第百二話「モンスターは信用しちゃダメ」
クロキリンが目を瞑ると、他のキリン種が動き出す。
「きみたちふたりは乗せられないよ」
「シャドウ!」
俺はシャドウのスキルでキーリを呼び出す。
アヤメが飛び乗って俺も後ろに乗せてくれる。
ヒハナはクロキリンに用意してもらったキリンの一体に乗った。
「シャドウは体力使うんだけど」
「かれらはけがれなき者をこのむよ」
「なら仕方ありませんね。キーリ!」
ヒハナの乗ったキリンがいの一番に走り出す。
キーリはそれの背中にピッタリと離さずついていく。
「なつかしいなぁ。君もここにいたはずなのにねぇ」
クロキリンのキーリを見送る目を流しつつ、森の中をかけた。
「ユイくん。念を押しておくけどモンスターは信用しちゃダメ」
「どうしたんですか?」
「こうやって乗せてもらっているのには相手にも利益があるからだと思うの。協力してもらうと勘違いしちゃダメよ」
「ご主人様、クロキリンは最終的にどうなってほしいか何も言いませんでした」
「油断しちゃいけないのは分かった」
キリン種たちは森の中をまっすぐに進む。
段々と人の喧騒に近づいているのがよくわかる。
「じゃあなんで俺たちに情報を与えて話をしてくれたんだ?」
「そこは言葉通りだと思うけど」
「ギァアアッ―!」
足元で、悲鳴が聞こえた。
キリン種の馬力で吹き飛ばされたゴブリンがいたのだ。
「ゴブリンって、龍の角で出るようなモンスターじゃないんだよな」
「ギガッ!」
キリン種の蹂躙にはねられるゴブリンが何体もいた。
多い、色も赤とか青もいて俺が魔奥の森で乱獲した時だってこんな数いなかった。
それが目的の喧騒に近づくたびに密度が濃くなる。
「決まりですね。敵はモンスターを操れるタイプの人間です」
「あら」
あまりの密度にキリン種ですら速度を落としてしまう。
オウゴブリンが三体も目の前に立ちふさがったのだから仕方ない。
「コウォル! オウゴブリンは速度が遅いから避けられる!」
キーリだけは速度を落とすことなく、俺の用意したコウォルに乗る。
「グラビラ!」
コウォルによって作られたジャンプ台で飛び上がる。
ゴブリンたちの群れを眼下に飛び越え、開けた場所に着いた。
「メドゥ!」
「ユイくんか!」
「蛇野郎!」
「蛇野郎来てくれたのか!」
メドゥに護衛の探索者も揃って、戦闘中だ。
俺とアヤメはその中心に飛んでこれたわけだ。
「状況は!」
「ゴブリンの群れに襲われてる。ギリたちの盟主兵は先に逃がして私たちは囮の最中」
「こっちは何体かのキリンを連れてきた。合流して共闘する!」
「できるの?」
俺たちメドゥの部隊は例の聖器を持っていない。
襲わない保証はないが、乱戦にはならないと楽観している。
「これが終わったらキナワがもってきたブツを教えてもらうからな!」
「黙っててごめんね」
「シャドウ!」
周りを見て怪我人はいない。
俺はブリンを選択して剣を持たせる。
「スラッシュ!」
ブリンの影は滑らかにゴブリンの隙間を潜り抜けて切り伏せていく。
俺は黒鞭で薙ぎ払いながらブリンについていく。
アヤメは剣を取らずに、弓を握った。
「ご主人様」
「まだだ」
ゴブリンはメドゥたちを囲んでいた。
だがキナワの護衛隊はゴブリンで倒せるほどやわじゃない。
明らかに前線を押し出せば、対策してくるはず。
「レウスさん、任せてもいいですか」
「赤い稲妻がそちらにいた方が良いでしょう。お任せください」
護衛のリーダー格であるレウスが前に出る。
オウゴブリンが二体ほどこちらに近づいてきていた。
「押し上げる!」
「スラッシュ!」
俺はブリンを敵のど真ん中で暴れさせる。
乱戦でのブリンは小回りも効いて消耗の心配もないのが強い。
敵陣をかき回しながら、レウスやアルスが活路を広げていく。
「スマッシュ!」
ブリンがどんどんと敵陣に深入りをして、ふいに途切れた。
「まー!」
「アヤメ!」
「ボルト!」
アヤメが右手から雷の矢を作り、弓をひく。
マーチャンの視線の先に、俺でもわかる動きがあった。
雷の矢は威力こそほどほどだが、辺り一帯に稲光を走らせる。
「マシルド!」
俺じゃない。
別の誰かが、森に隠れたままスキルを唱えたのだ。
「シャドウ!」
俺ははっきりと見た人影を追う意思をそのままにブリンを呼ぶ。
ブリンは防御を顧みずそいつに向かって走り掴みかかっていった。
「司令塔がいた! 俺たちが深追いします!」
俺とアヤメはブリンの消えた方向へ走り出す。
周りにいたゴブリンはレウスたちに任せれば何とか走れる。
ブリンが落とした剣をついでに拾いつつ、敵の本体を追った。
「移動能力はそこまででもなさそうだが、なかなかに早い。キーリを……」
「ご主人様、もういます」
思っていたより早く追いついた。
敵が待ち構えていたと言ってもいい。
ぼろぼろのフードを目深にかぶっていて、背は低い方か。
「ふむ、あちらがしくじったのか。やはり若いな。なに、それを拭うのもこちらの仕事だろう」
「あんたは誰だ」
「知らないのか、こちらは知っているぞ。ユイ、アヤメ、コケラ」
敵がフードを開けると、深緑の肌と長い鼻が出てきた。
俺はその姿に思わず呟いてしまう。
「ゴブリン?」
「ローグだ」
喋るゴブリンはローグと名乗った。
俺は言葉の端々にある違和感で思わず考え込んでしまう。
アヤメは違った。
「ご主人様、あれはゴブリンローグです!」
「アヤメ?」
「ローグ。群生のローグ。過去いくつもの街を蹂躙しモンスターの勢力を広げたたったひとりのモンスター軍隊長。真チュート教四老師の一人です」
「なんだ知らないのか。こちらがマイナーなのか、そちらが無知なのか」
アヤメが俺の手を引いて前に立つ。
ローグは猫背のままこちらを品定めするよう不気味に瞳を揺らした。
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