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第百八話「さてさて、狩りの時間だ」


 翌朝は人のいなくなった宝珠のあるエリアで目を覚ます。

 長くなりそうな一日の始まりだ。

 テントの外から朝日が昇り、俺が起き上がる。


「アヤメ、アヤメ朝だよ」

「んん……っ、ごしゅじ……」


 アヤメは寝袋の奥に潜ってしまう。

 俺は先に俺の上着内にいるマーチャンを引きずり出す。


「マーチャンおはよう」

「まぁー」


 俺は一人で寝袋から這いずり、テントの外で背伸びをする。

 焚火跡はまだどのものも新しく、人がいたことを匂わせた。


「メドゥたちはもう向かっちゃったよなぁ」


 ウキョウの人と合流するわけにもいかないので、俺たちは置いてきぼり。

 アヤメが遅れてのそのそとテントから産まれてきた。


「俺たちはローグを何とかしなきゃな」

「んっ……」


 昨日でメドゥとの話もついて、俺たちは戦うことを了承した。

 ローグを足止めするか倒す。


「たぶん今はローグが一番弱い状態だ。ヒハナさんのおかげで大量のモンスターはほとんど埋まっちゃったからな」


 俺は昨晩の考えをもう一度まとめながら、朝の準備をまとめる。

 アヤメも今は緩み切っているが、メリハリの意味では今しかないのだろう。

 

「おはようございますご主人様」

「ん、メドゥは先に行っちゃったぞ」

「お兄様と会うわけにもいきませんので、あちらも昨日の重力変化の被害でピリピリしているかと」

「まー」


 朝ご飯の時間をたっぷりとってから、出発する。


「メドゥは挨拶もなしに出かけちゃったけど、目的地は大丈夫そうだな」

「あとは挟み撃ちにするだけですね」

「そう。俺たちはメドゥを尾行できる距離ではなくメドゥの進路を追う形でクロキリンの住処へ向かう。もしメドゥが目的地を変えているようならこの魔石で連絡が来るようになってる」

『問題なし、ウキョウとの合流、戦闘には至っていない』


 俺は手に持った箱の魔道具を定期的に作動して報告を受ける。


「ローグはメドゥたちを監視できる状況を保ちつつ距離を取っているはずだ。だからこのままメドゥの軌跡を辿って、挟み撃ちにする形でローグを見つける」

「マーチャンで先に私たちが見つけて、奇襲を行うのですね」

「そうだ」


 マーチャンの索敵能力は範囲だけなら負けたことはない。

 俺たちは図らずとも適任というわけだ。


「ローグか、またはそれに通じていそうなゴブリンやらのモンスターを索敵しつつ排除を続ける」

「戦闘はしつつも、目的は現相手の戦力の確認と時間稼ぎです」

「あいつは今がかなり弱っている状態でも、真チュート教の老師なんて俺たちで何とかなるような奴じゃないだろうからな」


 ローグは軍勢を操るゴブリンという情報は正解だろう。

 指名手配されていることもあって情報はそれなりに割れている。

 数にものを言わせ、策を凝らして敵の裏をかくらしいが。


「一応俺たちにはいざというときに逃げられるマーチャンがいる。クロキリンがどこかのタイミングでまた龍の角を反転させたら、それに乗じてローグを落とすか引き離す」

「まー!」

「軍勢がいない今なら前みたいに押されてそのまま見たいな状況にならないとは思いたい」


 これでまだいっぱいゴブリンが残っていましたとなったら話が破綻する。

 あの状況で温存するにしても遠くに置くことはないだろうという見解だ。

 遠くに居なきゃ、ヒハナのオリジナルスキルに吞まれただろうからな。


「行くか」


 俺たちは宝珠を背にして龍の角を登り始める。

 龍の角内部は巡礼者も多いため迷わないよう印がいくつかついている。

 それは要石の形をしていて、文字でその先に何があるか書いてあった。

 特にキリン種との遭遇を避けるため、縄張り近くに目印が多数あるのだ。

 

「一人で歩いてもここは避けろって感じだな……」

「まー……」

「アイテム」


 俺は指輪に収納されていた望遠鏡を取り出す。

 単眼鏡タイプで、目に当てて見れるようになっている。


「さてさて、狩りの時間だ」

「まー」


 マーチャンの索敵能力が今いる周りの敵を探り当てる。

 危機察知は敵かどうかを判別させる能力もあり、索敵で位置を特定。


「まー」

「モンスターか別のかはわからないが、向こうにいるみたいだな」


 早速何かを見つけた。


「ローグは有利ではあるが、有利だからこそその選択に縛られているか」

「メドゥですか、それを言ったのは」


 森の隙間を縫って見えたのは、知らない人間の後ろ姿だった。

 マーチャンは敵意を感じ続けている。

 それは誰かに向けた殺意だろうか。


「仮にウキョウの兵がローグを追っていたとしても、こればっかりは運だ」

「周りにゴブリンの護衛がいます。あれはローグの奴隷の人間かと」

「まぁ、奴隷にできるなら人間を使うのは当然だよな」


 アヤメが弓を取り出して、既に引き絞っている。


「ご主人様」

「これでいいか?」

「もう少し下へ……」


 俺はアヤメの身体に手を回して固定し、単眼鏡を右目に当てる。

 アヤメは顔を少しづつ動かして敵の人間を捉えると、指に力を込めた。


「シュート」


 アヤメの静かなスキル詠唱と共に、目標へと矢が飛んでいく。

 俺は素早く立ち上がってアヤメと一緒に場所を移動した。


「当たったか?」

「確認する前に移動いたしました」


 俺たちは相手に居場所を気取られないよう大きく円を描いで歩く。

 

「まーぁ……」


 マーチャンの報告は敵が減ったことを教えてくれた。

 俺は一度望遠鏡で確認する。

 その向こうには、肩から胸を抉られて倒れた人間がいた。


「ひとりめ」


 狙撃成功だ。

 俺たちはなりふり構う気はなかった。

 マーチャンの索敵能力とアヤメの弓、それを強化できる隷属能力。

 この二つはそもそも逃げるためでも守りのためでもない。

 狙撃と暗殺特化の能力なのだ。


「実際に使ってみると、絶対相手にしたくない」

「でもこれが、もっとも有効な攻撃方法ですよ」

「本当に二人には頭が上がらないよ。残酷だけどこっちは安全なまま相手を削れる」


 見えない場所からの狙撃が繰り返される。

 標的はそれを防げないまわりの奴から。

 敵にとってそれがどれだけの恐怖なのか俺は知りたくない。


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