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参戦

 「で、こいつが『黒の刃』の構成員なら、さっき言ってた南に二百人っていうのは……」

 

 「嘘でしょうね。副長官をフェイロンさんと引き離そうとしたんでしょう」

 

 「けっこう向こう側に情報が漏れているみたいだな」

 

 「お二人だけでアジトに何度も訪れていたとき、顔が割れてしまっていたんでしょうね。そうであれば、お二人が警戒されるのは当たり前です」

 

 「バレてるとは思わなかったな」

 

 バレているとは、本当にこれっぽっちも思っていなかった。アジトを観察していても、こちらに意識を向けてくる構成員は一人もいなかった。それなのに、今回俺とフェイロンを引き離す作戦を取ってきたとなると、気づいていたのに気づいていないフリをしていたやつがいるわけだ。そいつは相当の手練れだろう。しかもそれでいて、奇襲作戦を立ててくるような陰湿なやつ。

 

 「うわあ、嫌だなあ……」

 

 「そんな泣き言言ってる場合ですか。フェイロンさんが一人で頑張ってるのに」

 

 「そ、そうだよな。俺が人質を救出しないと」

 

 「そのことなんですが、人質が本当に存在するのか疑問なんですよね」

 

 「え?」

 

 「さっきの人が隊員たちやフェイロンさんに流布したデマなんじゃないか、と私は疑っているわけです」

 

 「根拠はあるのか?」

 

 俺も人質なんていない方が楽だからいてほしくないんだが、万一いたときに、そいつらが危険に晒されるようなことがあったら寝覚めが悪い。だから、根拠は大事だ。

 

 「いなくなった隊員がいるという話は聞いていませんし、人質の姿なんて見えませんし」

 

 「うーん、人質をとって隠れているということは?」

 

 「人質を隠すメリットってありますか?むしろ、人質が危ないぞーって見せびらかした方が人質の利点を生かせますよね?」

 

 「まあ、それは確かに」

 

 しかし、それだけで人質がいないと判断するのも……

 

「あと、仮に人質がいたところで、領内の人間じゃないと思いますよ。幹部が捕らえられて以降、町へは警備を派遣していますし。まあ、そのせいで手薄になった砦が狙われたんだと思いますけど。領外の人間を守る義務は、我々国境警備隊にはありませんから、ここは領内の人間を守ることを優先した方がいいかと」


 アレクの言ったことは、かなりの信憑性があると感じた。存在が不確かな人質のことを考えるよりも、今いる『黒の刃』のやつらを一網打尽にする方が優先度は高いと思われた。


 「よし……俺は下に行ってくる」


 高さ四十メトルほどある屋上から階段を下りるのでは、少しばかり時間がかかる。魔纏の残り時間を有効活用するためにも、選択すべきルートは一つしかない。人が落ちないように高くなっている縁へ乗った。


 「たっけえ……」


 「な、何してるんですか!?下って地獄のことだったんですか!?」


 「何で地獄行きが確定してるんだよ」


 「すみません、つい」


 「つい言っちゃうって、それ普段から思ってるってことだよね?」


 「行くんだったら早く行った方がいいと思いますよ」


 「……まあ、そうだな」


 答えてから、改めて下を見る。高い。怖い。それ以外に感想はない。フェイロンは相変わらず、襲い掛かってくる敵を的確に仕留めているが、まだまだ敵は威勢がよい。


 「そいつは拘束するなり何なりしといてくれ」


 「承知しました」


 そして俺は宙に足を踏み出した。当然ながら二歩目なんてものはなく、そのまま落ちる。気づいたときには着地していた。感覚的には階段の三段目辺りから飛び降りたみたいなもんだったんだが、足が少し地面にめり込んでいるところを見るに、結構な衝撃があったのだろう。


 「おい、お前は人質のところに行くべきだろうが」


 「詳しい話はあとでするけど、人質の話は俺たちを引き離すための嘘だ」


 「そうなると、俺はだいぶ無駄な時間を過ごしたみたいだな」


 「残念ながらそういうことだ」


 俺の急な登場に敵が動きを止めたことをいいことに、俺とフェイロンは暢気に言葉を交わす。だが、敵もいつまでも黙っているわけがない。


 「おい、金髪の方が弱そうだ!あっちからやるぞ!」


 フェイロンはどこからどう見ても黒髪。この場で金髪は俺しかいない。クソ親父譲りの金髪だ。


 「上等だボケ!かかってこいや!」


 自分があの父親の子であることが強制的に思い起こされ、俺は普通にそのことに対してキレた。隊員たちを守りたいとかそんな理由ではなく、まったくもって個人的な理由で彼らと戦うことを決めた。


 正面から二人。どちらも短剣を装備している。俺は腰から軍人の標準装備である長剣を引き抜き、二振り。自分でも無様な振り方だったと思うが、二人の敵の短剣を手首ごと切り落とすことに成功した。一人は腕を抱えてうずくまり、もう一人は泣きながら転がった手首をくっつけようとしている。


 「お前にそんなことをする度胸があったとはな」


 目を少しだけ見開き、フェイロンは意外そうに言った。


 「度胸の問題じゃない。ただの八つ当たりだ」


 「ガキだな」


 フェイロンはそれだけ言うと、敵の密度が一番高いところへと飛び込んで消えた。直後、俺の頭上よりも高く、人が次々と打ち上げられる。俺もあの領域に達することができるだろうか。


 「さて、さっき言っていたように、俺の方があの黒髪より弱いぞ。手柄を立てたいやつは、俺を狙え!」


 俺がそう叫ぶと、敵は一斉に俺の周りを取り囲んだ。仲間があんな状態になったって言うのに、懲りずに挑んでくるとは、正気じゃないな。かくいう俺も、さっき切った二人が地面でのたうち回っていようが、特に気にならないのだが。


 「一応、前線で耐性がついたのかな。――いや、王都でのあの死体を見たせいかもしれないな」


 だが、砦の前が血だらけになったら片付けも面倒なので、剣はしまった。


 「舐めやがって!」


 一人目が叫びながら突っ込んできたのを皮切りに、四方八方から敵が攻めてきた。俺はしばらく人を殴り続ける時間を過ごした。


感想お待ちしております!

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ブクマ・評価ありがとうございます!大変嬉しいです!


今日で三か月間毎日投稿となりますが、次話から何話か隔日投稿にします。七月中には毎日投稿に戻します。

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