36
丸で時代劇に出てくる武家屋敷の棟門のような
立派な門扉とは裏腹
洋館の佇まいを呈する 玄関 広間
延延、漆黒の廊下
延延、漆黒の窓外を色取る、腰高窓
自身の頭上、電飾灯の目映さに顔を顰める
黒狐が舌打ち次いでに八重歯を剥いた
「、此処に?(みや狐が?!)」
然うして逸る気持ちに一歩、歩出る
黒狐を横目で止める金狐が告げる
「残念だが鼻が効かん」
圧倒的な「闇」の前では(白狐)の気配所か
匂いすら追えない
顎に指を当てる
本心なのか如何なのか、困った様子で呟やく
「是非とも案内して欲しい所だが、」
突如、頭上の電飾灯の灯が落ちる
辛うじて悲鳴を堪える
すずめとひばりが互いの手と手を掴み合う
当然、身構える
黒狐を余所に漆黒の闇の中、金狐の呑気な声だけが響く
「歓迎はされていないな」
瞬間、漆黒の闇の中から陽気な声が応える
「不法侵入で通報しようか!」
再び点灯する電飾灯が
警報器の如く 点滅し始めた瞬間
虚しくも息を殺ろす
すずめの背後から酷く懐かしい笑い声が湧き上がる
酷く場違いな程、心地良く響く声
此の時の心理は何なのだろう
怖い反面、興味本位で覗いて見たくなる
止せばいいのに
声の主が誰なのか
紛れもなく確信しているのに彼女はゆっくりと振り向く
止せばいいのに
吊られて、ひばりも其 (すずめ)の背後に視線を遣れば
やんちゃそうな、人懐こい笑顔を浮かべる少年と目と目が合う
途端、歯を鳴らす
すずめの手を握る、ひばりの指に力が篭もる
篭もる所か
我が身を引き寄せる力に思わず顔を向ければ
彼女 (ひばり)は あろうことか怯む事なく少年と対峙している
命知らずにも程がある
身の程知らずにも程がある
自分とは違う
自分とは何もかもが違う
こんな時なのに
こんな、生きるか死ぬかの時なのに
「俺が望むモノは何時 如何なる時も巫女、唯一人だ」
白狐の(愛の)言葉が頭に過ぎる
そうだ
彼女 (ひばり)は巫女なのだ
彼女 (ひばり)は(白狐にとって)唯一無比の 巫女なのだ
そう思いながら ひばりの手の平から伝わる
その震えに気付く
当たり前だ
こんな時なのだ
こんな、生きるか死ぬかの時なのだ
命知らずで結構
身の程知らずでコケッケッコー(は?)
ひばり以上に震える我が手で その手を握り返せば
即座に振り向く彼女が力強く 首肯く
巫女であろうと
巫女(仮)であろうと此処を目指した理由は、ただ一つ
途端、歯を噛む狐鬼が盛大に舌打ちする
「ちどりといい、ひばりといい」
すずめばかり
流石に言葉を飲み込むも
第三眼には無意味で案の定、異形のモノからは乾笑が漏れる
半眼の眼線は ずっと二匹の神狐に注がれたまま
暫し その乾いた笑いのみが響く 玄関広間
それは促している
見ろよ
よく見ろよ
眼の前の「狐」共を よく見ろよ
それはそう、促している
「友情ごっこ」に 当てられた所為か
仏頂面ではあるものの 狐鬼は第三眼の声に従順う
ただ事ではない、そう警告している
金孤 (ブレイズヘア)
黒狐 (パンクファッション)の 二匹(匹 言うな!)を交互に確かめる
「分かってる」
「どう見ても堅気じゃないじゃない」
当然、神狐である 自分等を「無頼」呼ばわりされて
怒髪天を衡く勢いの黒狐だが直様、冷静にその場に止まる
果たして
狐鬼を切り裂く 己の爪が素早いか
巫女等を飲み込み 闇が素早いか、想像に難くない
つい横目に見る 金狐ならば?、と思うが
兄(金狐)の能力は未知数だ
それ以上に狐鬼の 闇の能力は未曾有だ
誰も彼も 拝んだ事がない
「ならば」
突如、自分に語り掛ける
金狐に黒狐は窺いながらも顔を向ける
兄(金狐)の眼光は依然、狐鬼(というか第三眼)を射抜く
「拝みたいと思わないか?」
「後世の為に」
黒狐の声を一方的に聞き取った結果、淡淡と続ける
状況も状況だが
内容も内容だ
内心を読まれた事など些細な程、問題にもならない問題だ
「、マ、マジで?」
勝つわけない?
負けるわけない?
兄(金狐)は 渡り合えるのか?
兄(金狐)ならば 渡り合えるのかもしれないのか?
若干、紫黒色の 硝子玉の如く黒眼を輝かせる黒狐に対して
これ以上ない 苦虫を噛み潰したような顔を向けながら 金狐が吐き捨てる
「「本気」な訳 ないだろう」
瞬間、元より逆立つ黒髪を更に逆立たせる
黒狐を他所に金狐は心中で毒突く
拝ませてもらった所で「策」がない
当の狐鬼は狐鬼で 一転
二匹(だから 匹って言うな!)から眼線を外す也、にこにこ顔で ひばりを見つめる
無邪気この上ない笑顔の下で 狐鬼は内心、面白くない
簡単に白狐を諦めるとは思わなかったが
こう最も簡単に神狐を二匹(だから!)、連れてくるとも思わなかった
然して
褒めているのか
褒めていないのか、自分自身も分からない(笑)
「本当、女は食えない」
意図せず本心を吐露する
狐鬼が すずめと目が合った途端、破顔する
「すずめ!」
「会いたかった!」
「、はいぃ?!」
予期しない歓迎に
素っ頓狂な声を上げて固まる すずめを前に狐鬼は捲し立てた
「白狐が!」
「あの白狐が酷いんだよ!」
「白狐」に反応する黒狐が一歩、踏み出すも即座に第三眼に牽制される
狐鬼の額に陣取る「ソレ」は
初手から神狐等に照準を合わせたまま 追跡し続けていた
然して今
漆黒の眼球は攻撃態勢宜しく 渦を巻き蠢めく
そんな外野のやり取り等 我関せず
いよいよ芝居がかる狐鬼が心底、困ったように眉を下げる
「ひばりの「珠」じゃ 駄目だって言うんだ」
意味が分からない
意味が分からないが盗み見る、ひばりの横顔が強張っている
それだけは すずめにも分かった
直後、狐鬼が微笑う
それはそれは 恨めしそうに微笑う
「かと言って」
「お前 (すずめ)の「珠」が良いわけじゃない」
だから 選択肢を失くしてやる!
そう、意気込んで
眼前の すずめ目掛け放った筈の閃光は目標の鼻先を掠めて
横っ面を巻き込む勢いですり抜け 背後の黒狐へと向かう
神狐故の俊敏さで
間合いに(不法)侵入した 黒狐を第三眼は見逃さなかった
「 うけ! 」
思わず 喚声を上げる
第三眼の 自身の意思を無視する勝手な行動に
狐鬼は少し癖のある黒緑色の髪を「これでもか?!」と 掻き毟る
「うがー!」
「うがーー!!」
最早、言葉にならない
千載一遇を台無しにした第三眼の失態( うけ? )に 発狂寸前
次の瞬間、事切れるかの如く弛緩する狐鬼の身体を支える 第三眼が慌てふためく
「 待、待て! 」
「 待て待て待て! ちょ、待てって! 」
呼び掛け虚しく
傀儡と化した狐鬼を抱えて一旦、第三眼は漆黒の闇(壁)へと溶け込む
一方、第三眼が放った 閃光は
追跡装置 宛ら 縦横無尽に身を躱す黒狐を執拗に追撃する
「!!うらぁ!!」
薙ぎ払う鎌爪から放たれる
真空の刃も 閃光を止める事は出来ない
それでも
漆黒を切り裂くような刃を放つ事を止めない黒狐は好い加減、嫌になる
これは ご自慢(?)の鎌爪で一刀両断していいものなのか?
関節を鳴らす
異様な程、鋭く伸びた爪の先は湾曲している
相手は狐鬼だ
相手は触れたモノ全てを「魔」の使いにする 狐鬼だ
どうする?
どうする?
どうすればいいのやら
延延、漆黒の廊下を蹴り上げて
延延、漆黒の上空へと跳ね上がる
彼らしくなく考え
彼らしくなく逃口 一辺倒の戦いを強いられる最中
信じられない光景を目撃する
すずめを庇うひばりを庇う 金狐の姿だ
そこまではいい
広間(闇)の隅っこへと誘導する、そこまではいいが
眼と眼が合った刹那、事もあろうに大欠伸を嚼ます金狐の姿だ
余裕綽綽の金狐に反して
諸諸、限界限り限りの黒狐は見下ろす兄相手に本気度MAXの牙を剥くも
見上げる金狐は至極、気怠そうに手招きする
即座に意図を理解するが
「マジでいいのか?!」 当然、躊躇する黒狐に金狐は再び 大欠伸を嚼ます
、そうかい
必死 (ではないが)
姑息にも逃げ回る自分にも 兄(金狐)の態度にも殆、馬鹿らしくなったのか
あろう事か
空中で仁王立ちする
黒狐の背後を今まさに追撃する 漆黒の閃光が迫りくる
あろう事か
紙一重、略反射で閃光を躱し 身体を翻す
黒狐が口を真一文字に結ぶ
そうかい
そうかいそうかい(怒)
逆立つ黒髪が一瞬にして 引っ詰める
疾風の如き 動きで一直線、金狐の元へ到達する
兄と弟の 爪先が触れそうな程
兄と弟の 鼻先が触れそうな程、至近距離にて急停止(着地)する
吹き返しの風に靡く
黒狐の髪が 対峙する金狐の頬に触れた瞬間、問う
「「手」があるんだよな?」
紫黒色の硝子玉のような 眼を見開く
多少 脅しめいた口調の黒狐とは裏腹、金狐は若気顔であしらう
納得する というよりも
納得して託すしかない という結論に至るも矢張り 納得できない
それでも
小さく 本当に小さく「そうかい」と 吐き捨てる也
黒狐が自身の身体を横に滑らせた瞬間、金狐目掛け 漆黒の閃光が激突する
、マ?
声も出ず 眼の玉をまん丸くするのも 当たり前
自信満満 漆黒の閃光を往なすであろうと思っていただけに
金狐の行動(の結果)は 理解不能だ
、マジ?!
凄まじい衝撃波に依る 爆風を食らい
逆さまに吹き飛ばされる 黒狐が漸く声を上げる
「?!?!マァジィでぇ?!?!」
この間、数秒の出来事
到底、理解が追いつかない ひばりもすずめも立ち尽くす
瞬間、甲高く弾ける音
振動する鼓膜に耳を塞ぐと同時に辺りを 漆黒の闇が覆う
そうして
漆黒の窓枠に掲げる
松明の火が消えたのも束の間、再び 燃え上がり浮かぶ
目の前の光景に誰もが言葉を失なう
目の前の光景…
そこには 漆黒の閃光を食らった(筈の)金狐が悠悠と佇んでいる
思わず 両の手で握り合う
巫女等 (ひばりとすずめ)は金狐の無事に安堵するが
漆黒の廊下に回転し 着地する黒狐は唖然しながらも疑問を抱く
あの、漆黒の閃光は何処へ消えたのか?
打消した?
否否 そんな暇はなかっただろう?
否否 我が兄(金狐)ながら その能力は未知数
若しかしたら
だが 涼しい顔で佇立する
金狐が 笑みで吊り上げる、その口元を親指で拭う仕草を目の当たりにして
信じたくはないが、黒狐は合点が行った
あの、漆黒の閃光は 金狐の腹の中に収まっている?
おいおいおい…
そんな真似したら…
若干 まごつく足取りで兄(金狐)の元へ駆ける
黒狐の耳元を 子どもじみた笑い声が劈く
「な、ん、だ、?」
「お、ま、え、?!」
漆黒の闇(壁)から 姿を現わす
傀儡(状態)から復活する 狐鬼が一目散、跳ぶのを見届け
舌を鳴らす黒狐が漆黒の床を 爪で薙ぎ払う
瞬く間もなく
裂ける 漆黒の床から
出現する幾つもの鋭い刃が 狐鬼の蹴り出した足を貫ぬく
ガクン、と 体勢が崩れるも
狐鬼は笑みを浮かべたまま、血走る眼を見開く
自身の足を貫ぬく 刃の存在等、感じないのか?
前へ前へと その身体は前のめる
「な、ん、だ、な、ん、だ、?」
「お、ま、え、?!」
狐鬼 の声とも
たか の声とも思えない酷く濁り太い、ひび割れる声が闇に響めく
「「もん」を」
「「もん」を超えたのは お前の「ちから」かあ?!」
何者だろうと
何物だろうと「門」を潜る事は出来ない
この 僕が「門」を開かない限り
あの 狐が「門」を超えない限り
それが 此処での「理」だから
「た、の、し、い、な、あ、!」
勢いよく掻きあげる頭髪を 激しく引き千切りながら 身体を仰け反る
狐鬼の 雄叫びの如き笑い声が 漆黒の玄関広間に木霊した




