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「そろそろ昼飯時か」
何や彼や
開店(十時)直後からサーファー仲間と駄弁り続けた
お互い屋外椅子から立ち上がる
其れが終了の合図のようにくろじが店内の壁掛け時計を見上げて提案する
「はつねん所で飯、食わねえか?」
「冗談」
「彼奴、怒ってんだろ?」
(サーファー仲間)自身、何気ない返答だったのだが
満面の笑みを貼り付けたまま硬直する相手 (くろじ)を前に噴きだす
『良く言えば「正直」』
『悪く言えば「馬鹿正直」』
「無理、怖えわ」
苦笑交じり店を後にする
相手(サーファー仲間)を見送るともなく連れ立つ
(サーフショップの)向かい側、古着屋の店先で商品を物色している
古着男子に「毎度」と声を掛け立ち話を始めるサーファー仲間は此の店の店主だ
然し「お互い暇だな」と思うも
今現在、接客している彼奴(サーファー仲間)は俺より増しか、と思いなおす(笑)
然うして
三姉妹の話の根多として捕捉されたのだろう
未だ戻らぬ「妹 (すずめ)」の存在を思いだし(おい)手を打つ
「然うだ、迎いに行こう(棒)」
空の珈琲 茶碗を載せた盆を持参して
「波女」に出向けば案の定、仕事(給仕)其方退けですずめが腰掛ける
卓子席に齧り付く三女の姿を見留める
カウンター越し、サイフォンを眺める長女にこぼす
「ずっとああなの?」
目線だけを動かして「弟」にうなずく
長女が笑みを浮かべる
「今更?」
「彼の子(三女)は貴方が生まれた瞬間から兄弟愛だよ?」
嗚呼、然うでした
と、溜息すら出ない「弟」から盆を受け取る長女が吐き捨てる
「貴方も」
「はつ(ね)ちゃんも大変だ」
面白がる口調 処か
高みの見物を決め込む長女の態度に「今更?」と返えす「弟」も大概だ
途端、豪快に笑いだす
長女に構う事なく(店に訪れた)目的である
すずめを迎えに卓子席へと手を打ち鳴らしながら近付く
「お仕舞いお仕舞い」
ぶっちゃけ
大した情報もないのに
大した情報を聞き出そうとする三女相手に殆、困り果てた様子のすずめに
「申し訳ない」と思いつつ、二人の間に入り込む
然し、遅かれ早かれ
斯うなる事は必然なのだから仕方がない
仕方がないが
「めんごめんご」
「でも最初で最後、金輪際相手にしなくていいからね」
取り敢えずの通過儀礼は済んだ(筈)
すずめに謝罪する「弟」の発言に多少、唇を尖らす三女が
「はつ(ね)ちゃんは強敵よ」等と宣うもくろじがはっきりと言う
「すずめちゃん」
「其れは其れは格好良い彼氏がいるから」
新たな燃料投下(話題)に黄色い声を上げる三女に好い加減、腹が立ったのか
瓦斯式銅板蒲餅焼き器で焼く生地と睨め競していた次女が鋭い眼光で射抜く
一瞬、怯む三女を気の毒に思うも
すずめの手を掴んで「波女」を後にする「弟」の背中に長女が声を掛ける
「今度、はつ(ね)ちゃん連れて遊びに来なさいよ」
「其れ」に対して
くろじが悪態を吐くも此の状況のすずめには聞こえていない
唯唯、繋いだ(くろじの)手と(自分の)手を見詰めたまま
此の状況の「後始末」の事で一杯一杯だ
暴露てる
何なら即時で暴露てる
只管、「何でもない何でもない」と頭の中で繰り返えす
すずめの隣でくろじが後頭部を掻き上げる
「馬路、「姉」って(有り得)ねえわ」
くろじの言葉に立ち止まる
すずめが背後の「波女」と隣から一歩、前方に進んだ「弟」を見比べる
「ああ、「姉」?」
再度、背後の「波女」と前方に進んだ一歩、戻ってくる「弟」を見比べる
すずめに目の前のくろじが
「ああ、「姉」」
然して訊ねる
「若しかして気付いてなかった?」
思えば
根も葉もないのに
根掘り葉掘り聞いてくる相手(三女)は多分、念頭になかっただろうし
自分 (すずめ)に於いては名乗る暇すら与えられなかった
思えば
サーフショップで会った(此方も名乗り合わず)
サーフィン仲間同様、地元 (くろじ)の幼馴染関係だと自己完結していた
自分 (すずめ)を見下ろす
相手 (くろじ)の顔面を繁繁見て「ああ、似てる似てる」
一人うなずき「ああ、かも?」と首を傾げればくろじが笑いだす
「彼奴等(三姉妹)は「父親」似」
「俺は「母親」似」
兎に角、道端に立ち止まっているのもなんだし
夏場以外、ログハウス喫茶店は混む事はないが
(自身の)腹の虫に責付かれ歩き始める
くろじに手を引かれてすずめも歩き始める
「全員、お姉さんなんですか?」
何気なくくろじが放った
彼奴「等」の「意味」を確認する
「そう」
「長女が珈琲担当で」
「次女が蒲餅担当で、三女が給仕担当」
「全員、お姉さん…なんですね」
改めて繰り返えす
すずめの脳裏に三女「はつ(ね)ちゃんは強敵よ」の台詞が甦える
同情する訳ではないが
無情にもなれない
思うところがあると言えばあるが
矢張り、下衆の勘ぐりと言われれば其れまでだ
途端、くろじが
俯向くすずめの両肩に勢い良く両手を置く
「そう!」
「だから俺、!」
此処で「青年の主張」を仕掛けるも
何処からか「おおい、おおい」と呼ぶ声に視線を飛ばす
見れば、(商店街)通りを挟んだ向かい側、いぶし瓦屋根の酒屋
其の店先、縁台に杖を片手に腰掛ける老人がにこにこ顔で話し掛ける
「くろ(じ)」
「どしたあ?、そのこ?」
すると、くろじは
すずめの両肩に置いたままの両手を引き寄せ、自分の前に立たせる
有ろうことか
「髭 爺!」
「此れ「妹」!、俺の「妹」!」
自分 (すずめ)の頭上で、大声で宣言する
「妹」発言に驚いたが
「髭爺」発言にも驚いた
何故なら
愛想笑いを浮かべる自分 (すずめ)が見遣る
相手(老人)の好好爺然とした顔には髭一本すら生えていない
所か、頭髪すら…だった
「そうかそうか」
「母ちゃん、頑張ったなあ」
満面の笑みで親指を立てる
くろじに「しっかり親孝行しろよ、くろ(じ)」と説く也、(店の)奥に目を遣る
老人が家族に報告する
「おおい、おおい」
「くろ(じ)ん所、「妹」が生まれたそうだぞう」
刹那、家族の怒号が轟く
「じじい!」
「ボケんのにも限度があんだろうがあ!」
先程の仄仄展開から
空気が一変する展開に当たり前だが当惑するすずめの前で
更なる予期せぬ展開が起こる
「ああん?!ああん?!」
「だれがボケとんじゃい?!だれが?!」
矗と立ち上がる
「なにこら!たここら!」喚きだす老人が手にした杖を足下に叩き付け
腰は曲がっているものの確かな足取りで(店の)奥へと消えていく
「じじい!お前だお前!」
迎え撃つ家族の怒鳴り声を面白がるくろじが(其の)舌をだす
だが図らずも(?)(喧嘩の)原因を作った
張本人 (くろじ)の悪びれない態度に目を剥くすずめに気が付き慌てて弁解する
「否否、ボケ防止だし」
バレバレの苦しい言い訳だ
当然、すずめにもバレバレだとくろじは観念するも
「ボケ防止…」
「喧嘩」はボケ防止になるのだろうか?
等、馬鹿正直に首を捻るすずめに思わず失笑して付け足す
「まあ若干、ボケちゃってるけど?」
其れは
其れは確かに然うだ
先程の「妹」云云の会話が証拠なのだろう
其れでも場都合が悪るい
くろじは中断したままの「青年の主張」を再開する
「俺ね」
「俺ね、ずっと「妹」が欲しかったんだよね」
「「妹」?」
「そう、「妹」」
「だからさすずめちゃん、俺の「妹」になってよ」
唐突な、然して突飛な「青年の主張」に正しい答が分からない
抑、正しい答があるのかさえ分からない
取り敢えず時間稼ぎの為、という訳ではないがすずめは今一度、訊き返えす
「「妹」?」
「そう、「妹」」
「で、みやちゃんは「弟」」
其れはマズイ
其れは止めて置いた方がいい、とばかり
なんとも言えない表情で自分 (くろじ)を見詰めるすずめにくろじが吐き捨てる
「でも俺、「弟 (みやちゃん)」はいらねえ」
次の瞬間、馬鹿笑う
くろじに釣られて笑いだすすずめが思い出したように訊ねる
「あの、」
「「髭爺」さんって、」
「うんそう」
「昔は髭ボーボーだった(笑)」
矢張り然う言う事か、と目を向ける
いぶし瓦屋根の酒屋の店先、老人に腕を引っ張られて姿を現わす
家族と目と目が合った
合った以上、自分 (すずめ)と会釈を交わし合う
家族らしき男性は見事なまでの、髭ボーボーだった(笑)
(「くろ(じ)!、じじい揶揄うんじゃねえよ!)
雪見だいふくが生菓子になったよ〜