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窓掛越し「秋は夕暮れ」の如く
夕陽のような朱色の(朝日)光が射し込む
吹き戻しのような鳶の鳴声に瞼を開ければ
翡翠色の眼と目が搗ち合う也、「獣」姿の白狐が挨拶する
「おはよう」
「おはよう」と返せば
自身 (すずめ)の身体を包み込む尻尾が一斉に解けていく
名残惜しさに
(慌てて)一本、取っ捕まえて胸に抱えて「あったかい」と頬擦りする
此(白狐)の尻尾の御蔭で?布団入らずの生活だ
何しろ二人共、無職だ
節約は出来る限りした方がいい、と思うすずめの傍らで
(頬擦りされる)状況に飽きてきた白狐が
ぶんぶん!尻尾を振り始めて来たので「御免」と、言って手放す
然うして
窓掛を開く序でに
掃き出し窓を開けて露台へと足を踏み出す
欠伸と同時に
自身 (すずめ)の(両)腕を上げて思い切り伸びをする
「朝だ」
当たり前だが
当たり前ではない「朝」だ
愛犬 (しゃこ)が(自室)扉前で出迎える「朝」だ
根明の母親が御飯茶碗片手に鼻歌を歌う「朝」だ
根暗の父親が目を通す新聞紙を掲げて挨拶(代わりに)する「朝」だ
木漏れ日の下
通勤、通学する人達が行き交う
河川沿いの遊歩道を(学校へと)歩いて登校する
制服姿の学生達で是又、行き交う
廊下を足早に歩いて教室の引き戸を引け開ければ
周囲の喧騒を余所に射し込む日溜まりの中、読書に耽る彼に会える
其(彼)の向かいで朝練を終えた(らしい)
ちどりが前髪なしのポニーテールを揺らして自分 (すずめ)に手を振る「朝」だ
心 做し
鼻を啜りながら近くの海を眺める
歩くしかない
歩けるだけ
歩けるだけ歩いたら(又)、会えるかも知れない
其れでも
歩けなくなる迄
歩けなくなる迄、歩いたら
「屹度、其処で会える」
自分 (すずめ)自身に言い聞かせる
すずめの耳に防火壁越し
露台の(掃き出し)窓の開閉する音が飛び込む
「おはようございます」
的切、はつねと思い挨拶すれば
返って来た挨拶の主は(煙草)一服する、くろじだった
「おはよ」
「早起きだね?」
「若しかして早起き得意?」
故の早寝、か
と、独言るくろじを余所に
相手がくろじで慌てるし
相手が会話を振って来たので慌てるし
で、あたふたする
すずめは兎に角、問われた事に答える
「は、はい」
「早起きは(得意ではないが)します」
等と小小、頓珍漢な
すずめの答を気にする風もなく
「其奴はいい事だ」
「、はい」
「「早起きは三文(百円程度)の得」だからな」
「、はい」
「三文(百円程度)を笑うなよ?」
「、はい?」
「何れ、其の三文(百円程度)で泣く羽目になるからな」
と、早朝の露台で
近所迷惑にも呵呵笑うくろじが「ちょっといい?」と訊く也
すずめも返事も待たず防火壁越し、ひょっこり顔を覗かせる
途端、満面の笑みを浮かべて打診する
「(俺の店で)アルバイトしませんか?」
くろじの唐突な提案に目を丸くしながらも
「アルバイト」と言う言葉を反芻する、すずめの背後
「っよ」
突如、挨拶する
くろじの様子に振り返えれば
人形に姿を変えた白狐が無表情で佇んでいた
然も(何故か)全裸で(?!)
(頭の)天辺から(足の)爪先 迄見ずとも
胸元 迄、見たすずめが「みや狐!、服!服!」と、大慌てで部屋に引き返すが
服?!
みや狐の服って、あった?!
咄嗟に自身 (すずめ)の、上着を洋服掛から取るも
抑、白狐は自身の毛皮で姿、形 等、如何様にもなれる
其(毛皮)の事実に至る
上着を手に(部屋の片隅で)固まるすずめは「如何言う事?」と首を傾げる
一方、(防火壁越しとはいえ)全裸で尚も無表情の白狐と二人切りにされた
くろじは取り敢えず、相手(白狐)の一物を何気なく確認した後
(ヒュー!と)口笛を吹いて眴を嚼ます
然して一言
「風邪、引くぞ?」
男性諸君!
此れぞ
大人の、男性の余裕だぞ(はい?)