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其の後
突如、企画される
「みやちゃん(御令息様)、初 労働記念日」と銘打つ
「宴」により閑古鳥が鳴く所か下手したら屋根裏で飼っているかも知れない
ログハウス喫茶店は文字通り、閉店(ガラガラ〜)
上機嫌で「無礼講」を連呼する
くろじが未成年のすずめは勿論の事、(すずめと)同年齢設定の白狐にまで
酒を勧める事態にはつねが厨房越しに諌める中
「なに?」
「なんで店、閉めてんの?」
昼食(の誘い)を断った事を気に掛けていたのか
是又、閑古鳥が鳴く古着屋を早目に閉めてログハウス喫茶店を訪れる
サーファー仲間 事、古着屋店主の姿
店先に吊り下がる「閉店」の札をとっくりと眺めた後
顎髭を親指と人差し指で啄みながら木製出入口扉を開ける
古着屋店主が合流して数時間後、会場ははつねとくろじの部屋に移動して
酒宴は続いていく…
左党ではあるが弱い、くろじと
右党ではないが強い、古着屋店主を白狐に押し付ける気満満で(をい)
「夜更かしはお肌の天敵」とばかり早早に寝室(部屋)に引き上がる
はつねに当然のように手を引かれ戸惑う、すずめが白狐を見遣る
其の目線を受けて「(俺に)構わず行け」と、顎を引く
白狐の様子にすずめは笑って頷いた
然して、はつねとすずめを見送る
白狐同様、二人の姿が寝室(部屋)に消えた事を確認する
くろじが途端「飲め飲め」等、酒を勧め出す
弟(分)と仲良くなりたい、くろじ
弟(分)云云以前に仲良くなりたくない、白狐
其れでも
拳で語るか
酒で語るか
男同士の会話は此れで十分だと至った
(末っ子長男の)くろじの酒を(はつねがいない今)固辞する理由もない
白狐は差し出される缶 麦酒を素直に受け取る
結果
笊より鍬の如く
缶 麦酒を空けていく(白狐の)姿に上機嫌になる、くろじ
是又、付き合いのいい古着屋店主が追撃?するも両者あっさり酔い潰れる
到頭
敷物の上で
窮屈ながらも仲良く大の字で眠りこける二人を(酒の)肴に
余裕で長椅子に胡座を組む白狐は一人、缶 麦酒を煽る
己の「兄(貴分)」を名乗る等、笑止千万
「けっ」と、一笑に付すも
徐にかき上げる前髪をくしゃっとする
此奴は相も変わらず
己の事を弟(分)として扱うのだろう
全ては此の「幼顔」の所為だが致し方ない
抑、神狐 等ですら見誤るのに此奴如きが見極められる訳がない
「けっ」と、もう一度、吐き捨てる
手にした缶 麦酒を居間机に積まれた空き缶の山山の一座
其の空き缶の山の天辺に、ぽんっと積む
(お供え)酒とは随分、異なる味だが
キレ(芳醇な苦味)とコク(豊潤な苦味)、甘味の均等が絶妙である
此れは此れで乙なものだ、等と独り言つ白狐の元に
宴会会場(居間)が大人しくなった事に気が付いたのか
はつねが丸めた毛布を二つ、両腕に抱えながらやって来る
手伝うつもりで腰を上げる白狐に首を振り止める也
無造作にくろじの腹の上に丸めたままの毛布を一つ投げ、放置
傍らで寝返る古着屋店主の上にもう一つの毛布を広げ掛け始める
はつねの、其の扱いに少しばかりくろじに同情したが即、撤回した
寝たままのくろじが
腹の上の毛布を手繰り寄せながら足を掻く
何度も掻いて段段、広がる毛布に軈てすっぽりと包まる
そんな気持ちよさげに寝息を立てる
くろじを「物体X」と(認識)して見下ろす白狐にはつねが声を掛ける
「みやちゃんは」
「(一緒に)寝室で寝よう」
誘導う理由は
単純に寝具が足りないとかだろうが申し出を断わる
白狐に首を傾げるはつねが笑う
「(私が)一緒だと恥ずかしい?」
其の言葉に(白狐を)揶揄う意図は汲み取れないが
確かに場都合が悪い思いに「抑、俺は寝ない」と、言い掛けるが
「まだ、遣る事がある」
再度、断られる
はつねは意外にも頭を上下する
お節介も
極めれば「善意」になる、という持論を貫くには
余 (あま)りにも夜は更け過ぎている
兎にも角にも「やる事」に対する
疑問は先延ばしにして視線を落とす、足元
包まるくろじの毛布を無情にも剥ぎ取るや否や、白狐に差し出す
「有り難い」と受け取るも
「有り難いが」と其の身を縮こめるくろじを気遣う、白狐の目前
はつねの次の行動は
眠りこける古着屋店主の毛布を引っ張り(隣の)くろじに被せる事だった
然うして勃発する
すっぽり包まりたいくろじが引っ張る毛布を
脊髄反射で引っ張り返す古着屋店主に負けじと更にくろじが引っ張る
不毛な争いに全く興味がないはつねが欠伸をする
「お休みなさい、みやちゃん」
「ああ」と、はつねの背中を見送る
自分を余所に(不毛な)争いが終結したらしい
肩を寄せ合い眠るくろじと古着屋店主の身に(受け取った)毛布を掛けると
(長椅子で)胡座を組み直し長息する白狐が瞼を閉じる
何れ程の時間が経ったのだろう
白白明けの空に未だ姿を残す、月白を眺めていた
夜の明ける迄
夜の更ける迄
空が望んでいようと
空が燻んでいようと
彼の、月が無くなる事は無い
軈て
白皙の顔に掛かる黒髪の隙間
翡翠色の眼が開くと同時に(横手の)吐き出し窓を仰ぐ
次の瞬間、突っ込むように跳ぶ身体が窓硝子をすり抜ける
常に
常に耳を傾けていた
己の「名」を
己の「名」を呼ぶ「巫女」の声に耳を傾けていた
何処に居ようが
何時に居ようが
朦朧の中だったのが今、鮮明になった
然うして
跳ぶ(白狐の)身体は
何処を越える
何時を越える果て砂浜に迄、到達する
握り締める爪で
噛み締める牙で
幾つにも分かれ伸びる尻尾を携えて
獣(白狐)の姿で対峙する
遠い昔
遠い末を照らす、「月」を背負う
寝間着姿の少女が
細波立つ海面に揺れては漂よう
時折、透ける風姿は海原に掻き消されそうだ
紛れもなく「幻影」だ
紛れもなく「幻影」だが紛れもない、「巫女」の姿だ
何処に居る?
何時に居る?
一歩所か
二歩、三歩と足を踏み出すも
有ろう事か、微笑むひばりは頭を振る
意味等、分かりたくない
意味等、分かりたくもない
居ても立っても居られず
最後の最後
「「名」を呼んでくれ」
「俺の「名」を呼んでくれ」
「ひばり」
何処へでも
何時へでも響き渡る
己の声にも応える事なく
微笑んだままのひばりの姿が
空と海の境界線
水平線の遥か、ひかめく朝日に飲み込まれていく
唯唯、其の姿を見届ける
唯唯、其の場を動けずにいる
握り締める爪の
噛み締める牙の行き場がない
到頭
項垂れる己は
己の不甲斐無さに、泣きそうだ
ひばり
「名」を呼んでくれ
俺の「名」を呼んでくれ
俺の「名」を呼んでくれないと行きたくとも行けない
熟、満足するのは難しい
何より力がない
何より努力がない
乗り換える「モノ」がない
引き換える「モノ」がない
あ、Netflixで「刃牙」シリーズ観ました
あ、「エア 味噌汁」感動しました
あ、花山 薫氏が好きです
あ、寝不足で情緒不安定です、てへぺろ