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繰り返えし
繰り返えす
空と海の境界線
水平線の遥か、ストロボのような朝日が昇る
砂浜に一人、流木に腰掛ける
すずめの頬を波飛沫に湿る潮風が濡らす
自分は 白狐を覚えている
自分は 白狐を待っていてもいいという、証拠なのだ
自分勝手だけど
自分勝手は 御違い様だ
朗朗と自分の名を呼ぶ
翡翠色の眼を持つ 白毛の「神狐」
其の「神狐」は
自分に別れを言いに戻ってくる筈なのだ
喩え 永の別れだとしても
すずめは待っている
然うして
頭を抱えて 俯向く
本当は 分からない
みや狐が如何やって
巫女の居場所を突き止めたのか?
其れは 何時?
其れは 何処?
みや狐一人で行く理由が分からない
「媒体」の自分を残して 行ける理由が分からない
「、分からない」
本当は 分からない振りをしている
自分は「巫女」じゃない
自分は みや狐の「巫女」じゃない
助けられてばかりで
何の 助けにもならない自分が「巫女」等、烏滸がましい
巫女の事にしても
ちどりの事も、哀れな幼女の事にしても自分は 役立たずだ
堪らず 目をぎゅっと瞑る
せめて 涙を零す事だけは我慢したい
瞼を閉じる 毎晩、願う
何も彼も受け入れて眠って眠って 眠る
瞼を開ける 毎朝、願う
傍に みや狐にいて欲しい
然う 願うのは我儘なのか
屹度、然う 願うのは我儘なのだろう
其の証拠に今朝も今も みや狐の姿はない
と、潮騒に顔を上げる 前方
此の髪型は「マッシュウルフ」と でもいうのだろうか
其の 後頭部を上手い具合逆立てる
海原に臨むように仁王立つ「人物」がゆっくりと振り返える
其の 透いた肌の白さといい
其の 人並み外れた顔立ちといい
其の 光すら断つ 紫黒色の眼が硝子玉の如く 映る
終いには
其の 頭髪を前へ前へと垂らし、『更に其の顔を隠そうとする』
『さ狐みたいで、面白い』
其れは 名前なのか?
「さ狐、?」
彼の日の白狐に聞き返えすように
目の前の「人物」に尋ねる すずめの声は上擦っている
「けっ」と 一蹴するや否や 一直線に向かう
ぽかんとした顔で見上げる、すずめを見下ろす「人物」が吐き捨てる
「「名」を呉れる訳にはいかねえ」
、え?
「取り敢えず」
「俺は「みや狐」の友達だ」
、「ダチ」さんと呼べばいいんですね?
(此の状況で)
如何でもいい事を思考するのは現実逃避故なのか
其れでも紫烏色の つんつん頭から察する
差し詰め「黒狐」なのだろう、と 認識する
牙のような
八重歯のような歯を口角から覗かせる
黒狐が至極、面倒くさそうに物問う
「アンタ、みや狐の「巫女」だよなあ?」
、みや狐の?
、巫女?
二つの質問に
すずめはなんと答えればいいのか 返答に困る
「みや狐の?」と、いうのであれば
自分は「ひばり」の代わりであって其れ以上でも 其れ以下でもない
ならば「巫女?」なのか、と いわれれば「否」だ
「否」だが 阿煙の件がある
一概に「違う」とはいい切れないのも 現実だ
然し 彼女の返答 等、待つ気のない
黒狐は 勝手に話を進めていく
「マジ (闇の)「門」を潜っちまったのか?」
「マジ 意味不(明)」
呼んだのか?
呼ばれたのか?
然う ぶつぶつ言う
黒狐が すずめの隣、流木が圧し折れる勢いで腰を下ろす
実際、軋む流木が数センチ 沈んだ
「つか なんの為に?」
後頭部を掻き上げる
黒狐が鼻に皺を寄せて押し黙るので
仕方なく、すずめは説明する
「そこに、みや狐の「巫女」が いるんです」
途端「はあ?」と いう也
(常人外の)整った顔を向ける相手に、すずめは慌てて目を伏せる
「神狐」特有なのだろう
覗いたら 覗かれる
覗いたら 魅入られる
其れでも
「「巫女」は オタクだろ?」と 自分 (すずめ)を指差す
黒狐の行動を視界の端に捉えて 答える
「私は…、「巫女」じゃないです」
「私は…、代わりの「巫女」をしただけです」
然し 白狐に置いて行かれた今 「巫女」だったのかも怪しい
、私…
、私 やっぱり…、足手纏いだったんだなあ
次第に項垂れていく
すずめに構う事なく 黒狐が疑問を投げる
「で、なんで潜った?」
今度は すずめが「はあ?」と、言い掛けるも
相手は(斯う見えても)「神狐」様だ と思い直し再度、繰り返えす
「そこに、みや狐の大切な「巫女」がいるからです」
強めの口調になるが
自分以外の誰かが「此の狐には 此の位が丁度いい」と、肯定する
自分以外?
馬鹿馬鹿しい、そんな事 有り得ない
抑、此の「誰か」は誰なのだ?
思えば、ひばりの屋敷に乗り込んだ時にも 此の「誰か」を感じた
舞台は 彼女の場所
舞台は 入ってはいけない
然う 忠告する
此の「誰か」は自分であって
此の「誰か」は自分でない
「っ、くっだらねえ(!)」
言うや否や是又、勢いよく立ち上がるので
再び揺れる流木に ふらつき手を突く、すずめは聞き返えす
「、何がですか?(!)」
二度、訊ねたのはそういう意味か
聞き捨てならない
「誰か」ではない自分自身の感情が強くなる
「「下らない」って、何がですか?!」
「みや狐は、」
「みや狐は「巫女」が大切だから、」
幸いにも背を向ける
「神狐」に魅入られる事なく思いの丈をぶつける
「そんな事も理解しないなんて」
「そんな事も理解してくれないなんて」
「黒狐、本当にみや狐の、」
「友達なんですか?!」と いう言葉は
黒狐が盛大に吐き出す「!!!けっ!!!」と いう嘆息に掻き消される
吃驚して目を丸くする すずめは
当たり前だが目の前の「人物」は恐れ多い「神狐(様)」なのだ
と、我に返って身体を強張らせる
みや狐じゃない
みや狐じゃない「神狐」なのに
下手したら殺される
みや狐でさえ
みや狐でさえ(巫女の為に)自分を殺そうとしたのに
現在〜(から)
彼の外縁一面に広がる着物の川までの画面が
キュルキュル 高音を立てて巻き戻る映像録画の如く、過ぎる
頭顱の中に 黒狐の声が鳴響く
「だから?」
「だから 一度切りの「命の珠」を見す見す捨てるのか?」
、え
、なんていった?
恐怖よりも 勝る
聞き逃したような
聞き逃したような、あやふやな状態のまま
すずめは黒狐の 次の言葉を待っている
相手も相手で
先程とは一転、静かになる
すずめを訝しがるも軈て振り返えり 付け足す
「戻ってくる気もねえし」
「帰ってくる気もねえし、そーゆーこった」
其れは 癖なのか
つんつん頭を維持する為(?)、後頭部を両の手で掻き上げる
黒狐の目前 すずめが矗と立ち上がる
「そ“ん“な“の“、う“そ“よ」
「そ“ん“な”の“、し“ん“じ“な“い」
濁音で詰め寄せる
すずめは涙を堪えるように目を閉じ 歯を食い縛っている
「う“う“…、う“」
何とも言えない様子に黒狐は ドン引く
如何にも疑わしい
此奴 (すずめ)が「巫女」なのか、如何にも疑わしい
嘘か実か
疑惑の眼を向けても何の意味もない
其れと同じ
「う“そ“よ」と 無駄に力説された所で
「真実」を曲げる事は俺にも お前 (すずめ)にも出来ない
「抑、そんな暇ねえんだよ」
舌打ちして 外方を向く
泣いている暇 等 ない
(闇の)「門」を潜った先は「狐鬼」の世界だ
全ての魔を統べる「狐鬼」
其の手に触れれば「神狐」さえも統べる事の出来る「狐鬼」属性の世界だ
外方を向いたまま
紫黒色の 細い眼を伏せる黒狐が打ち明ける
「俺は、みや狐を連れ戻しに来たんだ」
直様、反応する
薄っすら開く瞼の隙間から 黒狐の足元を窺いながら
すずめは 耳を傾ける
「本意を云えば」
「俺は 未来永劫「巫女」等 いらねえ」
つんつん頭同様
先の尖った ごつごつの作業員深靴で
浜辺の砂を蹴り上げる
然し
「相手が「狐鬼」じゃあ 話は別だ」
台詞で察する
後の展開に「皆まで言うな!」と ばかりに顔を上げる
すずめと顔を見合わせる 黒狐は「なんだ?」と 思うが洟も引っ掛けない
其の 光すら経つ
紫黒色の眼が、すずめの藍媚茶色の眸子に映る
硝子玉の如く眼球を細めて 若気る黒狐が「皆まで言う」
「今から お前は俺の「巫女」だ」
見詰めるも 決して覗き込まない
覗いたら最後、魅入られる
此処ぞとばかり(?)
「神狐」の真面目を発揮するも隠す気もない傲慢さ故、裏目に出る
明白な 嗤笑
不快 というよりも
不躾な物言いに、すずめは脊髄反射で断わる
「嫌です」
「?!?!?!はぁああ?!?!?!」
「お前、巫山戯んなよ!」と、即座に襟首を掴み上げる
黒狐相手に「秒」で回心する、すすめが「ごめ、」悔い改めようとするが(笑)
文字通り、頭髪が逆立つ黒狐は止まらない
「高が「人間」の分際で」
「此の俺(様)に 歯向かうんじゃねえよ!」
「下等があ!」
耳を劈くような怒鳴り声と
自身の鼻先に迫る
牙のような
八重歯のような 黒狐の歯を凝視しながら、すずめは辟易する
「狐鬼」にしても
「神狐」にしても 紙一重
以前に
「ダチ」だから
みや狐の「ダチ」だから そう思うのに
「此の狐、言い過ぎだわ」
と、いう自分以外の「誰か」の 声に背中を押された結果、すずめは反論する
「、その人間に!」
「、その人間に「巫女」になれ!って 言ってるのは何処の何奴よ!!」
尚も襟元を掴み上げる
黒狐の手を我武者羅に引き剥がす、すずめが頭を振る
「!身勝手も好い加減にしてよ!」
肩で呼吸する
すずめを心底、ウザそうに見遣る
黒狐が 自身の腕を摩り上げながら宣う
「身勝手で結構」
口は悪いが(口)喧嘩は好きじゃない(え?)
途端、調子を下げる
「高が 人間」
「然れど 人間」
皮肉も皮肉
皮肉も引っ繰り返せば 世辞になる
「中中 如何して、侮れねえよなあ」
全ては 御伽噺
全ては 半信半疑
黒狐にとっても老神狐達が語る、昔話に他ならない
「狐鬼も」
「半分、人間「様」だから侮れねえんだなあ」
到底、思い掛けない言葉に
顔を向ける すずめが問い掛ける
「、半分?」
「、半分は 人間なの?」
「(長老狐達から)然う、聞いてる」
あっさり頷く黒狐に すずめは更に問い掛ける
「その「半分」は なに?」
「その「半分」は人間としての、なに?」
問い掛けながら
『幼い僕にとって 親代わりのような存在だったんだ』
『その 意味が分かる?』
『その 悲しみが分かる?』
何処 迄も優しい
少年の声が耳の奥で谺する
最早、黒狐の返事 等 聞こえない程
抑、黒狐の返事は「知るか」だったので聞く必要もない
軈て
「、あの」
と、すずめは 決意する
と、いうよりも
端から其のつもりだったのに
真逆の 脊髄反射で稚児しい遣り取りになった事を
反省しつつ 見上げる黒狐の顔面は不思議な程、無表情だ
「何事だ?」思う 自分と目線も合わない
合わないのも当然
黒狐の 視線は自分の頭上を飛び越えている
細やかだが身構える すずめが思い切って振り返える
背後には(手頃な)棒切れ?
板切れ?を 決死の形相で振り上げる、はつねの姿が其処にあった
其の はつねのいう事にゃあ
「!!!すずめええ!!!」
「!!!!逃げてえええ!!!!」
「数年振りに風邪を引きました」
あのな、風邪なんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
怠そうな顔して何が、風邪だわ、だ。
お前は本当に風邪を引いたのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。
お前、風邪だわって言いたいだけちゃうんかと。
感染症通の俺から言わせてもらえば今、感染症通の間での最新流行はやっぱり、
インフルエンザ A型、これだね。
インフルエンザA型に感染した後、B型に感染する。これが通の罹り方。
「l||l( ›ଳдଳ‹ )l||l」
※「吉野家コピペ」より抜粋( & 改変)