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エルの取り柄

 「嘘をつかないところだけが取り柄だと思ってたのに、それも失ってしまったんですね……」

 

 アネモネは涙を拭う素振りを見せた。もっと他にも取り柄あるだろ、と思ったが、考えても意外と思い浮かばない。強いて言うならば、家柄がいいことくらいだろうか。うん、典型的なダメ貴族の発想だ。

 

 というか、そもそも俺はめちゃくちゃ嘘つきだ。どれくらい噓つきかというと、俺の発言で嘘じゃないことを探す方が大変なくらい嘘つきだ。世界初のプロ嘘つきを自称させてもらいたい。


これほどまでに嘘つきなのに、嘘をつかないところが取り柄だと思われているということは、嘘が上手いことになる。つまり、俺の取り柄は嘘が上手いところと言えるんじゃないだろうか。

 

 「あのな、俺はめちゃくちゃ嘘つくぞ?」

 

 「誇って言うことじゃないと思います」

 

 「褒めるなよ」

 

 「褒めてないです」

 

 「あ、そう。――で、何の話だっけ?」

 

適当を抜かし過ぎたせいで、何の話だったか思い出せない。

 

 「副長官に取り柄はないっていう話です」

 

 「ああ、そうだったそうだった。言っとくが、俺にも取り柄の一つや二つ――」

 

 「いや、新兵器の話だろ」

 

 柄にもなくアネモネが俺の話に乗ってきたせいで、ツッコミ役がいなくなってしまっていた。見かねてその空席を補ってくれたのは、フェイロンだった。

 

 「そうでしたね。副長官、見え透いた嘘をつくのは止めてください」

 

 「嘘じゃないんだって。今回、王都に呼び出されたのはそれを受け取るためだったんだよ」

 

 「嘘じゃないとしても、魔法の威力か回数か、あるいはその両方を誇張してますよね?」

 

 「誇張じゃないって……」

 

 嘘も誇張も同じようなものだ。しかし、誇張と言われちゃもうどうしようもない。俺は反論らしい反論をすることはできなかった。視線でフェイロンに助けを求める。

 

 「俺もその魔法を見たが、本当に一面焼け野原になるような威力だった」

 

 「じゃあ、千発という回数が誇張されているということですね」

 

 「それは俺もわからんが、魔法陣に僅かな魔力を注ぐだけでいいらしい」

 

 「へえ、そんな伝説級のアーティファクトみたいなことが、本当にできるんですかね」

 

 アネモネはなぜか少し喧嘩腰だ。やはり昨晩のことを引きずっているのだろうか。もしそうなら、何を言っても無駄かもしれない。

 

 完全に思考が停止してしまった俺に代わって、フェイロンがアネモネの説得を続ける。

 

 「自分で試してみたらどうだ?」

 

 「ええ、それがいいでしょうね」

 

 「そういうことだ。エル、あの魔法陣を貸せ」

 

 「え?」

 

 フェイロンなら何とかしてくれるだろうと思って、話を聞いていなかった。どうなったんだ?

 

 「魔法陣をアネモネに使わせる」

 

 「ああ、それは名案だな」

 

 確かに、自分で使ってもらえば、その威力はわかってもらいやすいだろう。それと、消費される魔力の量も感じられるはずだ。

 

 「では、この会議が終わった後には、新兵器の実力を見せてもらいましょう」

 

 どこか武人じみた口調でアネモネが言い放ち、この話題は終わった。アネモネは報告を続ける。

 

 「もう一つ、ご報告があります。『黒の刃』の拠点がわかりました」

 

 「え、拠点ってソルティシアだろ?」

 

 「いえ、今回の作戦のために砦の近く、まあ領外ですが、他の拠点を置いているらしいです。今後、実地調査を行いたいと考えています」

 

 「幹部のくせに、組織のこと喋りすぎだろ」

 

 「こちらとしては、ありがたい限りですけどね」

 

 ふふふ、と笑ったアネモネの顔は、気味の悪いほど柔らかなものだった。たぶん幹部の口が軽いのではなく、アネモネが拷問、じゃなくて尋問の達人なんだろう。

 

 「さて、調査隊からの報告に移りますか」

 

 「はい。私からまとめて申し上げます」

 

 アネモネの言葉に反応して口を開いたのはアルバート。目立ちたがり屋なのか、調査隊のリーダー的役割を務めているのかは知らないが、仕事をこなしてくれるのならそれでいい。

 

 「昨夜のご、尋問から得た情報をもとに早朝から調査を行った結果、使われていない山小屋にて《悪魔の塩》を発見しました」

 

 「おお、それで?」

 

 変なところに「ご」が挟まっていたが、きっと噛んだだけだろうということで、触れることはしなかった。

 

 「《悪魔の塩》を摂取してしまった住民や隊員を砦に集め、症状緩和のために投与しました」

 

 「そうか、ありがとう」

 

 これで『黒の刃』に攻撃を仕掛けるまでの余裕ができた。あとはそれが上手くいくかどうかにかかっている。

 

 「他に話すことがあるやつは?」

 

 みんなの報告が落ち着いたところで、俺は自ら口を開いた。こんなタイミングぐらいでしか、俺が自発的に話すことはない。

 

 「質問、よろしいでしょうか?」

 

 手を挙げたのは、調査隊の一人。名前は聞いた気がするが、思い出せない。まあ、いっか。

 

 「君、いいよ」

 

 「はい。『黒の刃』へ攻撃を仕掛けることは、侵略行為にはならないのでしょうか?」

 

 「ああ、そのことか」

 

 これは俺もフェイロンに聞いた。『黒の刃』がソルティシアの特別部隊的な立ち位置にあるのであれば、その『黒の刃』に攻撃を仕掛けてしまえば、侵略行為になるのではないかと。だが、フェイロンの答えはノーだった。

 

 「それなら問題ないよ。表向きにはソルティシアは『黒の刃』と対立していて、国が管理しているということを否定しているみたいだから。国が犯罪組織を擁しているとなると、体裁が悪いからね」

 

 「そうでしたか。浅学を晒してお恥ずかしい限りです」

 

 俺が答えると、その女性隊員は露骨にしょぼんと肩を落とす。俺がいじめたみたいだから止めてほしいんだけど。

 

 「いやいや、こちらの説明不足だ。申し訳なかったね」

 

 俺は顔の前で手をぶんぶんと振り、こちらの落ち度であったことを強調した。これでパワハラとかセクハラとか言われて、素行に問題ありとか評価されたら堪ったもんじゃない。そんな俺を見て、アネモネがため息をついてから言った。

 

 「副長官って女の子をいじめるの好きですよね」

 

 「いじめてないからね?」 

 

 「加害者はみんなそう言うんですよ」

 

 会議室内のみんなの白い目が痛かった。

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