ心許なさすぎないか」

「私も疑問に思います。仮に疲弊していたとしても、相手がウキョウとキナワの同盟ですからね」


 向こうの空から落雷の轟音が鳴り響く。

 メドゥたちによるクロキリンとの戦いが始まったのだ。

 俺もアヤメも息をひそめていたためビクリと肩を震わせる。


「あの中で狙撃できてかつ倒せそうな奴を選ぶか」

「二射目は難しいかと、気づかれ接近されます」


 俺の中だと人間二人のうちどちらかが候補として濃厚だ。

 ローグは中心にいるため妨害されて失敗する可能性が高い。

 だが空を飛ぶモンスターもいるのならかなり危険な気がする。


「アヤメはあの中で空を飛ぶ奴が誰か覚えてないか? 俺は全部を見てもそいつがいるとは思えないんだ」

「私もわかりません」


 どういうことだ、やはり伏兵が残っているのだろうか。

 考えれば考えるほど選択肢が広がってしまう。

 焦ってはいけないが、時間はあちらを有利にする。


「アヤメ、右……黒い髪の人間を狙ってくれ。何か意見はあるか?」

「いいえ、おそらく誰を選んでも未練は残るかと。審美眼で見ても、その黒い子に価値が一番あります」

「わかった。頼む」


 アヤメが矢を引き絞る。

 俺はすぐ戦闘に入れるよう武器を最終確認した。


「シュート!」


 黒い子の頭が吹き飛ぶ。

 ローグが望遠鏡越しのアヤメと目が合った。


「来ます!」

「アヤメは下がれ! 俺が前に出ている間もう一度だけ狙えればいけ!」

「まー! まー!」


 俺は鞭のテールを落として戦闘態勢に入る。

 

「シャドウ!」


 選んだのはブリンだ。対応力が一番ある。

 俺はブリンにコウォルと剣を持たせて走らせた。


「ギ―!」

「コウォル! スラッシュ!」


 敵のゴブリンは八体。

 一番乗りしてきた青いゴブリンは足が長くコウォルを軽く飛んだ。

 ブリンがそこにスラッシュを放つも、身体を捻って避けられる。

 アヤメはその瞬間に雷の矢を放って青いゴブリンを黒炭に変えた。

 コウォルの横から、二匹の赤いゴブリンが左右連携を取ってブリンへ。


「グラビラ!」

 

 俺はできるだけ広い範囲で敵の進軍を押しつぶす。

 足止めにしかならないが、それでいい。

 アヤメの二射目が赤いゴブリンの額を貫く。

 そこでローグたちの部隊が突撃をやめて距離を取った。


「またお前らか」


 ローグはコウォルを背にして俺と対面する。

 あえて他のゴブリン六匹と奴隷一人はローグの後ろで待機していた。

 俺たちを逃がさなかったことで、二匹の犠牲を払ったのだ。


「……あの花を使う女はどうした?」

「さてな、どっかにいるんじゃないのか?」


 マーチャンの危機察知では伏兵は近くにいないが、油断はしない。

 それこそ距離外からの矢や魔法だってあり得るのだ。

 ローグは落ち着きはらってため息を吐く。

 攻撃はまだしてこない。


「別に文句を言うつもりがあるわけじゃない。あの女は……憧れた」

「んぁ?」

 

 あの女とはおそらくヒハナだろう。

 ローグはなぜか悦に浸るよう空を仰ぐ。


「しょせん我々は力が足りないから協力をする。群生とあだ名されたが悲しいかな、たった一人の個が圧倒する姿こそあこがれる」


 ローグは胸に手を当てて祈る。

 俺は眉をひそめた。油断を狙っているのだろうか。


「己の小ささを思い知らされる度に強くなれる。わずらわしい仲間との調和も、その手で足を掴もうとする行為だ」

「何を言ってるんだ」

「これは祈りだ。このどうしようもない不利な状況でも、それに届く」


 ローグは言い終えてから、羽をはやした。


「なっ!」


 俺の頭上を飛んで背後に向かう。

 もちろん俺が気を逸らした瞬間に残り六体の敵が突撃をかけた。


「グラビラ!」

「ボルト!」


 俺は前方の敵に集中する。

 アヤメはあえて前に出て俺に近づいてきた。

 囲まれる形になったが仕方あるまい。


「あいつ飛べたのかよ!」

「いえ、元からできるのでしたらっ! あの時っ!」

「グラビラ!」


 俺とアヤメで背中を入れ替える。

 グラビラは空を飛んでいる奴にはよく効く。

 ローグは背中の羽をよろめかせて攻撃を中断した。


「ファイスパル!」

「マシルド!」


 ローグは貫通力のある火の魔法を放ってきた。

 俺は螺旋状に動くそれは遅くブリンが囮となって避ける。

 アヤメは飛び出して宝剣を振って牽制し続けた。


「ご主人様!」

「コウォル! グラビラ!」


 俺はコウォルで壁をさらに作る。

 どうやら六体のうち一体か二体に遠距離攻撃できる奴がいる。

 ブリンの行動は早かった。


「スラッシュ!」


 俺の言葉と共にブリンの剣が縦一文字に振われる。

 それはローグの身体にかかり、真っ二つに切られた。

 意外なヒットに驚く。


「なっ!」


 あっさりとやられた。

 ローグの身体は幻影でもなんでもなく血しぶきをあげている。

 だが、笑っていた。


「キメラ」

「マシルド!」


 俺は油断しなかったつもりだ。

 ローグのスキルが放たれた瞬間に彼の姿が消えた。

 いや早すぎる行動速度に見失ったのだ。


「まー!」

「ファイ――」

「ドレイン!」


 俺はマーチャンの言葉を頼りに黒鞭を振ってスキルを破棄させる。

 ローグはその攻撃を受けてすぐはっとなり距離を取った。


「いかんな、このままやればいいというのは悪手か」


 何が起きた。

 ローグの身体は一瞬で回復し、高速移動まで身につけた。

 あいつは俺のドレインを避けもしなかった。

 もしかしたら攻撃されてもほぼ効かないのか?

 なら偶然ドレインが攻撃を止める有効手段だったのか?

 マーチャンが探知できなきゃ見ることもできなかった。

 色々な要因で、俺は死の速攻を免れた。

 

「なのに……」


 疑問は尽きない。

 最初出会ったときはあんな巧みに避けていたのにその精細さがない。

 あべこべな敵の能力に説明が付かなかった。


「ご主人様」

「どうした」

「敵が一体消えました」


 キメラという言葉に、俺は思い至る。

 ローグの身体は足が長く逆関節に変わっていた。


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