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4

何だろ

暫くこんな感じです

()()う落ち着いたのか


薄焼き卵を巻く昔ながらのオムライスを(ぼお)()るすずめを眺めて

稲荷寿司を食らう白狐が不図(ふと)長角皿(ちょうかくざら)の端に乗っかってる

新生姜の甘酢漬けに気が付いて(たず)ねる


「何だ()れは?」


「え?、「ガリ」?」

「え?、今迄(いままで)、付いてなかった?」


聞き返されて(さかのぼ)


「記憶にない」


カウンター越し、二人の会話を聞いていたはつねが付け足す


()うなの()うなの」

「今迄、すっかり忘れてたのよね」


()れで売れ行きが良くなかったのかしら?、とは思うが撤回(てっかい)する

()のログハウス喫茶店(カフェ)に「和風」は似合わない


先述(せんじゅつ)通り、稲荷寿司は(すで)品書(メニュー)にない

是又(これまた)品書(メニュー)にない「モノ」を手に此方(こちら)へやって来る


「御寿司には「ガリ」()して、「アガリ」」


「アガリ」?と、首を(かし)げる

白狐の前に熱めの粉茶を(そそ)いだ湯吞茶碗を置いた


()う、「アガリ」」


満足顔で(うなず)(きびす)を返すはつねを見遣(みや)

()れとなく鼻を寄せる何とも茶の色の濃い香りには馴染(なじ)みがある


()れならば

取り()えず馴染(なじ)みのない「ガリ」とやらを食ってみるか

一纏(ひとまと)めの「ガリ」を()まむ(なり)、一気に口の中に放り込む


ヨーグルト(紙容器 (ごと))(しか)

キウイフルーツ(皮 (ごと))(しか)り、丸ごと吞み込む獣姿の白狐と重なる

すずめが「あ、」と声を上げた瞬間、白狐が無言で立ち上がる


流石(さすが)?に駆け込む事はしないが

急ぎ足で御手洗(トイレ)を目指す白狐がはつねの前を通り過ぎる


「え?、え?、如何(どう)したの?」

鼻歌交じりサラダボウル片手に()()ける彼女にすずめが答えた


「「ガリ」の一気食い」


「弟」(もど)きの背中を目を真ん丸くして見送る

()うして御手洗(トイレ)の木製片開き扉が閉まるのを確認した(あと)

はつねは上半身を()()らし笑い出す


(とて)美美(びび)しい見た目からは想像もつかない

豪快(ごうかい)な笑い方に吃驚(びっくり)したすずめだったが

何時(いつ)しか()られて笑っていた




()のログハウス喫茶店(カフェ)には屋外(テラス)席があり

屋外(テラス)の階段を()りた先は砂浜だ


木製両開き扉の硝子(ガラス)越し、(よい)の海が()ぎる

不意(ふい)に足音に気付いて目線を向ける窓外(そうがい)、「人影」がいた


『母親を捨てて』

『父親を捨てて』


()の場所を捨てて、一人で生きていこう』


自分は「たか」との指切りを守った筈


『約束してくれたら()れ以上、殺さないよ』


『誰も』

『誰もね』


「たか」も自分との指切りを守ってくれる筈


()れでも息が震えた

()れでも身体が震えた


「たか」ではないと確信した今も動悸(どうき)が止まらない


当然、「人影」自体は可笑(おか)しい事ではない


(ただ)夏場(オンシーズン)を終えた今、砂浜からやって来るかは疑問だ

実際、屋外(テラス)席の屋外外灯は消えたままだ


「人影」は小脇に抱えた「何」かを階段の手摺(てす)りに立て掛ける

()の様子を注視(ちゅうし)していると突如(とつじょ)、はつねが(さけ)


「嫌!」

()めて!!」

「入って来ないで!!!」


(ただ)ならぬ発言に振り返れば

カウンターから(あわ)てて飛び出して来るはつねの姿が飛び込む


「何だ何だ」と、再び目を戻す

木製両開き扉が(コマ)送り映像の(ごと)く、ゆっくりと(ひら)いていく


(くだん)の「人影」が一歩、店内に足を踏み入れる

咄嗟(とっさ)固唾(かたず)を呑む中、はつねの悲鳴が上がった


「砂!、砂ぁ!!、砂ぁあ!!!」


次の瞬間、「人影」の何処(どこ)かから大量の「砂」が(こぼ)れる


「悪りぃ、はつね」


()う謝罪するウエットスーツ姿の男性が眉を「()」の字にして笑う

()うして蟀谷(こめかみ)()其処(そこ)からも「砂」が(こぼ)れた


「!あ!、あはは、は、は」


到頭(とうとう)、目を剥くはつねが無言のままカウンターへと引き返す

多分、奥の物置に掃除道具を取りに行ったのだろう


男性も(さっ)したのか

場都合(ばつ)が悪そうに(しゃが)み込むと足元の砂を両手で()き集める


当然、手伝おうと走り寄るが

「ああ、平気平気」と片手を振りながら男性が顔を上げた


御互い、顔を見合わせて気が付く


          人だ!

砂浜で声を掛けた<

          女の子だ! 


一層(いっそう)場都合(ばつ)が悪そうな顔をする男性を余所(よそ)

はつねが右手に(ほうき)、左手に塵取(ちりとり)を持って「現場」に()け付ける


御免(ごめん)ね、すずめ」


「御飯中なのに」と、()びながら

床を()き始めるはつねに気付かれない様に

(すっく)と立ち上がる男性が口元に人差し指を当てて「しー」と、御願いした


(やま)しい事等ないが

(やま)しい事だと、はつねに誤解されるのは嫌なので(うなず)


心做(こころな)し胸を()で下ろした様子の男性が

いそいそと御手伝いをしようとはつねの持つ塵取(ちりとり)を受け取ろうとするも

はつねははつねは物凄い勢いで振り払う(笑)


男性は手持ち 無沙汰(ぶさた)カウンターテーブルの椅子に

「砂」だらけのウエットスーツで腰掛け(さら)にはつねの怒りに火を付けた




結果、はつねが小休憩に使用する

木製の丸椅子を借りる事になった男性は「くろじ」と、名乗る


「はつね」と「くろじ」の関係は言わずもがな

はつねの手前、二人は素知らぬ振りで初対面の挨拶(あいさつ)を交わす


幼馴染(おさななじみ)の腐れ縁」


と、カウンターテーブルに手にした御冷(おひや)を置きながら付け足すはつねが

同棲(どうせい)相手である、くろじの紹介が遅れた理由を()べた


くろじは街側で親子代代、サーフショップを経営しているが

夏場(オンシーズン)は休業して海外の海でサーフィン三昧(ざんまい)だったらしい


出発も行き()

帰着も行き()り、の()の状況である


「良い御身分(ごみぶん)よねえ」


(すこぶ)る半目で嫌味を口にする、はつねにくろじが言い返す


「馬鹿たれ!」

「「野宿」に毛が生えた程度の極貧旅行だっつーの!」


言い返すも()ぐ様、(こうべ)()れる


「!!悪かった!!」


多少、勢いに押される感はあるが()れ以上

痴話(ちわ)喧嘩を続けるのも何なのではつねもすんなり(ほこ)(おさ)めた


(そもそも)、くろじの性格は物心が付く頃から知っている


必要な事も

不要な事も言わずにはいられない


良く言えば「正直」

悪く言えば「馬鹿正直」


其処(そこ)が好き

其処(そこ)が好きで側にいるのだから、()れで良いのだ


「で帰国早早、乗った地元の「波」は如何(いかが)?」


ウエットスーツ姿なのは()ういう事なのだろう

自分との再会よりも「海」を選ぶ、サーフィン馬鹿だが仕方ない


馬鹿相手に()れた自分が悪い


「!!最高!!」


上機嫌に親指を立てて返す馬鹿相手にはつねも何気なく続けた


「で旅行の御供(おとも)の御友達は?」


『談笑交じり通り過ぎる』

『ウエットスーツに身を包み、小脇にサーフボードを抱えた男性達』


はつねの言葉にすずめも「御友達」の存在を思い浮かべる


途端(とたん)


親指を立てたまま

満面の笑みを貼り付けたまま硬直(こうちょく)するくろじが(ども)り出す


「ぅあ?、ああ、帰ったんじゃね?」


『良く言えば「正直」』

『悪く言えば「馬鹿正直」』


「嘘」を()けない

「嘘」を()いた所で()()れだが(しゃく)(さわ)


「ふん?」

()れ程、私に会うのが嫌なんだ?」


「御前、怒るじゃん、って違ーう!」


(みずか)らの発言を

(みずか)ら否定するも時 (すで)に遅し、はつねが()み付く


「?!何が違うのよ?!」


日焼けした狐色の頭髪を()(むし)るくろじが丸椅子から立ち上がる


「ああもう!」

「俺、誘ったよな?!、でも断ったのははつねだよな?!」


()き捨てる(なり)

身を(ひるがえ)すくろじの背中目掛けはつねが叫ぶ


何処(どこ)の誰が!」

「『「野宿」に毛が生えた程度の極貧旅行』に行きたがるのよ!」


「?!(しか)(むさ)苦しいサーファー仲間引き連れて?!」


(むさ)苦しい』発言にくろじが勢い良く振り返る


「御前、彼奴(あいつ)()泣くぞ?!」


「!泣けばいい!」

「!!泣き叫べばいい!!」


何なら()(のたま)うはつねの方が泣きそうだ


くろじも

くろじで(ほん)の少しだけ泣きたくなってきた


事実、自分の周辺にはサーファー仲間が()えない

商売柄(しょうばいがら)」と言えば()うだが、サーフィンに興味がない

はつねが蚊帳(かや)の外になる事も多い


(ゆえ)の「同棲」だ

一分一秒を()しんだ(ゆえ)の「同棲」だった


(ほとほと)、笑うよなあ

幼馴染(おさななじみ)の腐れ縁』なのに()れ程、一緒にいたいんだか


自分の人生に()いて


「はつね」も

「サーファー仲間」も切れない「モノ」だ


()れを今、()の場で告白しようが

()れが何だ?、と一蹴(いっしゅう)されるのは目に見えている


毎度毎度の「喧嘩」だ

何奴(どいつ)此奴(こいつ)揶揄(やゆ)する犬も食わぬ「喧嘩」だ


()して仕舞(しま)いにははつねが退(しりぞ)くのが自分達の「喧嘩」だ


なのに、()の状況は(きわ)めて可笑しい

退(しりぞ)く所か突き進んで来るはつね相手に如何(どう)すれば良いのか


退(しりぞ)いた事がない自分には「退()(ぎわ)」が分からない(笑)




愈愈(いよいよ)、自分達を遠巻きに見遣るすずめを盗み見る


(かん)の良いはつねの事だ

常常(つねづね)、自分の「嘘」を見破るはつねの事だ


()しかしたら自分の浅はかな行為(こうい)勘付(かんづ)いているのかも?

()しかしたら自分の浅はかな行為(こうい)を「目撃」していたのかも知れない


(やま)しい事等ないが』

(やま)しい事だと、はつねに誤解されるのは嫌なので』くろじは覚悟を決める


「はつね!、俺が声を!!(掛けたのは・・・)」


「馬鹿みたい!」

「御客さんは夏場(オンシーズン)にしか来ないのに!」


「御店、(つぶ)れたら如何(どう)するのよ?!」


(かぶ)せるはつねの言葉

()れは見事にくろじの「地雷(じらい)」を()


神妙(しんみょう)な「覚悟」等 何処(どこ)へやら


「俺はねえ、はつね」

「俺は「素人(しろうと)」相手に商売はしねえの」


肩を(いか)らすくろじが講釈(こうしゃく)()れ始める


「「大事」な板、売ってんのよ」

「「大事」にしねえって分かってる奴 ()には売れっこねえのよ」


「ふん?、何で「大事」にしないって分かるのよ?」


()いながらも耳に届いた「物音」に

木製両開き扉に顔を向けるはつねを余所(よそ)にくろじは言い捨てた


「夏に板、買いに来る奴 ()(ろく)なもんじゃねえ」


サーフィンに興味がない、はつねには(はなは)だ意味が分からない

(ただ)(ただ)、くろじの「独断」と「偏見」だ


()う思うのは

はつねの勝手だが実際、サーフィンの季節(ベストシーズン)は「秋」らしい

九月~十一月迄の三か月間は最適な条件が数多く(そろ)う時期なのだ


()れを理解した上でのくろじの「講釈(こうしゃく)」なのかは(あや)しいが


()にも(かく)にも言いたい事を言い切ったのか


カウンターテーブルに置かれた

御冷(おひや)を満足げに(あお)るくろじを眺めるはつねがにやにやする


御高説(ごこうせつ)、素晴らしいわあ」


()うして

屋外(テラス)席を指差すと先程、目撃した光景を嬉嬉(きき)として教えた


()の「大事」な板、階段から転がり落ちてったわよお」


間髪(かんはつ)容れず御冷(おひや)(グラス)()ち割る勢いで

カウンターテーブルに置くくろじがはつねの指差す先を(おそ)(おそ)る見遣る


()られたのか

すずめも怖怖(こわごわ)、木製両開き扉に目を向けた

はつねの言葉通りくろじが階段の手摺(てす)りに立て掛けた筈の「板」がない


「風が出て来たみたいねえ!、あっはっは!」


(わざ)とらしく馬鹿笑うはつねに

くろじが一目散に駆け付ける木製両開き扉を(ひら)きながら怒鳴(どな)った


「性格悪りぃぞ!、はつね!!」


くろじの言葉に「あかんべえ」と、舌を出すはつねが溜息を()いた後

すずめに向き直るや(いな)深深(ふかぶか)と頭を下げる


御免(ごめん)ね、すずめ」

「他人の喧嘩なんか胸糞悪いだけだよね、本当に御免(ごめん)


「ううん、面白かった」


「、え?」


はらはらしたのも本心だ

だが、ほのぼのしたのも本心だ


すずめ自身、何処(どこ)から目線なのか分からないが

「二人は大丈夫」()う思えた


()の気持ちを素直に言葉にした結果

「面白かった」の返事なのだが可也(かなり)の失言なのでは?

気が付いたすずめが慌てて「(いや)()の、()の」と、取り(つくろ)うが

突然、はつねの手が彼女の媚茶(こびちゃ)色のボブヘアをくしゃくしゃする


「?!すずめえええ?!(笑)」


「!御免(ごめん)!」

「!御免(ごめん)なさい!」


繰り返すもはつねは「攻撃」を()める気はない、らしい

到頭(とうとう)、すずめも笑い出す

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